第204話 帰路・2
「あの村は、ゲオルグさんが作ったんですか?」
短い休憩を終え、再びレオの背に跨って私は聞いた。
レオは相変わらずカデムよりも早いスピードで軽快に走って行く。この感じなら私とセスが村を出た時よりもかなり早く着くだろう。
「そうだ。ゲオルグは親を亡くした子供や、他で生きられないような弱い者をあの村に集めて支援している。ミトス以上に弱肉強食だからな、ルブラは……」
「なるほど……。すごいんですね……」
「綺麗事がどこまで通用するか、などと最初は思っていたが、意外と上手くいっているようだな。ゲオルグだけではなく、その考えに同意する他の魔族も時たまあそこを訪れ支援をしたり、行き場のない者を連れて来たりしている。私やモニカもかつてはそうしていた」
行き場を失くした者の最後の砦、ということか。子供だけではないのだろうけれど、イメージ的には村全体が孤児院みたいな感じだろうか。
「どうしてゲオルグさんは……それを始めたんですか?」
「モニカ……ゲオルグの妹は、ヴォルデマ族の象徴ともいえる白い炎を操る力を持たずして生まれたために、親からも一族からも捨てられた。だからゲオルグは妹のために故郷を飛び出し、たった1人でモニカを育て上げたのだ。そんな経験から同じような境遇の人間を放っておけなかったのだろう」
「そう、だったんですか……」
「ゲオルグとモニカが冒険者として安定した生活を送れるようになった頃、私は2人と出会った。一緒に旅をしたり、あの村の支援をしている内にモニカと心を通じ合わせた私は、モニカと2人で旅をしたい、とゲオルグに申し出た。ゲオルグも私ならば、とモニカを任せてくれた。なのに私を守るためモニカが命を落とす結果になって、さぞゲオルグは私が憎かったことだろう。死んで楽になど、させたくなかっただろうさ」
「…………」
私はヘルムートの前に座っているのでヘルムートの顔は見えない。だが自嘲するかのようなその言葉からは、激しい後悔の念が感じられた。
しかし、苦労して育てた妹が想い人を守るために命を落としたら、それはやはり何としてでもその人には生きてほしいだろう。いいか悪いかは別として、ゲオルグがこのような手段を取った気持ちも分かる。
「何があってモニカさんは命を落としたのか……聞いてもいいですか?」
「ミトスの人間に利用されたのだ。私を……クビト族の血の力を」
それを聞いてもいいのかどうか悩んだが、ヘルムートは躊躇う様子も見せずに話してくれた。
「治癒の力を……?」
「そうだ。モニカと2人でミトスを旅していた途中、ひどい怪我を負ったヒューマのパーティーを見つけた。4人組で……1人は助からなかったが、残りの3人は私の血の力を使って何とか助けられた。3人は私たちにいたく感謝し、お礼をしたいから近くの街まで共に来てほしいと申し出た。一度は辞退したがどうしてもと押し切られ、結局私たちは3人について行った……が、それは私たちを騙すための口実だったんだ。街に着いて案内された場所でモニカを人質にとられ、私は血を提供するように強要された。モニカを廻し餌として、ね」
「そん、な……ひどい……」
恩を仇で返すどころの話ではない。
下衆、そんな言葉を出しかけて飲み込んだ。
「しかしやつらは……モニカが炎を操る能力を持っていないことを聞いていたために、モニカの力を封じることをしなかった。実際道中でもモニカは戦闘に参加していなかったから、戦う力を持たないと思い込んでいたのだろう。だがモニカは炎を操る力は持っていなかったが、呪術は使えた。だから私を助けるため、呪術を使って3人を呪い殺したんだ。自分の命を代償として……」
「自分の命を……代償として……」
「今まであの村を支援してきた私たちにとって、弱き者を助けるのは当たり前のことだった。見返りを求めていた訳でもなかったのに、こんなにもひどい仕打ちを受けるなんて予想もしていなかったよ。魔族には血も涙もないような人間も多いが、地族も大概だと思ったね」
「…………」
ヘルムートは淡々と話しているが、ここに至るまで一体どれほど悔やんで、憎んで、悲しんだのだろう。
逆の立場なら彼女を殺して共に死んだ、というヘルムートの言葉も分かる気がする。これほどの絶望の中、1人残されるのは辛い。




