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第202話 すれ違う心・3

「それを換金しただけでは心許こころもとないだろう。仲間と合流するまでは私が何とかするつもりだ」


 少し離れたところから話を聞いていたヘルムートが口を挟んだ。

 セスと合流するまでの間、金銭的援助をしてくれるということか。


「ヘルムートさん、ありがとうございます。仲間から荷物を受け取ったら、その分はお返ししますね」


 私の言葉にヘルムートはどことなく悲しげに微笑んだだけで、何も言わなかった。

 ゲオルグもまた、何も言わずに部屋から出て行った。ローブを取りに行ったのだろうか。


「あまり食欲がないようだが、もう少し食べた方がいい。私はその間準備をしてくるから」


 そう言い残してヘルムートは隣の寝室へと入って行った。

 私も食べておきたいところなのだが、正直呼吸が苦しくてあまり食が進まない。全速力で走って呼吸が乱れている時にご飯を食べられるかと言ったら、それは誰でも無理な話だろう。今の私はまさしくそんな状態だ。

 それでもせっかく用意してもらった食事なので、何とか口に運んで半分くらいは食べた。味付けはシンプルながら肉も柔らかくなかなか美味しいので、体調が万全の時に食べたかった。


 ローブを取ってきたゲオルグと、準備を済ませたヘルムートがこの部屋に現れたのはほぼ同時だった。

 びちゃびちゃ状態のローブをゲオルグから受け取り、温風を作り出して生乾き程度まで乾かす。着る予定はないのでそれくらいで十分だ。


「ゲオルグ、レオを借りたい。リンクの手前で村に戻すから」


「……好きにすればいい」


 ローブを乾かしている時にヘルムートとゲオルグがそんな話をしていた。

 レオというのは、あの白い獣のことかな? あの白い獣ならば足も速いし、森を1匹だけでも抜けられそうではある。






 全ての準備が整い、外に出た時には辺りは真っ暗だった。

 ゲオルグの手の平から白い炎が立ち上っていて、それが周りを仄かに照らしている。あの白い炎は私が扱える元素の炎とは違う。きっとあれで私の傷口を焼いたのだろう。


 白い獣は、あの時と変わらずこの家の近くに繋がれていた。ヘルムートが荷物を積み込んでも嫌がる素振りも見せず、大人しくしている。


「レオ、頼んだよ」


 ヘルムートが白い獣を撫でると気持ちよさそうに目を閉じて顔をなすりつけていた。仕草がまるで猫のようだ。


「さて、行くとしようか。シエル、準備はいいか?」


「は、はい」


 ヘルムートと共にレオに乗る。その様子をゲオルグはただ静かに見つめていた。


「もう、お前に会うことはないのだろうな……」


 突然、消え入りそうなほど小さい声でゲオルグが呟いた。

 ヘルムートに向けて言っているのだろう。


「さぁ、どうだろうな。私自身、この先のことはあまり決めていないものでね。ただまぁ、ここにはもう戻らないだろう」


「俺はモニカのためと言いながら、お前の気持ちを何も考えてはいなかった。でも同時にお前も俺の気持ちなど考えていなかっただろう。結局、俺たちはモニカがいなければ相容れることのない関係だったんだ」


「…………」


「それでも今こうして去っていくお前を見ていると、寂しく感じる。俺はただ、モニカがいなくなった穴をお前と共に埋めたかっただけなのかもしれん。どのようなやり方をすれば、俺はそれができたのだろうな」


 妹を亡くした寂しさを、愛した人を亡くしたヘルムートと共有したかった。そして2人で立ち直りたかった。ゲオルグはそう言いたいのだろうか。

 なのにヘルムートがそれを望まないからこのような結果になった。

 私が口を挟めることではないので何も言うつもりはないが、その穴が埋まることもなくヘルムートさえも失うことになるゲオルグに同情の念を隠しきれない。

 きっと私がこうしてここに来なくてもその穴は埋まらなかったのだろうけど、何だか申し訳なくなる。

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