第14話 定期便
カルナ行の定期便の集合場所は、シスタス西門近くのメイン通りから少し外れた広場にあった。
8人乗りの馬車が3台で計24人の乗客に対し、Aランク以上の護衛が馬車1台につき2名で計6人。御者が交代要員含めて5人。合計35人での大移動だ。
Aランクになれば護衛依頼を受けて報酬をもらいつつ移動ができるのか。いくらもらえるのか分からないけど、Aランクになったら街への移動は護衛依頼を受けたいところだな。
護衛6人が話し合ってそれぞれをどう配置するか決めてから、乗客も馬車に乗りこんだ。
馬車の中は、人が8人乗ってちょうどいいくらいの大きさだ。ただ座る以外の姿勢は取れない。これで7日間も旅をするのではエコノミー症候群になりそうだ。外に出られる時間でなるべく体を動かさなければ。
私と同じ馬車に乗り込んだのは、ヒューマ族が5人、ドワーフ族が1人、何の種族だか分からない人が1人。
ヒューマ族。地族の1つで、ミトスの人口の大多数をこのヒューマが占めている。
見た目的にも寿命的にも、前世での人間とほぼ相違ない。
ヒューマ以外の地族は種族ごとに属性が異なるのだが、このヒューマだけは個体によって属性が異なっている。神属性の人もいれば、魔属性の人もいる。
神術なり魔術なりを扱うこともできるが、詠唱を必要とし、触媒と呼ばれる特殊な石がなければ使うことができない。
ドワーフ族。地族の1つで、魔属性。
背が小さく鉱山に住んでいる。武器や装飾品を作ることに長けていて、魔術はあまり使えない。寿命は300年ほど。
ヒューマ、エルフ、ダークエルフ、獣人、ドワーフ。
地族はこの5つの種族のみで、他はすべて天界・アルディナ出身の天族か、魔界・ルブラ出身の魔族だ。
アルディナ、ルブラ共にミトスから行けるらしいのだが、詳しい行き方は知らない。以前父に聞いてみたことがあるが、なぜか濁された。
ミトスには均等に存在している神力と魔力だが、アルディナには神力しか存在せず、天族は全て神属性。逆にルブラには魔力しか存在せず、魔族は全て魔属性となっている。
天族と魔族に関しては種族が地族の比ではないくらい多いらしく、よく分からない。見た目も寿命も様々なんだそうだ。
同じ馬車に乗り込んだ何の種族だか分からない人は、額に角が2本生えていた。
見た感じのイメージ的には魔族っぽい感じがするのだが、実際のところは分からない。
「よろしく頼むのぅ! あんたたち!」
ドワーフの人が豪快に笑いながらした挨拶に、皆「よろしく」と返していたが、馬車が出発してからは基本的に会話はない。まぁ、誰もが話をしたいわけでもないだろうしそうなるんだろうな。
出発して数時間で昼休憩になった。各馬車ごとに火を起こし、各自昼食の準備をする。
私も、カルナを発つ直前に買ったサンドイッチを取り出した。
「よう、姉ちゃん! 一人旅か?」
ドワーフの人が隣にドカッと腰を下ろした。
「……そうです」
女に間違えられたことには触れず、私は頷いた。
「ん!? 男か!?」
声を聞いて、違和感を覚えたのだろう。私の顔を覗き込んで聞いてきた。非常に顔が近い。
「ええ、まぁ、男です」
「女性の一人旅とは物騒だと思ったが男だったか! ずいぶん綺麗な兄ちゃんだな!」
「それはどうも」
声がもう少し可愛らしかったら本当に女性として生きていけそうなのになぁ……。
「俺はガルガッタ。見ての通りドワーフだ。お前さんはずいぶんと若いエルフだな! 冒険者駆け出しか?」
「僕はシエルです。その通り、冒険者駆け出しエルフです。よろしくお願いしますね」
「そうかそうか! よろしくな!」
豪快に笑う。ずいぶんと気さくな人だ。まだまだ先が長い旅路だ、こういう風に話せる人がいるのはありがたいと思おう。
「駆け出しならカルナはちょうどいい街だからな! 今ギルドランクはいくつなんだ?」
「ちょうどDになったところです」
「おお、Dか。カルナならDランクの依頼はシスタスなんかより遥かに多いしな。腕に自信があればベリシア騎士団の遠征依頼も受けられる」
聞きなれない言葉が出てきた。
ベリシア騎士団の遠征依頼。
なぁに、それ。