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第11話 善と悪・5

「いざ彼を見つけてしまったら、僕は自分を正当化するのに必死でした。僕はただ依頼をこなしただけ、何も悪くない。むしろ彼に襲われた被害者だ。僕には彼の行動を止める権利も、助ける義理もなかった。これは彼が自ら選んだ結果なんだと……」


「……シエル」


「あんな小さな子供たちを、それを助けに来た少年を、僕は保身のために見捨てたんです。でも他にどうすればいいのか分からなかった。ねぇ、父さん、僕はどうすればよかったんですか!?」


 私は一気にまくし立てると、すがるように父の胸に掴みかかった。

 父の顔は見れなかった。胸に顔を埋め、父の言葉を待つ。


「シエル、落ち着け」


 私の肩に父がそっと手を置いた。


「お前はお前のなすべきことをやった。それは間違っていない。ただ、お前はここに来てはいけなかった」


 父は私の肩をグッと押し、その体の距離を広げた。

 見上げた父の顔は悲しげだった。


「シエル、与えられた以上の情報を知ろうとするな。気負うな。これはお前にはどうしようもなかった。お前のせいじゃない」


「……父さん」


 私はきっと、その言葉がほしくて父に聞いたんだ。


 あの少年が殺されたのは自分のせいではないと、言ってほしかった。自分の心を軽くしたかった。もしここで父に責められたら、私はこの先やっていけなかったと思う。


 あぁ、ほんと、最低だな、私。


「せめてもの弔いに、あの子を埋葬してやろう」


「……はい」


 街道から少し離れた木の麓に、穴を掘り少年を埋葬し、父と共に街へと歩き出した。


「父さん、馬車で連れられて行った子供たちは、どうなるんでしょうか」


 道すがらに聞く。

 先ほどこれ以上知ろうとするなと言われたばかりだけれども、どうしても聞かずにはいられない。


「まぁ、たぶん、奴隷として売られるんだろうな」


 父もそれについては言及げんきゅうすることなく、すんなりと答えてくれた。


 奴隷。人身売買。

 こんな中世みたいな世界だ。あってもおかしくはない。だけど自分には関わり合いのないことだと思っていた。


「あの子たちを助ける方法は、ないのでしょうか」


「その子供たちが正当に売買されていたのなら、誰にも助けることはできない」


 奴隷に正当性があるというのか。

 信じられない。


「では、不当なものだったら?」


「もしお前がたまたまそれを不当だと知り得ることができたとして、助けたいと思うのならば力づくでやるか、騎士団に助けを求めてみるか」


「騎士団……」


 要は警察みたいなものだろうか?

 これだけ大きな街だ、そういう機関がないとは思えない。


「なかなか難しいとは思うけどな。証拠がなければ騎士団だって簡単には動かない。確実なのは力づくでやることだが、関係者を全員皆殺しにするくらいやらないと逆にお前の身が危なくなる。見ず知らずの人間のためにそこまでのリスクを冒すか?」


「それはちょっと無理ですね……」


 そんな簡単に命のやり取りすることは私には不可能だ。


「あの子たちが正当に取引されたのだとして、売ったのは親でしょうか……兄もいるのに弟たちだけが売られたなんて……」


「金に困って子供を売るという話はよく聞く。下の子供たちだけっていうのはまぁ、より幼い子供の方が値がつくからだな」


 きっとそれは調教できる幅が広いって意味なんだろう。

 しかしそれにしてもいくらお金に困ったからって子供を売るなんて。そうまでして親が生き延びるなんて。


「その家族にどんな事情があったかはわからないが、それをお前が考える必要はない。もしかしたら人攫いにあった可能性もあるわけだしな。なんにせよ、お前にはどうしようもないことだ」


「でももし子供を売らなければならないほどお金に困っていたのなら、誰か助けてあげられなかったんでしょうか……街の行政とか」


「お前、何を言っている?」


 そう聞かれてハッとして父を見ると、いぶかしげな表情でこちらを見ていた。

 やばい、つい前世の感覚で話をしてしまった。


「行政が一個人にいちいちそんなことをするわけないだろう。自分のことは自分でなんとかするしかない。金に困って子供を売らなきゃならなくなったのなら、それは自業自得だ」


「そう、ですよね……」


 怪我や病気で働けなくなったとしても、それは自業自得なんだろうか。

 ひどく悲しい世界だな、とぼんやり思った。

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