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第200話 すれ違う心・1

 ヘルムートが用意してくれた食事は、パンと葉物野菜、焼いた何かの肉だった。

 この肉が何の肉か聞く前に、人肉じゃないから安心して食べるといい。私だって普通の食事を摂るものだから、とヘルムートは苦い笑みを浮かべながら言った。


「ゲオルグに解呪させて早めにここを出よう。呼んでくるから食べていてくれ。それは全部君の分だから」


 私の返事も待たずに、ヘルムートはそう言い残して出て行ってしまった。


 ゲオルグは素直に解呪してくれるのだろうか。

 ヘルムートはそれも私を食べれば解決すると言っていたけれども、もしゲオルグがそれを拒否したらどうするつもりなのだろうか。

 解呪を諦めてこのままミトスに向かうつもりなのか……それとも、あくまで解呪にこだわるのか。

 ヘルムートの考えは分からないが、もし解呪にこだわるのならば拒否された場合、ゲオルグを殺すという道しかなくなる。私を食べれば解決、ということはそれができるだけの力を取り戻せる、という意味なのは間違いないはず。

 しかし、果たしてそれは正しい道なのだろうか。仮にヘルムートにゲオルグが殺せるのだとしても、それをしてまで私をミトスに帰すことに意味はあるのだろうか。


 そんな物思いにふけっていたら、ゲオルグを連れてヘルムートが戻ってきた。


「……喰ったというのには偽りないだろうが、その割にずいぶんと自由にさせているじゃないか」


 ダイニングテーブルで食事をしていた私を見るなり、不機嫌そうにゲオルグが言った。

 それはそうだろう。術は封じられているが、隣の部屋にはヘルムートが所持している武器だって残されたままだ。それを手にして逃げ出すことだって状況的には可能なのだ。まぁ、そんなことをしたところで生き延びられるとも思えないし、元よりヘルムートを裏切るつもりもないが。


「シエルはお前が私にと獲ってきた餌だろう? お前の望み通りシエルを喰ったのだから、その後に私がどう扱っても構うまい」


「……それで? そのシエルを連れてミトスに行くから解呪しろと?」


「そうだ」


 その話をしながらこちらに向かってきたのだろう。ヘルムートはさも当然かのように答えているが、ゲオルグの表情は依然として険しいままだ。


「ミトスに連れて行った後はどうするつもりだ?」


「……お前には関係のないことだろう」


 怪訝そうに問うゲオルグに対し、ヘルムートが冷たく返す。感情の籠っていないこの冷たい感じが本当にセスとよく似ていると思った。


「関係ないだと? 関係ないわけあるか。シエルをミトスに帰して死に場所を探すつもりなら俺は許さんぞ」


「だとしても今さらシエルをお前に返すつもりはないし、解呪しないと言うのならばお前を殺すだけのことだ」


「……本気か? お前に俺が殺せるとでも?」


「嘘だと思うのなら試してみても構わないが、私がお前なら素直に解呪して見送るけどね。ここにはまだお前が必要なのではないか?」


「…………」


 何だかとんでもない話になっている。

 私をミトスに連れて行った後のことをゲオルグが知る術はないので、ゲオルグとしても簡単には譲れないのだろう。だったらゲオルグもついて来ればいいのに、と思うのだが、この村にゲオルグが必要だと言うのなら、そういう訳にもいかないのかな。


「ゲオルグ、お前の望みは私が自ら望んで生きることなのだろう? このままここに居続けていても、その時は永遠に来ない。でも今私は自ら望んでシエルを喰い、ミトスに行きたいと願っている。ここで死を望む私と、ミトスに行くために一時的にでも生を望む私のどちらに意味があると思う?」


「……その後に死を望むなら同じことだろう」


「同じこと……か。そうか、お前にとっては同じことなのか……。私には今回のこの行動には意味があった。久しぶりに、生きたいと思った。目的を果たした後に再び意味を失うのだとしても、一度は人を喰らい、生きようと願ったことに意味はあったのだと……お前にも認めてほしかった」


 ゲオルグの返答にヘルムートは悲しげな表情を見せてそう言った。

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