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第189話 森を抜けた先に

「セス、大丈夫? 何もしなくていいよ。僕が、全部やるから……」


 そう口にしたものの、正直私もかなりきつい。


 神力は半分を切ったくらいだが、疲れや肩の傷のせいで体力が想定以上にすり減っている。

 息を吸っても空気が入ってこないかのように呼吸も苦しい。

 私がこれだけ苦しいのだから、セスは相当苦しいはずだ。少しでも体力を温存させなければ。


「はぁっ……はぁっ……すまない……」


 セスは自分を置いて行っていいとか、囮になるとかそういうことを言わなくなった。言ったところで私がそうするわけがないし、ライムもセスを降ろさないと悟ったのだろう。

 どういう理由であれ、セスが後ろ向きなことを言わなくなったのは純粋に嬉しい。自分の気力を奮い立たせる励みにもなった。

 そんなセスを守りながら戦うことにもだいぶ慣れてきた頃、やっと森を抜けることができた。もう日も昇り始めている。本当に時間的にギリギリになってしまった。


 森を抜けた先は草1つない岩肌の地だった。半径2~3kmはあろうかという広大な円状の地の中心に、ミトスへ還るためのリンクが煌々(こうこう)そびえ立っている。

 まるで隕石が落ちてきて、ここだけ生命が全て消滅したかのようだ。クレーターにはなっていないので、実際には何か落ちたというわけでもないのだろうが、リンクが出現した影響で森が不自然に消滅したと考えるのが正しいように思えた。


 森の中にあれだけいたカーダの姿も全く見えない。安全地帯のようだ。


「セス、きたよ……。やっとここまで……」


 息も絶え絶えに私は言った。

 正直、カーダと戦い続けて私もかなり神力を消費してしまったし、あれから小さな怪我も増えた。満身創痍だ。


「そう、だね……。君のお陰だ……」


 セスがそう言葉を返したと同時に、持っていた剣が地面に落ちた。


「セス!」


 急いで近寄ると、セスは横の柵にぐったりと体を預けて荒く呼吸をしていた。良かった生きている。リンクの所まで来た安堵感で、力尽きてしまったのかと思って焦った。


「大丈夫……。まだ、死なないから……大丈夫だ……。だから、帰ろう……ミトスに……」


 私が近くに来たのを見て、セスは弱弱しく口を開いた。


「うん、帰ろう……。帰ろう、セス……」


 重心が偏りライムがふらついていたので、その体を後ろの背もたれにもたれかけさせながら私はセスの言葉に答えた。

 セスが諦めないでいてくれて、本当によかった。みんなを守れてよかった。ここまでセスの体がもってよかった。安堵感に溢れ出る感情が整理できず、涙が出てきそうだ。


「もう少し、ゆっくりしてお行きなさいな」


「……っ!?」


 セスの剣を拾うためにリッキーから降りた瞬間、突然背後から声がかかり心臓が飛び跳ねた。


「お、お前は……!」


 振り向いた先にいたのは、私たちをルブラに落とした張本人の女だった。


「フェリシアよ。ぜひ覚えてね」


「…………」


 焦って逃げ帰ったくせにずいぶんと余裕綽々な笑顔で立っている。それはもう腹立たしいほどに。


「本当は森の中で死んでいてほしかったのだけど、そう思い通りにはいかなかったみたいね。でも、もうだいぶお疲れなんじゃないかしら? 特にそちらの天族さんは」


「…………」


 セスは苦しそうに表情を歪めて荒い息を吐いている。

 フェリシアには私たちがここに来ることは分かっていた。だからあえてあの場では引いて、森で私たちが死ぬのを待っていたのか。死なずとも、これだけ弱っていれば勝てると踏んでいたのだろう。


 あの時逃がしたツケがここで回ってきたということか。

 こうして戦うことになるのなら、あそこでやっておくべきだった。


 私の甘さが招いた結果だ。

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