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第183話 アルディナへの転移・2

 セスの言う通りだ。


 2界を跨ぐなら、1界分プラスして神力を消費すれば行けるのではないかと考えていた。

 ミトスからアルディナに転移するのに必要な神力の消費量は、今の計算方式で言えば4750。その内の3750は転移石が負担してくれるので、実質負担は1000。それにルブラからミトスの分をプラスすると5750。

 今の残量は大体6700くらい。5750消費したとしてもまだ950残る。かなり体はしんどくなるが、リミッターに引っかかるほどでもない。


 今ならやれる。裏を返せば、今しかやれない。


「やらせないよ。ルブラからアルディナまで転移したなんて話は聞いたことがない。仮に、ミトス・ルブラ間の神力を追加で支払えばできるのだとしても、君の神力をそんなに消費させてまで……俺1人だけ脱出するつもりはない」


 私が何か言うよりも先に、セスは釘を刺すようにそう言った。

 それでも、私には試してみる価値があると思っているが、セスはそうじゃない。まぁ、確かに逆の立場なら私もセスにそれをやらせはしないし、ここは大人しく引いておこう。

 全く、こちらの考えを読んで先手を打ってくるやり方が本当に腹立たしい。


「……分かったよ」


 そう言って私は馬車から外して休ませていたライムを再び繋いでリッキーにまたがった。






 2日目の朝、草原を進んでいると、遠目に村のようなものが見えた。

 シスタスやカルナのような、大きい街ではない。RPGとかでよくある、村や集落と言った感じの様相だ。


「あそこに近づくのは危ないかな……?」


 リンクに行くための最短距離を考えると、かなりあの村に近づかなければならない。

 魔族には人の血や肉、神力を餌とする種族が結構いると言うし、もしそういう種族があの村にいるんだとしたら、危ない気がする。


「……そうだね。なるべく離れた方がいいと思う」


 私の言葉にセスが頷いてそう言った。


「ただ、時間が……」


 時計がないので時間の経過が分からないのだが、おそらくルブラに来てから丸1日は経過したのではないかと思う。

 現時点でセスの神力残量は750とのことらしい。本当に1時間あたり10くらいずつ減っている感じがするので、それを考えるとリミットまであと3日しかない。1分1秒だって無駄にはしたくないのだ。


「迂回でいいよ。襲われる可能性だってあるんだ。君は人を、殺せないのだろう」


 焦る様子も見せずに、セスが淡々と言う。


 どうにもセスからは何としてでもここから出よう、という気概きがいが見受けられない。

 私の手を取ってくれたものの、今でもまだ生に執着していないのだとは思う。

 今のセスにとって大事なことは、私がミトスに戻れるか否かということだけだ。だから焦っていない。

 それと同じように私にはセスの命が大事なのだが、自分が必死に守りたいものをこうも簡単に諦められてしまっては、さすがに私も悲しくなる。


 ただ、だからと言って迂回せずにあそこにいる人間に襲われてしまっては余計な神力を消費することになるし、最悪そこで死ぬ可能性もある。


「……迂回するしか、ないか……」


 苦渋の決断だ。






 だいぶ日が昇ったころ、リッキーたちを休ませるために休憩を取っていると遠くの方に人が見えた。正確には、フサフサとした毛を持つ白い獣に人が乗っている。


 ここに来て、初めてあの女以外の人間に遭遇した。

 おそらく男性、そして1人のようだ。

 私たちが避けている村の方角に向かっている。こちらに気づいた様子はない。

 あの村に住む人間が私たちにとって敵なのか否か、今なら確かめられるかもしれない。


「セス、僕あの人とちょっと話をしてくる」


「ダメだ、やめろ」


 そう言って立ち上がった私を、すぐさまセスが強い口調で制止した。


「何のために迂回を決めたんだ。魔族とむやみに接触をするな。相手がミトス語を話せるかも分からないんだぞ」


 ごもっともだ。

 だが何のためにと聞かれれば、全員でミトスに帰るためだ。

 だからあの村が敵対関係にないのならば、最短距離でリンクに向かいたい。

 あの男と話をすることでそれがはっきりするならば、多少のリスクは負ってもいい。


「うん、そうだね。それでも、そうする価値はあると僕は思ってる。ごめんね」


「シエル!」


 言うだけ言ってセスの言葉は聞かずに、私はリッキーにまたがって男の元へと走った。

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