表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/293

第192話 絶望・1

 不意に影が落ちた。

 それを疑問に思う前に、何かの動物と思わしき足が視界に入る。


「…………?」


 何とか視線を上げると、見知った人物が白い獣に跨がって私を見下ろしていた。


「……ゲオルグ……さん……?」


 なぜ、ここにゲオルグが。もしかして私たちを心配して後を追ってきてくれたのだろうか。そんな期待を込めて名前を呼んだ。


「……屍を拾いにきた」


 至極感情の籠っていない声色でゲオルグが静かに言う。

 告げられた内容と、私を見下ろす冷たい表情が希望を打ち砕いた。


「……貴方も、か……」


 上げて落とされるとはこのことだ。もう魔族は全員信用するなということだろうか。


「天族は死体になっても餌として格別だからな。残念ながらここにはいないようだが」


 自嘲するような言い方だった。

 ゲオルグはセスのためにとカデム用の椅子まで作っておきながら、私たちが森で死ぬと予想してフェリシアと同じように後を追ってきたというのか。


 意味が分からない。


 初めからそういう目で見ていたのなら、あの時に殺せばよかったのに。


「……ゲオルグさ……がはっ……!」


 その理由を聞こうと思ったら、突然何かが喉に上がってきて咳き込んだ。

 口から吐き出された赤いものが地面を濡らしていく。


 もうあまり時間は残されていないようだ。


「あれだけセスに自分を犠牲にするなと言っていたお前が、まさかそれをやるとはな」


 白い獣から降りてきてゲオルグが言う。

 全てを見ていたかのような口ぶりだ。実際、本当に見ていたのかもしれない。


「……そう、ですね。そのつもりは、ありませんでしたが……結果として、そうなってしまいました……。だから……どうせ、死ぬのなら……最後まで守りきりたい……!」


 痛む体を何とか動かして、私はゲオルグの足にすがりついた。

 

「お願いします……。セスを、見逃してください……」


 もうこれくらいしか自分にできることはなかった。何をどうやったって今の私ではゲオルグに敵わない。

 すがって懇願する私を、ゲオルグは冷めた目で見下ろしている。


「……ごふっ……かはっ……」


 おびただしい量の血が口の中に溢れた。


 ここで諦めるとゲオルグが言ってくれたとしても、本当に帰ってくれるのか確かめることすらできない。それでも諦めるという、その一言が欲しかった。


「安心しろ。ミトスまでセスを追いに行くつもりはない。ここは単独リンクだ。ミトスに行っても帰って来れないからな」


 ゲオルグにはフェリシアみたいな転移能力はないということか。

 でもよかった。それならセスだけは助かる。


「……よかった……」


「よかった、か。何がよかったと言うのだ。お前の命を犠牲にして生き延びたセスは、一生それを背負っていかねばならないんだぞ」


 ゲオルグが憐れむような表情をして私を見下ろしている。以前に同じような経験をしたのだろうか。

 もしそうなら、交渉の余地があるかもしれない。


「……なら……助けて、ください……。セスが、背負わなくてもいいように……」


「……シエル、エルフのお前だって魔族からしてみれば立派な餌になることを忘れてないか? 天族を手に入れ損ねたんだ。せめてお前だけでも貰っていく」


 そう言いながらゲオルグは私の服を捲り、深く抉られた脇腹に右手を押し付けた。


「……ぐっ……ああぁ……っ!」


 痛みが爆発する。体を逃がそうとしたが、思うように動かなかった。


「悪いな、せっかく生きてるんなら生きたまま連れて帰りたいもんでな」


「うわああああああぁぁぁっ!!」


 ジュウウウゥゥという肉が焼けるような音と共に先ほどとは比べ物にならない痛みが襲ってきた。

 どういうからくりか分からないが、ゲオルグは私の傷口を焼いて止血している。

 それによってもたらされる激痛に声の限り叫び、私の意識はそこでプツリと途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ