第186話 焦り
カデムたちを休ませるためにちょこちょこと休憩を挟んだが、その度にセスは目に見えるほどに衰弱していった。
神力の残量的には、予測通りの減り具合だ。だが、おそらく体力的に相当きついのだろう。ライムが走ることによって体に伝わる振動も、かなり苦痛のようだった。
それでもセスは何1つ文句を言うことはなく、逆に焦りを隠せない私に大丈夫だからと何度も繰り返し言い聞かせた。
だがその"大丈夫"という言葉が、「シエルだけはミトスに帰すから」という意味合いに聞こえて、なおさら焦りを生んだ。
「シエル、少し、寝た方がいい。ほとんど睡眠を取っていないだろう……」
何度目かの休憩の折に、セスは私にそう言った。
確かにセスの言う通り、私も睡眠をほとんど取っていない。そんな状況でも、そんな心境でもないのに睡魔が襲ってきているのは事実で、休憩で座る度にそれを掻き消すのに必死になっている。人間の体と言うのは、本当に厄介だと思う。
「大丈夫」
何度も言うように、セスだってほとんど睡眠を取っていない。取りたくても取れない。そんなセスを前に自分だけ休むことはできなかった。
「いいから寝るんだ。森に入ったら本当に休めなくなる。俺はここでは、君の役に立てない。君だけが頼りなんだ。だから今は寝てくれ、頼む」
何も考えず素直にその言葉を受け取るのであれば、非常に嬉しく思う。
自分が想いを寄せている人が、こうして頼ってくれているのだから。
でも違う。セスはそういう人ではない。どんな状況でも、セスは私を頼ったりしない。それが私を休ませるためのフェイクであることは明白だ。
「……嘘つき。僕のことなんか、頼りにしていないくせに。僕に頼ってここから出る気なんて、ないくせに……!」
「…………」
睡眠不足は判断力を鈍らせる。
だからこんな風に、言ってはいけないことも言ってしまう。
セスは驚きの表情で私を見ている。まさか私がそんなことを言うなんて思ってもいなかったのだろう。
「森に入ったら囮になって死ぬつもりのくせに、思ってもないこと言わないでよ! 上辺だけの慰めなんて要らない!」
それでももう、口を衝いて出る言葉を止められなかった。
ずっと1人で抱えていた焦りや不安に押し潰されそうで耐えられなかった。
「なんでセスは僕と一緒に頑張ってくれないの!? なんでそうやって諦めるの!? セスと一緒にここを出られなかったら意味なんてないんだよ!!」
「…………」
セスは私から視線を外し、ただ静かに地面を見つめている。
唯一救いなのは、その表情が辛そうに歪められていたことだ。それが、私の言葉に何かを感じてくれていることを証明している。
ここまで感情をぶつけても何も感じてくれないのでは、さすがの私も心が折れるところだった。
「俺だって、君と共にミトスに帰りたいと思ってる……。でも今の俺にはそれができるだけの力がない。そんな俺を助けるために、君に死んでほしくないんだ。君が俺を助けたいと思ってくれているのと同じように、俺だって君を助けたい……。ただ、それだけなんだよ……」
長い沈黙を経て、絞り出すようにセスが言った。
その言葉で熱が一気に冷めるのを感じた。
あぁ……そうか。そうだったのか。あまりにも淡々と自分がここから出られないのは当たり前みたいな言い方をするから、自分の命なんてどうでもいいのかと思っていた。でも違うんだ。今のセスには自分が枷にならないことでしか、私を助けられる方法がないと思っているだけなんだ……。
「僕は……死なない。誰も死なせない。セスも、リッキーもライムも僕が、守る」
そう自分に言い聞かせるように言った私の言葉を、セスは辛そうな表情で聞いていた。




