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第195話 クビト族・1

 全身が温かい。


 まるで、治癒術をかけられたかのようにジワジワと傷が癒えていくのを感じる。

 あれだけの深手を負っていたのにも関わらず、男がやっと腕を離した時には傷の1つも見当たらず、痛みもなくなっていた。


 すごい。魔族にもこんな風に傷を癒す力を持つ種族がいるとは。


 さすがに神力が減っていることによる体力の低下は回復しないようで、相変わらず息は苦しく体はだるいが、傷が癒え痛みがなくなっただけでもかなり楽だ。

 逆に男は私に血を与えたことによって、さらに具合が悪くなったように見える。苦しそうにうずくまり、呼吸を整えている。


「どうして……僕の傷を治したんですか? 僕は、餌としてここに連れてこられたのではないんですか?」


 どうせ死ぬのだから何がどうなろうが何でもいいと先ほどまでは思っていたが、ここまで来たらさすがにそうは言っていられない。

 私の傷を癒したということは、この男に今すぐ私をどうこうするつもりはないということだ。状況を把握しておかねば。


「……君がここに来ることになったのは……私の意思ではないからだ……」


 そう言いながら男はゆっくりと立ち上がってベッドへ腰かけた。自分でつけた腕の傷に口をつけ血を吸うと、その傷はたちまちに癒えた。自身の血で自身を癒すことも可能なようだ。


「……どういう、ことですか?」


「順を追って話そうか。私の名はヘルムート。君は?」


「……シエルです」


 ヘルムートと名乗った男からは敵意を全く感じないので、私は素直に答えた。


「シエル、君はクビト族を知っているか?」


 聞いたことはない。血を与えて傷を癒すことができる種族がいたことも知らなかったくらいだ。


「……知りません」


「クビト族は先ほどのように、自身の血を与えることで高い治癒効果をもたらすことができる種族で、人肉を餌とする」


 人を食べるのに人を癒す力を持っているなんて、なんだか矛盾している。

 しかしやはりこの人は人間を物理的に食す人種だったのか。人は見かけによらないな。


「人肉を餌とする魔族にとって至高の餌となるのは天族だ。次に神属性の地族。魔属性の地族や魔族では大した糧とはならないが、天族や神属性の地族を餌として得ることは難しい。だからゲオルグは私のために天族を追い、それが手に入らなかったから君を連れ返ってきた」


「……僕は久しぶりの神属性の餌、というわけですね……」


 きっとしばらく神属性の人間を食べていないからヘルムートは具合が悪そうなのだろう。だからゲオルグはヘルムートにとって至高の餌である天族を手に入れたかったのだ。


 2人が一体どういう関係なのかは分からないが、ずいぶん熱い友情物語だ。


「私は人間を食べるつもりはない。このままではそう遠くない内に命が尽きるだろうが、それで構わない。もう、死にたいのだ。ゲオルグにもそれは再三言っているのだが、どうしても許せないようでね。こんな風に余計な世話を焼く」


「どう、して……?」


 告げられた予想外の言葉に驚きを隠せない。

 ゲオルグは弱っているヘルムートのために人間を餌として連れて来たというのに、当の本人がそれを拒否している。

 ずいぶんと行き違った話だし、それで連れて来られた私はとばっちりを受けたようなものだ。

 まぁ、もしヘルムートの意思をゲオルグが尊重したとしても、フェリシアとの戦いで致命傷を負った私がミトスに帰れたわけではないが、あんな苦痛を味わうのならあそこで死にたかった。

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