第198話 決意・1
「仲間ですが……僕は、好きでした。向こうは、そういう目で僕を見ることはありませんでしたが、それでも構わなかった。一緒にいられれば、それだけで……」
「ならば、その者の元に帰りたいとは思わないのか?」
真っ直ぐに私を見つめてヘルムートが聞く。
愛する者がいない世界なら死んだ方がいい。それだけの思いを持った人間の視線が、覚悟を決められない私に痛いほど刺さってくる。
「思いますが……きっともう、向こうは僕を待っているということはないでしょうから……」
「そうかな。ゲオルグの話を聞いた限りでは、天族の男も君のために命を捨てる覚悟だったようだが? そこまでできるほどの存在を失った人間が、そうすぐに遠くに行くとは思えないが」
「それは、……って、えっ? あれ、ヘルムートさん、連れが男って知ってたんですか?」
「男の2人組ということは、ゲオルグから聞いていたからな」
「……えぇぇ……」
ヘルムートの顔は真面目そのものだ。真面目に私たちが男同士であることを知った上で恋仲かと聞いてきたらしい。
「別にだからどうだというのだ。誰かを想う気持ちに性別など関係あるまい」
「待って……待ってください。違うんです。確かにそうかもしれませんが、僕は違うんです。少し僕の話を、してもいいですか?」
「あぁ、構わないが」
ここまで来たら転生者であることを話してしまおう。おそらくヘルムートはそれを知っても、私を利用しようなどと考えないはずだ。
仮にそうしようとしたとしても、もうどうにでもなれ。案外喰われるか死ぬか以外の選択肢が出てくるかもしれない。
「ヘルムートさんは……転生者という存在を、知っていますか?」
「存在自体は知っている」
ヘルムートは表情を変えることもなくただそれだけを返した。
「僕は、転生者なんです。異世界で生きていた記憶を持って……こちらの世界に転生した」
「……なるほど。つまり異世界で生きていた時には女性だったと、そう言いたいのかな」
そりゃこのタイミングで突然こんなことを話したのだから、話の脈絡的にさすがにすぐそういう結論に至るだろう。
話が早くて助かる。
「そう、そうなんです。僕は、女なんです」
「そのことを天族は知っているのか?」
「転生者であることは知っていますが……元の世界で女であったことは、話してません」
「なぜ?」
なぜ。確かに当然の質問だろう。
好きということはともかく、女であることくらいは話しても支障はないわけだし。
「必要がなかったから……かな?それを言ってもし拒絶されたら、僕は立ち直れない。名をセスと言うのですが、セスとは今の関係を続けていければ、ただそれだけでよかった……」
「それにも関わらず、君たちは互いに命を懸けられるほどの関係性だったというわけか。ならば尚のこと帰ってやったらどうだ? おそらく君が思っている以上に、相手も君を大事に思っている。大切に想っている者を失くすのは辛い」
「…………」
ヘルムートはそう言うが、セスが私のために命を懸けようとしたのは、自分がもう生きて出られることはないと覚悟を決めていたからだ。
そりゃ、仲間として大切に想っていてくれたことには変わりないだろうが、セスが男である私をそれ以上に想っていたとは考えにくい。というか、もしそれ以上に何か特別な感情を持っていたとするならばそれはいわゆるBLってことになる。実際どうだったのかは分からないが、私からはそんな風には見えなかった。
でもまぁ、ヘルムートの言うことは分かる。ヘルムートは愛する人に守られて生き残った。セスに同じような思いをさせたくないと考えるのは自然だろうし、私だってパーシヴァルとエレンを見ていたのだ。セスに同じ思いはさせたくない。
だから、自分だけここで楽になってはだめだ。生きられる可能性があるならば、足掻かなければ。
「……そうですね。それは分かっていたはずなのに……僕は、自分のことしか考えてなかった。セスのためにも帰りたいです。どうか、力を貸してください」
「分かった」
私の言葉に若干の笑みを見せてから短く返事をして、ヘルムートは立ち上がった。
そして部屋の奥にある棚から剣を取り、私の側まで歩いてくる。
鞘にも柄にも豪華な模様が描かれている剣だ。エクスカリバー、という名前がついていてもおかしくないくらいの豪華さがあり、抜かれた刀身には一点の曇りもなく、よく手入れされているのが分かる。
「腕を2本もらう」
ヘルムートは私を見下ろし、静かにそう言った。




