第16話 モンスター襲来・1
綺麗な銀の髪をした20代後半くらいの男性だった。ヒューマだろうか。腰に剣を携えている。
「あ、はい、分かりました」
「自分の身は自分で守るわい」
それを聞いてかそれ以上男性は何も言わなかった。
この馬車を護衛しているもう1人は長い術師風のローブを纏った女性で、何も言わずににこやかに成り行きを見守っている。
ガルガッタと世間話をしながら、歩いたり馬車に乗ったりしながらカルナへの旅路を行く。
やはり馬車は窮屈なのか同様に歩く人もちらほら見えた。モンスターが出てくるわけでも盗賊に襲われるわけでもないので、非常に暇で平和な道中だ。
夜は馬車の中で寝る人がほとんどだったが、中には外で護衛の人と一緒に休む人もいた。ガルガッタもその1人だ。
私も最初こそ馬車の中で休んでいたが、どうにも窮屈で眠れないので今は外に出ている。
護衛が各1人ずつ馬車の見張りについているのだが、さすがに誰も喋らないので辺りは静寂に包まれていた。それぞれの馬車の近くに焚かれた火がパチパチと音を立てている。
長いことベッドで寝る生活をしていたせいで、久しぶりの野宿はやはり体が痛かった。
3日目。この日は今までと少し違った。
いつもなら日が暮れるころに野宿の準備をするのだけれども、今日はある一定の場所を越えるまで進み続ける、というのだ。
そのある一定の場所とは、シスタス・カルナを結ぶ街道で一番デッドラインに近い場所。
時たまデッドラインから出てきたモンスターが撃ち漏らされ、この街道まで来るんだそうだ。
よって、危険な場所でいつまでも留まっているわけにもいかず、夜通し進み続けるというわけだ。
それについてはもう、致し方ないのだろう。誰からも文句は出ない。
「危険区域を通過するまでは全員馬車の中に入ってもらおう」
銀髪の護衛の人が私たちに言う。
その言葉を受け、皆馬車へと乗り込んだ。
デッドラインからのモンスターが来る可能性がある。そのモンスターは騎士団の派遣依頼を受けたとしたら、いずれ自分が戦うことになるものだ。この目で見ておきたい。
「あんたも早く入れ」
いつまでも外にいる私に銀髪の護衛が声をかけて来た。
「お願いです。カルナについたら騎士団の派遣でデッドラインに行きたいんです。だから外を歩かせてください。迷惑なことは十分承知しています。僕のことは何があっても放置で構いません」
頭を下げる。
返事はすぐに来なかった。長い沈黙が続く。
まぁ、ダメかな……。普通に迷惑だよね。
「そういうことなら別にいいのでは?」
「……死んでも責任は取らないからな」
術師の女性の一言で、銀髪の男性も首を縦に振った。
お礼を言って彼らの後に続く。
名前を尋ねたら、銀髪の男性はニルヴァ、術師の女性はカーラというらしい。
ニルヴァはその銀髪の綺麗さもさることながら、顔立ちも非常に整っている。しかも背が高い。これはきっとモテる。
カーラはオレンジ色の長い髪をした女性だ。耳が尖っているのだけれど、エルフのそれとは違って短い。
天族なのだろうか、魔族なのだろうか。これまた端正な顔立ちをしている。
数時間ほど歩いただろうか、松明が馬車の周りを照らすだけで辺りはずっと真っ暗なので、時間の経過がよく分からない。が、遠くで何かの鳴き声が聞こえた気がした。
それと同時にニルヴァとカーラが同時に同じ方を向いて身構えたので、気のせいではないようだ。
おそらく、自分たちの馬車の前と後ろの護衛たちも同様なんだろう。
みんなが身構えた方向を見るが、私にはその姿を目で確認することはできなかった。
「戦闘準備に入れ!」
誰かが叫んだ。
同時に誰かの術だろうか、馬車の上空に光が打ち上げられ、周りを明るく照らす。あまりの眩しさに一瞬目を閉じてしまったが、ニルヴァたちが身構えた方向に巨大な鳥のような、小型の竜のような飛行系のモンスターが数匹見えた。デッドラインの討伐隊が撃ち漏らしたにしては数が多いような。
モンスターの群れは突然の眩い光に怯むことなく、真っ直ぐこちらへと向かってきていた。