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第210話 再会・3

「ほら、せっかく会えたんだ。話したいことあるだろう? ごゆっくり」


 ヘルムートは意味深に笑ってそう告げ、私の肩を掴んで力を入れる。意外に強いその力の許すままに、私はストンと椅子に腰を落とした。

 今までセスに言えなかったことを言え、という意味だろうか。

 いきなりで心の準備もできていないというのに。


「ではまた明日。セス、ご馳走様」


「ありがとうございました。また明日に」


 引きとめることもなくすんなりヘルムートを見送ったセスを、若干憎く感じた。


「……食べようか」


 ヘルムートが去ってから訪れた長い沈黙を破るようにセスが口を開いた。

 話をしていた私も、話を聞いていたセスも今まで料理に手をつけていなかったので、ほとんどそのままの状態で残されている。もう完全に冷めてしまったことだろう。


「うん、食べよう」


 ドワーフの街だからなのか、今まで訪れた場所でもこの店でも肉がメインだ。近くに川もあったと思うのに、力仕事をする人が多いからそうなのだろうか。

 とりあえず一番近くにあった肉煮込みを切って口に入れる。濃くてお米が欲しくなるような味だった。


「シエル」


「……ん?」


「無事に戻ってきてくれて本当によかった。ありがとう」


「……うん」


 真っ直ぐに私を見つめてセスが言った。

 それは心から安堵しているような表情でもあり、泣きそうな表情でもあった。


「セスはさ、リンクの前で2日も待っててくれたんだよね」


「……信じたくなかったんだ。可能性を捨てきれずに1日が経って……ようやく君が戻ってくることはないのだと、悟った。悟った瞬間どうしようもない後悔と喪失感に見舞われて、そこでまた1日絶望に打ちひしがれた」


 絞り出すように告げられたその言葉は、およそセスらしくないと思った。

 死に慣れているはずのセスが、そんなになげくほど私の死を悲しいと感じたのだろうか。エレンのように、庇われて自分1人が助かってしまったから?


「だから俺は君が最後まで死に抗ってくれたことを嬉しく思う。辛い思いをして、それでも生きて……俺を探してくれて、ありがとう」


「…………」


 そう言って悲しげに笑う。

 こんなにもセスが素直に気持ちを吐露とろすることが今までにあっただろうか。こんなにも純粋な感情を向けてくることが今までにあっただろうか。


 それが意味するものとは、なんだろうか。


 分からない。分からないけど、今なら言える気がした。

 私の死を嘆き、私の生を喜んでくれた今なら、言っても拒絶されることはないのではないかと、そう思えた。


「ねぇ、セス。話したいことがあるんだ。今まで、言う必要はないと思っていた。言って拒絶されるくらいなら……現状維持で充分だった。でも……もう自分を偽るのは終わりにしたい」


「……分かった」


 意を決した言葉にセスは悲しげな笑みを浮かべたまま、何かを悟ったように目を伏せて答えた。

 脈絡はなかったはずなのに、疑問に思う様子も感じられない。

 それはまるで……。


「僕が何を言いたいのか、分かっているみたいだね……」


「どうかな……」


 困ったように笑って視線を逸らすその仕草が、私の言葉を肯定しているかのように感じた。


 今まで、セスにそれを悟られる要素はあっただろうか。男装していた、というのならば話は分かるが、シエルは男なのだ。

 しかしあの様子を見るに、私が話そうとしていることに何らかの心当たりがあるのは間違いない。そして私にそれ以上の隠し事はないのだから、セスの予想は的中しているはず。


「話しづらくなった? でも安心していいよ。今なら俺は君の全てを、受け入れられる」


「……っ」


 想像の範疇はんちゅうを超える言葉だった。


 私の全てを、受け入れる。


 他人の受け入れ方を知らないと言っていたセスが、私を受け入れる。そう言ってくれている。

 私の緊張を解すかのように、柔らかい笑みを浮かべて待っている。


 ならばもう、揺らがない。

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