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第108話 異世界からの転生者・3

「大丈夫? よかったね、グラスが倒れなくて」


 倒れそうで何とか踏み留まったグラスを見てセスが言う。


 大丈夫などとどの口が聞いているのだろうか。

 まさか異世界という単語をこちらから言う前にセスから聞くことになるとは思っていなかった。


 前世の記憶を持っているというところから、なぜセスは異世界から転生したところまで繋げたのだろう。

 前世の記憶を持っている人間はすべからく異世界からの転生者だとでも?


 私は今、恐怖と驚きを持ってセスを見つめている。それはもう酷い顔をしていることだろう。

 一方のセスはまるで人形のように色を映すことなく私を見つめている。

 私の狼狽ろうばいぶりを見てもその表情を変えることはない。

 自分に関係のないところでそれを見ていたのだとしたら、きっと美しいと思ったことだろう。


 でも今それは私に向けられている。


 そこには恐怖しかなかった。


 もうセスは全て分かっている。私はこの沈黙と動揺を持ってしてセスの問いを肯定しているのだから。


 なのに言葉が出ない。


 セスも何も言わない。


 何だか呼吸が苦しい。心臓が痛い。

 異世界からの転生者は私以外にもこの世界に存在する。それはセスからその言葉が出てきた以上、確実だ。


 じゃあその存在とは?


 この世界においてどのような意味を持つ?


 セスにとってどのような意味を持っている?


 それを知ったセスはどうするつもりだ?




 今目の前にいる人間は敵か? 味方か?




「……その沈黙は肯定ということでいいのかな。だとしても、別に何もしないから落ち着くといいよ」


 いつまでも言葉を発することができない私に向かってセスが言う。


「……ごめん」


 その言葉で、肩の力が少し抜けた。


「怖かったんだ。自分の存在がこの世界にとってどんな意味を持っているのか分からなくて……」


 震える声で答えてから、深く息を吸い込んで吐く。そうすることで心を落ち着ける。


「そうだろうね。だから君は俺に探りを入れてそれを聞き出そうとした。異世界からの転生者が存在するしないに関わらず、それを知った俺がどういう出方をするのか君には予想できなかっただろうから。俺が敵に回って君を殺しにかかる可能性も考えたはずだ」


「……うん」


 セスの言葉に素直に頷いた。

 その通りすぎて、他に言いようもない。


「俺が君を殺しにかかったらどうするつもりだったの? 戦うつもりだった? それとも逃げるつもりだった?」


 真面目な顔でセスが質問を重ねる。


「諦めるつもりだった」


 私もまた、真剣な表情で答えた。


 何せ相手は暗殺者だ。

 戦ったところで勝てないし、逃げられもしない。


「……どうして。どうして死を覚悟してまで俺に打ち明けたの? なぜ、それを打ち明ける最初の1人目に俺を選んだの?」


 セスが眉を寄せる。

 ごもっともな質問だ。

 この世界の両親だっていたし、3班の仲間だっていた。それなのに、一番敵わない相手を選ぶなんてどうかしていると思われても仕方がない。


「両親には、拒絶されるのが怖かった。どうしてセスだったかっていうのは……転生者がこの世界で生きてはいけない存在だとしたら、僕はセスに殺されたかったからかな」


「…………」


 セスが驚愕の表情を浮かべて私を見つめた。

 セスでも予想外のことがあるんだな、なんてどこか冷静な考えが頭に浮かぶ。


 「……なぜ」


 どうして、なぜ。セスは疑問を繰り返す。


「僕は元の世界で1人だった。今の僕と同じくらいの時に家族が全員死んで、そこからは誰にも必要とされず、誰にも愛されなかった。だから僕は……セスに受け入れてほしかったんだと思う。受け入れられないのなら殺してほしかった。後でそうなって絶望に落とされるくらいなら、今そうしてほしい」


「…………」


 私の話をセスは口を挟むこともなく、ただ静かに聞いている。

 私の目を真っ直ぐに見つめる青い瞳は揺れていた。

 今何を考えているんだろう。私の話をどう感じたのだろう。


 口に含んだバルロ茶は苦かった。

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