第209話 再会・2
「では、感動の再開も果たしたことだし、共に夕食でもどうかな。積もる話もあるだろう。こちらから誘っておいて何だが、私たちはあまり金を持っていなくてね。ご馳走してくれると嬉しいのだが」
このままここにいるのも、と思ったのかヘルムートが口を開いた。
その茶目っ気がある言い方に、セスがフッと笑って力を抜いたのが伝わってくる。
「それは、もちろん……。シエル、ほら、顔を上げて」
セスの胸に顔を埋めたまま2人のやり取りを聞いていた私にセスが言った。
溢れ出た涙がだいぶセスの服を濡らしているのだが、それでも涙が止まらない。とてもじゃないけど顔を上げられる状態じゃなかった。
「……っ」
「シエル……泣きたいのは俺の方だよ。俺の罪悪感をこれ以上抉るのはやめてくれ」
セスはそう言って困ったように笑っている。
腕で涙を拭ってセスを見上げると、やはり困ったように笑みを浮かべて私を見下ろしていた。
「君は相変わらず……よく泣くね」
「ごめん」
優しげなセスの顔を見ていたらまたじわじわと涙が溢れてきて、私は再び腕で涙を拭った。
この光景をヘルムートも見ているのだと思うとものすごく恥ずかしくて、私はその顔を見ないようにして、歩き始めたセスの後をついて行った。
夕食を食べにやってきた店は、この4日間で訪れたことのない店だった。
セスにどんなお店か聞いてみると、セスも来たことはないのだと申し訳なさそうに笑って言った。
「一体何があったのか教えてほしい」
適当に食事を頼んだ後、向かいに座るセスが私を真っ直ぐに見つめて言った。
周りはドワーフや冒険者が多く、ガヤガヤと煩い。ともすれば聞き逃してしまいそうな声だったが、はっきりとした意思を感じられた。
セスからすれば私は死んだと思っていたのだろうから、何があって私がここにいるのか当然知りたいだろう。
「……なるほど」
何とかすべてを説明し終えるとセスは静かにそう呟いた。
もちろん、私が女であることは話していない。それを言うとするならばさすがにヘルムートがいる状況では憚れるし、まだ心の準備もできていない。
セスは料理が運ばれてきても手を付けず、話の途中で口を挟んでくることも一切せずに、最後まで静かに私の話を聞いていた。
「ヘルムートさん、シエルを助けていただき、ありがとうございます」
そして何よりも一番先に、そう告げた。
「いや、私も私の目的があってそうしたことだ。利害の一致というやつだよ」
「利害の一致?」
思わずそう聞いてしまったのは私だ。
ヘルムートは私をミトスに送り届けた後のことをはっきりと明言していなかった。目的があるようには見えなかったのだが。
「まぁ、それは後にして。セス、君にも何か言いたいことがあるのではないか?」
「あると言えばありますが……今はシエルが無事に戻ってきてくれただけで充分です」
「……なるほど、そうか」
安堵の表情を浮かべているセスに、ヘルムートが少し間を開けて言葉を返す。
その言葉の裏に何かを感じたのかセスは若干眉をしかめたが、何も言わなかった。
「君はどこの宿に泊まっているのかな? 目ぼしい所は回ったのだが見つけられなくてね。できれば明日にでも合流させてもらいたいのだが」
そんなセスを意に介さず、ヘルムートは首をすくめて言った。
「すみません、お手数をおかけしました。知り合いの所にいるもので。明日そちらの宿に移動させてもらいます。シエルの荷物も持っていますし」
ロッソに知り合いがいるのか。しかも家に泊めてもらえるほどの関係とは。リンクから出た先がロッソの近く、という話をした時にもそんな話はしていなかったのに。
「では、それでよろしく頼む。君たちには積もる話もあるだろうから、先に宿に帰っているよ」
「え……ヘルムートさん?」
そう言いながら立ち上がったヘルムートにつられて、思わず私も立ち上がってしまった。
話の途中で何度か食事に手をつけてはいたみたいだが、それでもほとんど食べていないと言って等しい。
そんなにあからさまに気を遣われると気まずい。




