第180話 ルブラ・2
女は森でいきなり仕掛けてきたのだ。私がいきなり仕掛けても文句は言えないだろう。
「あらあら、せっかちね」
慌てた様子も見せずに女は私が放ったかまいたちをヒラリと躱し、黒い獣を召喚した時と同じ赤い魔法陣を3つ地面に描いた。
魔法陣から黒い獣が3匹現れる。
「……!」
と同時に3匹がこちらへ向かってきた。
「炎よ、塵も残さず焼き尽くせ!!」
ドラゴンが火を吐くようなイメージで、突き出した両手から火炎を放射する。
今まで使ってきた術よりもかなり威力も放射スピードも上げた。範囲もできる限り広範囲にしてある。
詠唱したのは明確に口に出した方が威力を上げやすいからだ。たった1文だけでも無詠唱で行うのとは変わってくる。
事実、避けられなかった2匹が炎に飲まれて一瞬で消し炭になった。
1匹は器用にそれを躱し、私に向かって今まさに飛びかからんとしている。
「地よ、槍となりて彼のものを貫け!」
私は黒い獣をギリギリまで引き付けてから、渾身の力を込めて岩の槍を放った。
「ギャッ!!」
1本にすべてを込めた槍は大きく開いた獣の口から喉へと突き刺さり、私の元に来ることはなく地面に落ちて絶命した。
「シエル、やめろ……過剰な神力を使うな……!」
セスが絞り出すようにそう叫んだ。
その言葉は、理解できる。
先程の火炎放射も今の槍もかなりの威力を出した。それに伴う神力消費は当然多い。
自分のMPを10000とした場合、先程の火炎放射は800くらい消費した。今の渾身の槍でも100くらい消費している。
どちらも、今までセスに見せたことのないほど高威力だ。何せ獣2匹を一瞬で消し炭にしたのだ。完全にオーバーキルだった。
普段であればそれでも何の問題もないだろう。だがここはルブラだ。消費したMPは回復しない。
だがそんなことより、この場を何とかするのが優先だ。高威力の術を使っても私の神力残量がセスの神力残量を下回ることはおそらくない。どこまでいっても自分より先にセスの神力が尽きる。だからどうでもいいのだ。
セスの神力が尽きた時点でゲームオーバーなのだから。
「これくらい、大した消費じゃないよ。セスには分かるでしょ?」
セスに言っている風に見せかけて、女に聞かせる。
普通のエルフであれば、あんな威力の高い術を使った後にこんな涼しい顔はしていられないだろう。
何かが異常だ。それを女に分からせたかった。
まぁ正直、私だってこのレベルの術をバンバン使えるかと言ったらそうではない。事実今ので1割ほどHPとMPを消費したので、それなりに疲労は感じている。この状況下では痛い出費であったことに変わりはない。
ただ、私たちはこの女にこれ以上の用はない。今余計な時間は費やしたくないのだ。
「貴方、何なの……!」
女が初めて余裕のない表情を見せた。声にも焦りが含まれている。
「素直に引いてくれるなら見逃してあげるよ。そうしないのなら、あの獣と同じように消し炭にする」
ブラフだ。
でもさっきの術に驚いていたのだから、この言葉を真に受けて引いてほしい。
「……くっ……」
苦渋の表情を浮かべて、女は自分を中心とした魔法陣を展開した。
淡い光に包まれて、女がフッと消える。先ほど獣を召喚した時といい、ルブラにいてもルブラへのゲートを開けるということなのだろうか。
まぁ、何でもいいか。逃げてくれたようだから、とりあえずよかった。
「セス、大丈夫? 動ける?」
セスの側まで行き、手を差し出す。
しかし、セスはその手を取らなかった。
「……動けない。だから、ここからは君1人で行くんだ。俺がいたら足手まといになるし、おそらくあのリンクまで俺の神力はもたない」
その言葉に、自分の中の熱が一気に上がるのを感じた。




