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第188話 カーダ・2

「……ぐっ!!」


「シエル!」


 完全に疲れからくる判断力の低下だった。


 カーダが足止めのために飛ばしてくる粘着性の糸を視界に入れながら避けきれなかった。それがリッキーの足に絡まり転倒し、上にいた私も激しく地面を転がった。

 リッキーの視界に入るものなら、私が手綱を引かずともリッキーが自分で避けてくれる。しかし常にそうとは限らない。横から、時には後ろからも飛んでくる。それは私が手綱を引いてあげなければリッキーは避けられないのに反応が遅れてしまった。

 急いで上体を起こした時には、糸が絡まって起き上がれないリッキーにカーダが差し迫るところだった。


「リッキー!」


「……っ!!」


 そんなカーダをセスが倒してくれた。

 ホッとしてリッキーに絡まった糸を解こうと立ち上がろうとしたその時、フッと風が横切るような気配を感じた。


「シエル後ろ!!」


 振り返ると、いつの間にか背後に迫っていたらしいカーダが私に向かって刃を振り上げていた。


「ぐぁっ……!」


 避ける時間などなかった。

 突くように繰り出されたカーダの刃が左肩をざっくりと切り裂き、そのまま体を倒される。

 焼き付くような痛みが走ったが、そんなことを気にしている暇はない。

 これ以上の攻撃を受ける前にと、跨がるカーダめがけて至近距離からかまいたちを放ち、その体をバラバラにする。紫色の体液がびちゃびちゃと降り注ぎ、私の体を汚した。気持ち悪い。


「シエル……っ! 大丈夫か……はぁっ……ライム、降ろしてくれ……頼む」


 すぐに駆けつけてくれたらしいセスがライムにそう声をかけながら言った。横から落ちないような仕様の椅子なので、降りる時はライムが座ってくれないと降りられないのだ。

 私の傷を診るつもりなのだろう。しかしそんなことができるほど余力があるとは思えない。


「大丈夫だから……セスはそこにいていい。ライム、セスを降ろさないで……お願い」


 体を起こしながら私は言う。

 左肩から流れる血が腕をぐっしょりと濡らしていく。だが致命傷ではない。さすがにセスも治癒術をかけたりはしないだろうが、処置するにしてもこんなところで時間を使うわけにはいかない。


 ライムは、セスと私の指示が違うことに戸惑いつつ、私の指示を優先した。セスがそんな状態ではないことを、ライムも分かっているのだろう。カデムはかなり頭がいい動物なので、こうした指示もちゃんと理解してくれる。


「ライム……!」


 セスが焦ったような声色でライムに声をかける。

 それでもライムはセスを降ろそうとはせず、リッキーに絡まった糸を解こうと立ち上がった私を気遣うようにすり寄ってきた。


「大丈夫、ありがとう、ライム……」


 ライムの顔を撫でてから地面に倒れたままもがいているリッキーの元へと向かった。


「リッキー……ごめんね。今、ほどいてあげるから……」


 粘着性の糸をリッキーの足から外す。

 傷がズキズキと痛むせいで時間がかかってしまったが、リッキーはずっと私を心配するかのような目で見つめながら大人しく待っていてくれた。

 そんな私を、セスがライムの上から辛そうな表情で見つめていた。






「ライム!」


 ライムに逃げるように指示を出し、襲ってきたカーダをかまいたちで一閃する。

 あれから数時間、森を進むにつれセスの衰弱具合は一層酷くなってきていた。夜もだいぶ更けた今はもう、カーダと戦うことはほとんどできなくなっている。


「う……くっ……」


 セスは苦しそうに呻きながらも、取り落としそうになった剣を握り直した。

 この森に入ってからもしばらくはセスの神力残量をこまめに確認していたのだが、今はもうそれもやめた。

 セスの神力は計算通りに減っている。だが、神力が0になることがリミットではなくなっていた。今のセスはそれよりも先に体力が尽きる。いくら神力が残っていたとしても体力が尽きればそれは死なのだ。


 もう時間はあまり残されていない。

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