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第193話 絶望・2

 ふと気づいたら知らない場所にいた。

 こういう時に来るようないつもの森ではない。2mくらいの生垣が迷路のようにひしめいている場所だった。


 いよいよ本当に死んでしまったのか。


 まぁ、私をどこかへ連れて行こうとしていたということは、きっとあの村に住む魔族に私を喰わせるつもりなんだろう。それならば死んだ方がマシだ。死んでから喰われる分には痛みも感じない。


 さて、この迷路を抜けた先があの世なのだろうか。こんな面倒な真似事をしないでさっさと連れて行ってほしいのだが。

 とりあえず左手の法則を使って迷路を進んでいく。

 一体この生垣は誰が手入れしているのだろう。ずいぶんと綺麗に整えられている。魂が神の元に還るというのが本当なら、神の御使い的な何かがやっているのだろうか。


「…………」


 もう結構な時間を歩いたと思うのだが、ちゃんとゴールに向かっているのかどうか分からない。

 死ぬのも楽じゃないんだな。一体何の意味があって神はこんなことをさせているのだろう。迷路を抜けるタイムで次の転生先を決めているとでも言うのか?

 案外、本当にそうな気がしてきた。いちいち生前の行いがどうだったかなんていくら神と言えども確認するのは面倒だろうし。






「……っ!? うっ……ぐ……っ」


 迷路を歩いていたら突然視界が切り替わり、同時に脇腹が激しく痛んで悶えた。


 どうやら、ゲオルグが乗ってきた白い獣に乗せられて移動しているようだ。獣の背に体を預けるように、ぐったりと横たえられていた。森はもう抜けたらしく、あの草原を再び走っている。かなり長いこと意識を失っていたらしい。


 また死ねなかった。今回ばかりは本当に死んでしまいたかった。


「起きたか」


 私が獣から落ちないように支えながら、ゲオルグが冷たく見下ろして言った。


「……ゲオルグ、さん……。どうして、最初に僕たちを、殺さなかったんですか……」


「どうして、か……」


 私の問いに自嘲気味に笑いながらゲオルグは白い獣を止まらせ、自分だけ降りた。

 

「飲め、水だ」


 そして問いには答えないまま荷物の中から水袋を取り出し、私に差し出してそう言った。

 確かに喉は乾いているが、敵から差し出されたものをそう簡単に信用して口にする気にはならない。

 生かして連れて行きたいと言っていたから毒殺されることはないのだろうが、痺れ薬の1つでも入っているかもしれない。これ以上の苦痛を味わうのはごめんだ。


「いりません……。水なら、自分で出せるので……」


「悪いがお前の神術は封じてある。そう警戒せずとも毒など入れていない。飲め」


「……封じてある……?」


 首に手をやってみるが封力の首輪は着けられていない。

 封じてあるとはどういうことだろう。


「ヴォルデマ族の呪術を使って封じた。俺が解くか、俺が死ぬかしないと解けない」


「…………」


 なるほど、封力の首輪にも使われているという呪術か。

 まぁ、神術が使えたところでゲオルグと戦って勝てるとも思えないので封じることにあまり意味は感じられないが、ゲオルグにしてみたら私が死にものぐるいで抗う可能性を捨てきれないのだろう。

 しょうがないのでゲオルグが差し出した水袋を受け取って中身を口に流し込んだ。

 自分で作り出した純粋な水の味に慣れているのであまりおいしくはない。


「どうして最初に殺さなかったか、という問いの答えだが」


 白い獣にも水を与えながらゲオルグが口を開いた。


「あの時、セスは最後まで隙を一切見せることなくずっと俺を警戒していた。俺がお前たちに何かをしようとすれば、捨て身で向かってきただろう。全てを投げ打つ覚悟を持った人間は強い。だから森で死ぬか弱るのを狙ったんだ」


「……なるほど……」


 あの時セスがあからさまにゲオルグを避けていたのはそういうことだったのか。最初からゲオルグの思惑を見抜いていたのだろうか。

 ならばセスの言う通り、ゲオルグに声などかけずに回り道をしていればみんなでミトスに帰れただろうか。

 しかしカデムの椅子がなければセスがライムに乗ることは難しかったはずだ。それはそれで無理だったかもしれない。


「さぁ、走るぞ。落ちるなよ」


 ゲオルグが再び獣に乗り、私を獣の背に押し付け走らせた。

 私は抵抗する力もないままただそれに従い、この白い獣はカデムよりも早く走っているのに振動が全然来ないな、猫科の動物っぽいし肉球で衝撃を吸収しているのだろうか、とどうでもいいことをぼんやりと考えていた。


 そういえば腕に着けていた触媒も、ローブも身に付けていない。きっとゲオルグが取ったのだろうが、それすらどうでもよかった。

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