第191話 フェリシア・2
「ちっ」
再び私に向かってフェリシアが手の平を翳す。それと同時に私は転がるように横へと飛び退いた。また私がいた場所をまっすぐに光線が通過する。
私もフェリシアへ向かって手を翳し、足元から岩の槍を出現させた。が、フェリシアは後方へ飛んでそれを躱した。
またフェリシアが私に光線を放つ。私はそれを横に飛んで躱す。
フェリシアが放つ光線は今のを含め、すべてまっすぐ向かってきている。一瞬でフェリシアの手から離れるので、途中で軌道を変えることもない。今のところ手を翳したらその前から退くことで避けられそうな感じだ。
たぶん、召喚師的な職業であるフェリシアは普段召喚する下僕に任せているために、直接人間と戦うことに慣れていない。そんな感じがする。
そんな感じはするのだが、回避能力は結構高い。かまいたちを放っても、岩の槍を放っても、トラップを仕掛けても相殺されるか避けられてしまう。きっと神力の流れを読まれているのだろう。
「くそっ……はぁ……はぁ……」
このままでは消耗戦だ。そうなったら神力が回復しないこちらが負ける。
かといって先程使ったような高威力の術では発動まで時間がかかりすぎてどうせ当たらない。
どうするか……。
そうこう考えているうちにフェリシアが再び光線を放ってきた。辛うじてそれを避けたが、正直疲れで体が動かない。
おそらくフェリシアも私が避け損なうのを狙っているはずだ。それを証明するかのように連続で光線を放ってくる。
「くっ……!」
避け損なった光線が右の二の腕を掠り、肉を抉った。ドクドクと夥しい量の血が腕を濡らしていく。
痛い。叫びたいくらいに痛い。
このままではだめだ。もう体力があまり残っていない。フェリシアが攻撃するタイミングで、こちらも仕掛けよう。フェリシアの攻撃を避けらなくて深手を負うことにはなるが致し方ない。
フェリシアが放ってくる光線を避けつつタイミングを探る。思惑を気づかれないよう、こちらから適度に仕掛けることも忘れない。
「……!」
今だ。
なかなか私を仕留められず焦るフェリシアがイラついたような乱暴な動作で私に手を翳した。
そのタイミングで私もフェリシアに手を翳す。
「なっ……!?」
それを見たフェリシアは、焦ったような表情を浮かべたがもう遅い。
「ぐぁっ……!!」
「ぎゃあああぁぁぁ!!」
フェリシアの放った光線が左の脇腹を大きく抉る。だが同時に、フェリシアも下から突き上げられた何本もの岩の槍に全身を貫かれていた。
私は、そうやって躊躇いもなくこの手で人を殺した。遠距離から術で仕留めたので感触すら感じず、何ともあっけないものだった。
セスの嘘つき。私にはできないなんて、一体何を根拠に言ったんだ。
「ぐっ……ぅあぁっ……!」
体が崩れ落ちた。
溢れ出るように流れ落ちた血が地面に血だまりを作っていく。痛い。ありえないくらいの激痛がこの身を苛んでいる。
痛みを堪えてリンクの方向に目をやってみると、人やカデムらしきものは見えなかった。セスたちは無事にミトスに帰れたようだ。
でも私は、もうどうやってもリンクまで歩くことはできない。
おそらく致命傷だ。そう時間はかからずに出血多量で死ぬだろう。
「うっ……くぅ……」
ルブラに来てすぐだったら、きっとここまでの深手は追わずにフェリシアを倒せた。あの時に殺せたかと言ったら多分それは無理だったと思うけど、それは最悪セスがやってくれただろう。
野盗を殺せなかった私にセスが言ったことは正しかった。私は自分の甘さに殺されるのだ。まさかこんなすぐにそれを思い知ることになるなんて。
悔しい。私は、セスとの約束を果たせなかった。
自分を守るために死なれたら辛い。それはパーシヴァルに庇われたエレンを見て重々分かっていた。だから私はどうしてもセスにそれをやらせたくなかったし、私もやりたくなかった。
やらないつもりで、本当に生きて帰るつもりで約束をした。
セスは、私がルブラから戻ってこないと知ったらどう思うのだろう。
親しき人の命と引き換えに自分が助かることの辛さを知ってくれるだろうか。自分がそれをやろうとしていたことを、悔いてくれるだろうか。
そうであってほしいと、心から願った。




