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第177話 黒い獣

「……っ!?」


 リッキーは森の奥の方を見ていたので、何かがいるにしてもこんな近くだとは思わず、ビクッと肩を震わせて驚いてしまった。

 ヒィィンとリッキーが鳴いて後ずさった。馬車に繋がれているので実際には動かなかったが、リッキーがそうしたのも頷ける。


 そこにいたのは人だった。


 紫色の長いウェーブがかった髪に、同色の瞳をした女性。革でできた細身の黒いロングコートを身に付け、その下から同じ素材のタイトなパンツが覗いている。

 こんなところには似つかわしくないほどに妖艶ようえんな雰囲気をまとうその女は、私たちを見ると穏やかな笑みを浮かべた。


 怖い。


 穏やかな笑みに反して、その女は凍りつくほどの殺気を発している。セスが私に使ってみせたものと同等のものだ。

 初対面の私に対して、明確な殺意を向けている。

 何故なのかを考えても答えは出ないし、この世界はそうやって理不尽に殺されることもある。それは分かっているので、まずは何としても自分とリッキーの身を守らなければ。


 進路はこの女によって塞がれている。リッキーが馬車に繋がれている今の状況では退路もない。


 女が放つ殺気で冷や汗が流れ、威圧感に体が震えた。


「1人旅かしら?」


 笑みを深めて女が言う。落ち着きのある大人の女性という感じの声と言い方だった。

 そんなに笑っていながら人を傷つける意思を見せつけるとは、どういう神経をしているのか。


「連れが、いますけど」


 あぁ、恐怖で声が震えている。

 今ここで大きい音を出したらセスは気づいてくれるだろうか。気づいたとしてもセスがこちらに来る前に私とリッキーはこの女に殺されるだろうか。


「お連れの方は、今どちらに?」


 穏やかな口調で女が私に問いかける。


「連れに、用でも?」


 そう聞き返しはしたが、セスに用があるとは思えない。

 きっと私が今1人なのかどうかを確認したいのだろう。

 リッキーはしきりに顔を私に押し付け、下がるようにと訴えている。この殺気を感じて庇ってくれているのだ。

 私はそんなリッキーの前に出た。恐怖で逃げ出したいくらいだが、リッキーに庇わせはしない。私が、守る。そんな思いにリンクして自然と体が動いた。


「ないわ。近くにいないなら、ちょうどいいと思って」


 私を殺すのにちょうどいいということ? 理不尽すぎて本当に勘弁していただきたい。


「僕を、殺すつもりですか?」


 この人はそうとしか思えない殺気を放っているのだ。私がこれを聞いても不思議ではないはず。


「ええ。私は殺さないけどね」


 その言葉と同時に私に向かって女が手をかざした。

 咄嗟に私とリッキーが隠れるくらいの大きな岩の盾を作り出す。が、攻撃を仕掛けられたというわけではなかった。盾の横から顔を出して覗き見ると、女の前の地面に赤い魔法陣が浮き出ていた。漫画やアニメで見るような複雑な模様の魔法陣だった。


「……!」


 そしてその魔法陣から、何かが浮き上がってきている。


 徐々に見えてくるそれは、黒い獣だった。


 大型犬くらいの大きさで見た目的にも犬っぽいが、その牙と爪は犬とは程遠いほど鋭く長く、目は赤く光っていた。

 召喚魔法、この世界にそれがあるのか知りもしないが、それを使ったとしか思えない状況だった。


 "私は"殺さない。でもこの獣が殺す。そういうことか。


 獣と目が合った。

 その瞬間こちらに飛びかかってきた獣は、岩の盾に激突して跳ね返された。

 私に伝わった衝撃も大きく、盾はボロボロと崩れ、体が大きくよろめいてリッキーにぶつかってしまった。


 急いで体制を立て直した瞬間、同じく体制を立て直した獣が再び地面を蹴る。


「ギャンッ!!」


「……!?」


 だが私に到達する前に横から飛んできた何かが獣の首に刺さり、その勢いのまま横へと飛ばされ、茂みの向こうへと消えて行った。

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