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第196話 クビト族・2

「私は愛する者を失ったのだ。もう生きている意味などないんだよ」


 ヘルムートは無表情でそう語った。

 この表情を私はよく知っている。悲しみを通り越した人間が見せる表情だ。


「だから……後を追いたいということですか……」


 それを実際に行動に移そうとしているヘルムートほどではないだろうが、家族を亡くした私にもその気持ちは分からなくもない。


「そうだな。だがゲオルグはそれが許せないんだ。私が愛したのはゲオルグの妹で、その彼女は私を守るために死んだ。だから彼女に守られて生き残った私が死を望むことが許せない」


「……っ」


 まるでパーシヴァルとエレンのようだ。いや、まさに今回私だってその彼女と同じことをした。ゲオルグがヘルムートを死なせたくない気持ちも分かってしまう。


「それでも……ヘルムートさん、貴方は死を望むんですね……」


「……愛する者がいない世界で生きるのは辛い。彼女は私を守って死んだが、もし逆の立場なら私はそうせずに彼女を殺して共に死んだだろう」


「その方が、幸せなのかもしれませんね……」


 相手を残して死ぬくらいなら、いっそ一緒に死んだ方がいい。そういう選択肢も悪くはないと思う。それをお互いが望む間柄なのであれば。


「でも君がここにいるということは、君は自らの身を犠牲として天族を逃がしてきたのだろう? まさか仲間に見捨てられたというわけではあるまい」


 射抜くようなヘルムートの言葉に、心臓が跳ねた。


「……そう、ですね。セスは……仲間はもう、戦える状態じゃなかった。僕もそんな仲間を守って戦えるほど、力が残っていなかった。だから仲間を先に逃がして、後で追いかけるつもりだったんです。こんな結果になって、説得力もありませんが……自分の命を犠牲にするつもりは、なかった」


「なるほど。満身創痍の状態で勝てるほど、ゲオルグも弱い男じゃないだろうからな」


 私の言葉に悲しそうな表情を見せて、ヘルムートは静かに言った。

 そうか、事情を知らないヘルムートは私がゲオルグと戦って負けたと思っているのか。


「違うんです。ゲオルグさんとは、戦ってません。僕たちがルブラに来る原因となった魔族が……リンクの側で待ち構えていたんです。ゲオルグさんと同じように、僕たちが死ぬか弱るのを狙って……」


「君たちをルブラに落としたロア族の魔族か」


「ロア族? 貴方はフェリシアを知っているんですか?」


「その人物は知らない。魔族が開いたゲートでルブラに落とされた、と君はゲオルグに話したのだろう? 私はそれを又聞きしただけだ。そしてそれができる種族はロア族しかいない」


「なるほど……」


 だからフェリシアを知っているかのような口ぶりだったのか。

 ヘルムートはゲオルグがセスを手に入れようとしていたことを事前に知っていたようだし、私がゲオルグに協力を仰ぐ際に説明した事情も聞いていたのだろう。


「そのロア族は君が倒したのか? それともゲオルグが?」


「僕です。ほとんど、相打ちでしたけど……」


「なるほど。それで後から来たゲオルグに捕えられたというわけか」


「……その通りです。ヘルムートさん、どうして僕は……生け捕りにされたんですか? ゲオルグさんは"屍を拾いに来た"と言っていました。ということは、死体でもよかったということですよね。生きたまま食べたほうが、糧になるということですか?」


「…………」


 私の質問にヘルムートはすぐに答えなかった。

 ただ真っ直ぐに私の目を見つめている。その表情には感情の色が見えなくて何を考えているのかうかがい知れない。


 まるでセスのようだと思った。

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