第172話 奇襲・1
「シエル、起きてるよね? 囲まれている」
声を潜めてセスが言う。
「えっ?」
あまりに唐突すぎたその言葉を、私はすぐに理解できなかった。
「……っ!!」
起こしかけた体をセスによって倒される。
配慮の感じられない乱暴な動作だったが、その直後にこちらに向かって飛んできた何かをセスが剣で弾いたことで、守られたんだと悟った。
「矢を射られてる。起き上がらないで」
セスがそう静かに言いながら立ち上がった。
囲まれている、という言葉通り、左右からひっきりなしに矢が飛んできている。セスはコートの裏に隠してあったらしい短剣を抜いて、2本の剣でそれらを弾いた。
「き、奇襲……!?」
あまりに突然のことで何をどうすればいいのか分からない。
私はバクバクと煩いくらいに鳴る心臓の音を聞きながら、セスの傍らで情けなく横たわっていた。
「リッキーたちは……」
鳴き声は聞こえない。2頭は私たちからは少し離れたところにある木に、ロープで繋がれている。大丈夫だろうか。矢が当たってしまっていたら……。
「今はまだ大丈夫だ。ただ俺たちがカデムの方へ行けばやられる」
カデムの方に行けばやられる、というのは逃げる素振りを見せたらまず足となるカデムを潰される、ということだろうか。
ならば下手に動けない。今の状態では2頭は逃げられない。
「シエル、風を起こせるかな。俺たちを中心として竜巻のように具現してくれれば全部防げるんだけど」
セスは矢を2本の剣で弾きながらそう言った。
「……わ、分かった」
「じゃあ俺が合図したら立って」
「うん」
とりあえずいつでも立てるように、うずくまるような体勢で合図を待つ。
「立って!」
セスの合図で勢いよく立ち上がり、術を展開する。
螺旋状に風を起こし、飛んできた矢を一斉に飛ばした。
そのまま術を維持し続ける。狭い範囲に展開しているのでリッキーたちにも影響はない。
「これで向こうは直接出てくるはずだ。片側を君に頼みたい。やれるか?」
出した短剣をコートの中にしまいながらセスが言う。
人間を敵とするのはあの獣人の少年以来だ。しかもおそらく複数。やれるだろうか。
「がんばる……」
それでもやれなければ自分が死ぬだけだ。やるしかない。
「術を消していいよ。諦めたようだ」
その言葉で術を消すと同時に、遠くの茂みから何かが飛び出してきたような音がした。
「……!!」
「来るよ。そっちは3人だ。君なら大丈夫。できる」
セスは私に向かってそう早口で告げ、荷台の反対側から降りていった。
正直怖いがセスのその言葉を信じてやってみよう。
私が担当している側はセスの側よりも茂みまで遠いので、敵の姿はまだよく見えない。なので、前方に炎を放ち敵の姿を確認する。
炎が辺りを照らし、こちらに向かってきている3人の姿が映し出される。が、全身を布で覆っていて湾曲した剣を握っている人間であることしか分からなかった。
私が放った炎を警戒するように3人とも一瞬動きを止め、腕で顔を覆っている。
炎が消え、再び闇が3人を包んだその瞬間に、私は石つぶてを複数作って放った。
確実に足止めできるよう、かなり数を具現し、スピードも増した。これを避けるのは難しいはずだ。
「ぐあっ」
「がぁっ」
くぐもった声を上げながら2人、その場で崩れ落ちた。どちらも男の声だった。
残すはあと1人。あの無数の石つぶてを相殺したのだろうか。だとしたら厄介な相手だ。
こちらに近づいてくるにつれその姿が鮮明になってきた敵に向かって、両手を翳し、勢いよく水を噴射する。
敵は咄嗟にそれを横に飛び退くことで躱した。ビチャビチャと水が地面に落ち、デコボコ道にいくつも水溜まりを作る。
それを見た敵は、ただの水だと安心したのか再び私に向かって走ってきた。
敵が持つ湾曲した剣が月明かりに反射してキラリと光る。私を斬るために握られているのだと思うと、足がすくんだ。




