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第219話 選択の結果

 その後は昼食を食べて宿に戻り、剣の手入れのやり方などを教わって1日が終わった。


 いつの間にか帰ってきていたらしいヘルムートと共に夕食を摂り、やることもないので早めにベッドへ入る。

 横になりながら地図を広げてみると、ロッソはルーマス大陸の西に位置する街だった。ルワノフと同じように、山脈の麓にあるようだ。

 ロッソの北にはアドルドという国がある。東にはアルディナへの単独リンクがあるというヘレンシスカ、南にはロワーヌ。ここからいかようにも道はありそうだ。

 ヘルムートは一体どの方面へ行くのだろう。約束の地とは一体どこで、そこに何が待っているのだろうか。


 そんなことを考えながらいつの間にか深い眠りに落ちていった。






 私たち3人の会話は少ない。

 多分、全員元々口数が多い方ではないし、ここに来て別段話題もないというのもある。ヘルムートと過ごす最後の食卓なのだが、至って静かだ。


「何時くらいに発つんですか?」


 そんな静寂を打ち消すように、私は口を開いた。


「食べ終わったらすぐ行くつもりだ。やることと言ったら後は君たちと別れの挨拶くらいだよ」


「……そうですか」


 いよいよ本当にお別れだと思うと寂しい。別れは、いつだって誰とだって慣れない。


「私と共に来てもいいのだよ、シエル」


「えっ!? い、いえ、大丈夫です」


 物思いにふけっていたので突然のことに対処しきれず、訳の分からない返答になってしまった。

 ヘルムートはニヤついた顔で私を見つめており、セスは何も気にした様子は見せなかった。


 完全にからかわれた。悔しい。


 でも最後の別れでしんみりしている私を元気付けてくれたのかもしれない。そう思うことにしよう。


「では2人共、元気でね」


 言葉通り本当に朝食が終わってすぐ、ヘルムートは荷物を持って私たちに別れを告げた。

 昨日は準備に1日を費やしたらしい割には、荷物の量はそう増えていない。腰に新しい剣が下げられているくらいしか変化は見当たらないほどだ。


「ありがとうございました」


 セスはただそれだけを言った。

 何ともセスらしい別れの挨拶だ。


「ヘルムートさん……貴方のお陰で僕は今ここにこうして立っている。本当に感謝しています」


「すべては選択の結果だ。君は私に出会ってから今まで、様々な選択を経てここにいる。そして私もまた同様であり、セスもまた同様だ。我々は常に選択を迫られ、その結果が混じり合うことで世界は成り立っている。それによって選びたくとも選べないこともあるかもしれない。選びたくなくとも選ばなければならないこともあるかもしれない。それでも君は、君にとって何が一番大切か忘れてはいけないよ」


「何が一番大切か……」


 深い。

 私とセスとヘルムート、それぞれが選択した結果が今この状況を作り出している。誰か1人でも選択を違えば別の結果になっていた。ということだとは思うのだが、今この場で言葉のすべてを理解することは難しい。


 でもだからこそ、何が一番大切なのかを迷ってはいけない。


「はい、僕はもう迷いません。ありがとうございます、ヘルムートさん」


「いい目だ。君たちの行く末が明るいことを祈っているよ。ではね」


「さようなら、ヘルムートさん……」


 多分、もう二度と会うことはないのだろう。

 きっとそう遠くないうちにヘルムートはモニカの元へと旅立つ気がする。背中を見送りながら私はもう一度ヘルムートに別れを告げた。


「シエル、今日はちょっと診療所の手伝いに行こうと思うんだ。数日居候させてもらったからね。夜までには戻るよ」


「あ、うん、分かった」


 感傷に浸っていた私とは裏腹に、いつも通りの口調でセスは言った。

 家に厄介になっていたという、ドワーフの人がやっている診療所か。

 そういうことなら私は1人でロッソの観光でもしてみようか。セスを見送ってから、私も街へと繰り出した。

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