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第217話 剣・1

「セスを捨てて私と共に来るのなら、君も連れていってあげよう」


 首を捻る私にヘルムートが言う。


 私がそれで首を縦に振るわけがないと分かりきっているからこその言葉だ。

 そしてその言葉の裏に、これ以上詮索するなという意図が見える気がした。


「僕はもう、セスのものです」


「セスのもの……ね」


 ヘルムートは不敵な笑みを漏らして私の言葉を反復する。


「では、これ以上君にちょっかいを出してセスに怒られる前にそろそろ退散するとしよう。また明日ね、シエル」


「……おやすみなさい」


 冗談か本気か分からない台詞を言いながら自分の部屋へと戻っていくヘルムートを、私は素直に見送った。


 疲れた。

 これ以上ヘルムートと会話していては精神が消耗する。

 休もう。

 今日はセスと再会できたことだけでも奇跡的だったのに、色々ありすぎた。


 想いを伝えるにしてもこんな結果になるなんて思ってもみなかったし。






 次の日、約束通り朝早い時間にセスは私たちの宿へと来た。

 私たちが泊まっている部屋の近くは空いていなかったので、上の階の部屋を取り、今はヘルムートと3人で朝食を摂っている。


「君の荷物だ」


 そう言って渡された私の荷物は、あの時のまますべて残されていた。

 セスは私が死んだと思っていた間も、荷物の中身を見ることはなかったらしい。

 何故なのかと聞いてみたら、"君が死んだことを受け入れられなかった"という、素直な返事が返ってきた。

 しかも、私たちがロッソを探し回っていた最初の3日間は、セスは知り合いの家から出ることもなかったらしい。

 何故なのかと聞いてみたら、それも先程の理由と同じだと教えてくれた。思っていたよりも私の死に塞ぎ込んでいたいたようだ。


「だから剣もまだ調達していないんだ」


 そう言って苦い笑みを浮かべるセスの腰には、確かに剣は下げられていない。

 セスにとって剣は大事なものだろうに。


「ごめん。セスの剣、回収しようと思ったんだけど戻ったときにはなかったんだ」


「構わないよ。別にあれにこだわっていたわけではないし。昨日買おうと思っていたんだけど途中で君たちを見つけてね。それどころじゃなかった」


「ならば、私の剣を買ってくれないかな」


 私とセスの話を黙って聞きながら朝食を食べていたヘルムートが口を挟んだ。


「え、ヘルムートさんの剣を?」


 思わずそう尋ねてしまったのは私だ。

 ヘルムートはここに至るまでモンスターとの戦闘時は剣を使用していた。これからどこかに行くとするならば必要なもののはずだ。


「金がないからね。これを君が買ってくれるならその金で安い剣を買い直そうと思っている。どうかな。悪いものではないと思うのだが」


 そう言いながらヘルムートが差し出した剣を、セスは何も言わずに受け取った。

 そして鞘から抜いた剣を真剣に見つめ、またそれを鞘へと納めた。


「……いい剣ですね。これを使い慣れてしまうと他の剣を使えなくなりそうですが、買いましょう」


 見ただけで何が分かったのか私にはさっぱりなのだが、セスは財布から白金貨を取り出してテーブルの上に置いた。


「……!?」


 じゃらじゃらと置かれたそれらは、ざっと見で20枚くらいはありそうな気がする。


 一体剣の相場はどうなってるんだ。

 ちらっと覗き見た武器屋の剣はそんなに高くなかった気がするんだけど。これはあれか? 相当の業物ってやつなのか?


「取引成立、だな。君のような手練れに使ってもらえるならその剣も本望だろう」


 ヘルムートもすんなり納得しているようなので、その剣はそれくらいが妥当ということか。恐ろしい。


「これで色々準備を整えて、明日発つとしよう。私は今日は別行動とさせてもらうよ。また夕食でも共にしよう」


「……そうですか。分かりました」


 今日はも何も、明日発つのなら実質お別れみたいなものだ。

 寂しく感じるが致し方ないのだろうか。ヘルムートは私が女であることも、セスと恋仲になったことも知っているのだし。


「僕たちはどうしよう?」


 朝食を食べ終わるなりさっさと宿を出て行ってしまったヘルムートを見送って、私はセスに聞いた。


「ちょっと今日は俺に付き合ってもらおうかな」


「いいけど……どこに?」


「君の剣を見繕みつくろおうと思ってね」


「剣??」


 セスの言葉の意図が分からず、私は首を捻った。

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