第201話 すれ違う心・2
「…………」
ゲオルグは答えない。
ゲオルグにとっては、その先もずっと自ら望んで生き続けないと何の意味もないということか。
その気持ちは分からなくもないけれど、他人の心はどうにもできない。望まない人間に無理やりそうさせることにこそ、意味がないのではないだろうか。
まぁ、本人が望んでいないにも関わらず自らの命を犠牲にしてセスを助けてしまった私が言っても、説得力はないのだけれども。
「……お前たちは本当によく似ているよ。弱者を簡単に切り捨てるこのルブラで、お前は弱者のための村を作り、ただ1人でそれを支えている。モニカも同様だった。困っている人間に手を差し伸べ、自らの身を顧みず他者を助ける。この世界に必要なのはお前たちのような人間だ。できれば、殺したくはないのだが?」
何も言わないゲオルグに、ヘルムートが優しく諭すように言った。
モニカというのはゲオルグの妹であり、ヘルムートの恋人だった人だろう。
それにしても弱者のための村を作った、ということは、この村はゲオルグが作ったということだろうか。弱者のためにと村1つ作ってしまうなんてすごい。すごいのだが、そこまで他者のために尽くせる人が地族や天族を餌としか考えていないなんて何だか少し残念だ。
「……この世界に必要なのは俺のような人間だと言いながらも、従わなければ殺すと言うのか」
長い沈黙を経て、ゲオルグが絞り出すように口を開いた。
「ああ。私の為すべきことは1つだからな。その弊害となるものは排除しなければならない」
ヘルムートは即答だ。真剣な顔でゲオルグに真っ直ぐ向き合っている。それが言葉に嘘はないのだと知らしめているようだった。
「……何がお前をそうさせたんだろうな。天族とシエルがお前たちのようだったからか? 1人残された天族と自分を重ねて憐れんでいるのか?」
ゲオルグもまたヘルムートを真っ直ぐ見つめていたが、フッと視線を逸らして諦めたかのように悲しく笑って言った。
「……そうかもしれないな」
そんなゲオルグに呼応するようにヘルムートも悲しく笑った。
「……俺は一体何のためにお前を騙し、命乞いを無情に蹴ってまでここに連れて来たんだろうな。ヘルムートに人を喰わせることに固執しすぎて目的を見失っていたのかもしれん」
ゲオルグはそう言いながら懐から私が着けていた触媒を出し、私に差し出した。返してくれるということだろう。お礼を言い、素直に受け取る。
「でも貴方がいなければ……僕は確実に生きていなかった。だから感謝しています。ゲオルグさん」
「…………」
私の言葉にゲオルグは何も答えずに、胸の文様がある場所に手を当てた。
「解呪」
「……っ!?」
ゲオルグがそう口にした瞬間、針で刺されたような痛みが走り思わず身を引いてしまった。
が、ゲオルグはそれ以上何かをすることもなく、私を見下ろしている。今ので解呪ができたということなのだろうか。
試しに水を湧かせてみるとすぐに手の平一杯に水が溜まった。
「ゲオルグさん、ありがとうございます」
「すぐ発つつもりなのだろう? お前のローブは先ほど洗ったばかりでまだ乾いていないが、持ってこよう」
私から視線を逸らしてゲオルグが言った。
若干気まずそうだ。
「洗った……? あれをどうするつもりだったんですか?」
「金に換えるつもりだった。術師用のローブは破損していたとしても高く売れるからな」
なるほど、力を増幅させる役割を持った特殊な生地だからか。
換金してこの村の人たちのために使うつもりだったのだろう。
「そういうことなら、あれはゲオルグさんの自由にしてください。また買いますから……」
「お前、金は全部カデムに積んだままだったんだろう? その荷物を回収するまでどうするつもりだ?」
「……たしかに、そうですね……。考えていませんでした……」
お金が入ったリュックをリッキーに括り付けたままだったことを忘れていた。
セスがそれをすぐに使ってしまうことはないだろうが、いつ合流できるかも分からない。それまでの食事代や宿代すら今は持っていない状況だ。ローブが換金できるのなら、それで一度お金を作った方がいいかもしれない。
ゲオルグさんの自由にしてください、なんてかっこつけたこと言ってしまった手前、今さら返してくださいと言うのも恥ずかしいけれど。




