第175話 選択肢
「ああ、満足した。じゃあここからを考えようか」
「……は?」
あまりにも予想と違ったセスの返答に、素でそう言ってしまった。
セスの顔を見ても、気を悪くしたようには感じられない。むしろ若干の笑みさえ浮かべているように見える。
「人を殺せないことを認められた君には、選択肢がいくつかある。1つ、冒険者をやめる。2つ、その考えに殺される時がくるまで冒険者を続ける。3つ、その考えに殺される時がこないことを祈りつつ、殺されないくらい強くなる。さぁ、選ぶといい」
「はあぁぁ!?」
話の内容に似つかわしくない質問形式に眉を寄せる。
セスにしては珍しく、ふざけているのだろうか。
「俺は真面目だよ。気持ちを整理するというのはこういうことだ」
しかしそんな私の考えを読んだかのように、セスは真剣な表情でそう言った。
「気持ちを、整理する……」
「人を殺すことを禁じられている世界で生きてきた君に、人を殺すことが難しいのは分かる。無理やりそれをやろうとしたところで、君にはできない。ならば最初からできないものとして考えた方がいいと思わないか。そうすれば、おのずとどうすればいいか分かってくるだろう」
「…………」
確かにその通りだ。
いざという時には殺さなければならない。この世界で冒険者として生きていくにはそういう選択肢しかないんだと思っていた。
まぁ、セスが示している選択肢も言葉を柔らかくしているが、殺せないのなら冒険者をやめるか死ぬか強くなるかという、究極の3択だ。どれもこれも簡単なことではない。
それでも、今の自分に選べるものは1つしかない。
「強くなる。強く、なりたい」
その考えに殺されないくらいに強くなる。
そう決意を込めた言葉に、セスは真剣な顔で頷いた。
「なら、君はそういう生き方をしていけばいい。同じように、俺には俺の生き方がある。これはおそらくお互いに分かり合えることではないんだと思う。生まれてくる場所を選べない以上、生き方が違うのは仕方がないことなんだ」
「……そう、だね」
その言葉に男を刺したセスの姿が思い出される。
あの場にいた野盗は私が確認しただけで8人。セスはあの短時間で8人も殺した。正当防衛だけでは片付かないものもある。
これが当たり前だなんて恐ろしい世界だ。いっそ自分も前世の記憶など持たずにこの世界に生まれたかった。そうすればこんな思いをしなくてもよかったのに。
この世界にやってきた他の転生者はどうだったのだろう。人を殺してきたのだろうか。正当防衛のために銃の所持が認められている国もあるのだから、そういう国から来た人はできるのかもしれない。
セスが気持ちを整理する機会をくれたことで、だいぶ自分の気持ちも落ち着いたように思う。
休憩を切り上げ再び出発したが、気持ちが落ち着いたからなのかセスが合図をくれなくとも、モンスターの気配がわかるようになってきた。
気配が、というか、単純にモンスターが茂みを移動する音が聞こえるというだけの話なのだが、先ほどは悶々とした気持ちを抱えていたことで周りを意識できなかったのだろう。
ちなみに今はライムを馬車に繋いでセスが手綱を握り、私がリッキーに乗って馬車を先導している。周りは明るいので、要は騎乗の練習だ。
このでこぼこ道でも手綱から手を離してモンスターを倒せるくらいには安定して乗れるようになった。
これはおそらく私が慣れたというだけではなくて、リッキーが私に合わせてくれているのもあるんだと思う。
この前なぜ騎士団が所有していた馬車を譲ってもらったのかとセスに聞いてみたら、いろいろな人が世話をしたり乗っていたりするカデムの方が、乗り手のことを考えてくれるから、という答えが返ってきた。
その言葉通り、リッキーは本当に私を気遣ってくれる。もうそんなリッキーが可愛くてしょうがない。できればずっと一緒に旅をしたい。そう思わせてくれるほどに、リッキーは私の相棒だった。




