第109話 異世界からの転生者・4
「正直……衝動的だったんだ。さっきの帰り道で急に話そうと思って。酔ってたのかもね。だからここに帰ってきて、一気に怖くなった」
私を見つめる青の双眸に耐えられなくなって切り出した。
「……それなのに話をしたの? 話をする前の君には、やっぱりやめるという選択肢だってあったはずなのに」
「いや、だって聞いてほしいって言っちゃったし……。まぁ、受け入れてほしいという気持ちが大きかったのかな……」
「…………」
沈黙が流れた。
セスは視線を落として何かを考えているのか何も言わない。
今は何時なのだろう。もうだいぶ遅い時間なはずなのに眠気は感じられない。
「……俺は、今までたくさんの人間を殺してきた」
長い沈黙の末に、セスが静かに口を開いた。
「子供でも……愛した人でも、必要があれば誰でも殺した。数なんて覚えていない」
具体的な例を挙げて紡がれたその言葉に、ズキリと胸が痛んだ。
セスはその声色と同じような冷たい表情で私を見つめている。
もし私を殺そうと思ったら、セスは今と同じ表情でその息の根を止めるのだろう。
そこにどんな理由があったとしても、きっと少しの躊躇いもない。
セスは私から視線を外して何かを考え始めた。
何を考えているのかおよそ見当もつかないが、私の言葉を待っている風でもないので私も考えを巡らせる。
こんな風に冷たい表情を見ても、残酷な言葉を聞いても、それでもいつか自分が誰かにその命を差し出すことがあるとするならば、それはやはりセスがいいと思った。
ここまで思うのだから、それが恋愛感情と呼ばれるものであろうことは流石に自覚している。
今まで意識的にそう考えるのを避けて来ただけで、実際私が生死を彷徨ったあの一件くらいからそういう感情を抱いていたのは否めない。
今まで、誰か特定の異性を好きになったことはなかった。
2次元のキャラクターにそういう感情に近いものを抱いたことはあるが、所詮は2次元の話であって現実の話ではない。
ただ、誰かを好きになったのなら、その気持ちを伝えたいと思うのが常だろうし、ずっと一緒にいたいとか自分と同じ気持ちでいてほしいとか、そういうことを当然のように思うものだと思っていた。
でも今私はそう思っているわけではない。
前世で女であったことを伝えようとも思わないし、気持ちを伝えたいとも思わない。そういう気持ちを自分に向けてほしいとも思わない。
それは自分が男として生まれて来たからということではない。この世界の恋愛観がどうなっているのかよく分からないし、セス自身どういう恋愛観を持っているか知らないが、そんなことは今はどうでもいい。
私はおそらく、セスという人間をただ側で見ているだけで満たされるのだ。
誰のことも必要としていないのかと思えば、誰かのためにと激しい感情を露わにする。そんなセスをただ見ているのが好きなのだ。
2次元のキャラクターに恋をするのと何ら変わらないのかもしれない。むしろセスだって2次元のキャラクターのようなものだ。
それを恋愛感情と呼ぶのはおこがましいのかもしれないが、それ以外に形容する言葉も見つからない。
「今まで殺すことしかしてこなかった。誰にも受け入れられなかったのは俺の方だよ。ずっと1人だったんだ」
セスが悲しそうに笑みを浮かべて言った。
ずいぶん長考だったな。この長い間に一体何を考えていたのか、ぜひとも教えてほしいくらいだ。
「君はそんな俺に自分を受け入れてほしいって? ははっ……俺は誰かを受け入れる方法なんて知らないよ」
そして自嘲的に笑った。声を出して笑うところなど初めて見た。
この人はこんなにも感情が豊かだったのか。
「……じゃあ殺してよ」
そんなセスに、私は至極真面目な顔でそう返した。




