第185話 ゲオルグ・2
夕方くらいになって、村の近くに到着した。
ここに至るまでの道中、セスはあからさまとも言えるくらいゲオルグと目も合わせず会話もほとんど交わさなかった。
そんなセスにゲオルグからも話しかけることはなく、かと言って私もその雰囲気を取り持つこともできず、何とも微妙な空気感のまま、村までのわずかな時間を過ごした。
防壁などがないので、村の中がここからでもよく見える。
木を使って自分たちで手作りしましたという感じの簡素な家が並んでいて、今まで見てきた街並みとの違いをヒシヒシと感じた。
別に警戒する必要もなかったくらい、人という人が見えない。皆家の中にいるのだろうか。
「お前たち、馬車を捨てる気はあるか。あるならこの馬車を解体して、カデム用の椅子を作ってやる」
突然、ゲオルグがそう言いだした。
「カデム用の椅子?」
「セス、手綱を握れなくとも座っているのはできるんだろう。カデムから落ちないような椅子があれば乗って行けるはずだ」
何とも予想外な提案だった。
なるほど、確かにそれはいい案に思える。
「それは簡単にできるんですか?」
「まぁ、そう時間はかけずにできるだろう。この馬車を使っていいならな」
そうなると馬車の中身は置いていかなければならないが、背に腹は代えられない。
ほとんどが食料と日用品なので、必要であればまた買えばいいか。
「ねぇ、セス、いいよね?」
「……君に、任せる」
私の問いに、セスは諦めたように目を伏せてそう答えた。
「じゃあ、お願いします。ゲオルグさん」
ゲオルグからの提案で、椅子を作ってくれている間に私とセスは休憩を取っている。
ここから森の入り口までは、夜通し走って朝に着くくらいの距離だとゲオルグは教えてくれた。
てっきり、森の中にリンクがあるのかと思ったらそうではなく、森を抜けた先にリンクがあるらしい。
その森を抜けるのに大体1日。4日目にやっとリンクの場所に到達する。さすがにカデムたちを休みなく走らせるわけにもいかないので、それを考慮するとセスの神力的にはギリギリだ。
それに加えてセスは睡眠も食事もほとんど取っていないので、体力面の消費も考えなければならない。
カデムに乗っていける分、馬車よりは早く移動できるだろうが、それでも不安要素が大きくてどうにも焦りが隠せない。
そんな私を憐れむかのような目でセスが見てくる。
それが1人で空回りをしていることを思い知らされるようで、余計に焦りを増幅させた。
カデム用の椅子が完成したのは、体感的に1時間ほど経った頃だった。
元々座るために作られていた馬車の御者席部分を使ったからなのか、思いの外本格的だ。像の背中に乗るための椅子に近い。
ゲオルグはこれを作るに当たって、村まで道具を取りに行っていた。だからあそこの村に住んでいるのかと聞いたらそうではないのだと言う。
普段は別のところに住んでいて、ちょこちょことあの村を訪れては支援をしているのだそうだ。白い獣にやたらと大きい荷物を乗せていたのだが、それはそのためだったのだろう。
なので、セスと話し合って、持って行けない日用品などの荷物をゲオルグへのお礼も兼ねて村へと寄付することにした。
大した荷物ではなかったが、それを告げた時のゲオルグの嬉しそうな表情が印象的だった。
「セス、乗れるか?」
「はい、ありがとうございます……」
乗りやすいようにライムに屈んでもらって、セスはゲオルグの手を借りながら椅子に腰かけた。
背もたれはもちろん、肘掛けが柵の役割も果たしているので、手綱を握れなくとも振り落とされることはなさそうだ。
「ゲオルグさん、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ荷物を譲ってもらって礼を言う」
「大したものでは、ありませんが……」
「何を言う。立派なものだ」
当然ながら保存食など必要なものはリッキーやライムに積んでいる。置いていけるのは調理しなければ食べられないような食料や、調理道具しかない。それでもゲオルグはこれで助かる者もいる、と今一度頭を下げた。
「無事に、ミトスに帰れよ」
「はい、ありがとうございます」
最後にゲオルグの手を握ってお礼を言い、私たちはカデムを走らせた。




