第199話 決意・2
「……う、腕?」
「落とした腕はちゃんと再生させるから安心するといい」
苦痛を少なくする方法、とは剣で落としてから食べるということらしい。
確かにそのままムシャムシャやられるよりはその方が格段に楽だろう。しかし欠損した腕も再生できるとはクビト族の能力はすさまじいな。
「……分かり、ました」
「動かないように。動くと余計に苦しむぞ」
「…………」
ヘルムートが構えた剣から禍々しい気配のようなものを感じる。例えるならば、刀身に見えない煙が纏わり付いているような感じだ。きっとそれが魔気なのだろう。
怖い。
怖いが自分でそう決めたことだ。
しかし余計に苦しむのはごめんなので、私は強く目を閉じて大人しくその時を待った。
結論から言うと、辛かったが拷問を受けた時に比べればまだマシだった。
ヘルムートが躊躇わずに両腕を落としてすぐに回復させてくれたおかげで、苦痛にもがく時間は短くて済んだんだと思う。
しかし無くなった腕が再生していくのには何とも言葉に言い表せない不快感があったし、床に落ちた自分の両腕を見下ろした時には吐き気を催した。そしてそれをこれからヘルムートが喰うのだと思うと、助けてもらっておきながら悍ましさすら感じてしまった。
そんな私を気遣うためなのか、単に自分が人肉を食すところを他人に見せたくないからなのか、ヘルムートがお風呂を勧めてくれた。
何とここには、薪で沸かすお風呂があった。湯船にパイプが付けられていて、外で薪を燃やして温めるようになっている。
シスタスやカルナには当然このようなお風呂はなかったので、とても新鮮だ。
ヘルムートは私が連れて来られる直前にお風呂を準備していたのだそうで、ちょうどいい温度のお湯が並々張られていた。
それに加えてヘルムートはボロボロになった服じゃあれだから、と自分が使っていたらしい服までくれた。ヘルムートは背が結構高いのでサイズは合わないが、さすがに血まみれボロボロの服よりいい。腕のことは考えないようにして、ありがたく久しぶりのお風呂を堪能した。
そしてこの時、服を脱いで初めて自分の胸に赤い文様があることに気づいた。
剣を模したような、複雑な文様だった。きっとこれがゲオルグが私にかけた呪術なのだろう。
試しに神術を使おうとしたけれど、封力の首輪を着けられた時と同じように何も起こらなかった。
お風呂から戻った時には腕はおろか血の跡すらなく、ゲオルグが私に着けた枷だけが床に落ちていた。それもきっとヘルムートが気を遣って綺麗にしてくれたのだろう。
私も入ってくる、と入れ違うようにヘルムートはお風呂へと行ってしまったが、先ほどまでの具合の悪そうな感じは微塵もなかった。腕の2本だけでそこまでの回復を見せるとは驚きだ。
寝室にはベッドと棚しかないので、床に座って1人でヘルムートの戻りを待つ。
ここ数日ろくに食事も摂っていないが、あまり空腹は感じない。が、息が苦しい。神力の残りは25%ほどだ。体力も同様に減っている。いくら怪我を治してもらったと言っても、これ以上に体力は回復しない。正直、かなりしんどい。
「シエル」
「……っ!?」
名前を呼ばれて覚醒した。いつの間にか寝てしまっていたようだ。こんな状況なのに眠ってしまうとは自分でも呆れる。
「すみません、寝てました……」
「いや、構わない。食事は摂れそうか? 一応軽く用意をしたから食べられそうならこちらに来るといい」
特に気にした様子もなくヘルムートが言った。
いつの間にか食事を用意してくれていたようだ。
「ありがとうございます。いただきます……」
ここから先を考えると少しでも食べておかねばならない。
リンクまでは騎乗生物に乗ったとしても2日ほどかかる。ヘルムートがどういう手段で行くつもりなのかは分からないが、まともに食事を摂れるのはこのタイミングが最後になるはずだ。




