第107話 異世界からの転生者・2
せめて自分が異世界からの転生者だと言う前に、その存在が他にもいるのかどうか知りたい。
異世界から、というところまでは無理でも、せめて前世の記憶を持ったまま生まれ変わった人間がいるのかどうかだけでも分かれば。
それによって話し方も大きく変わる。
「地族もそうなのかな? 地界には神がいるかどうか分からないのに、魂の還る場所はあるのかな? 僕たちは……生まれ変わるのかな?」
「それは人によって意見が別れるところだね」
私の質問にどうとも答えず、セスは曖昧に濁した。
「セスはどう思う?」
「ミトスがいるのかどうかは分からないけど、魂は輪廻していると思う」
「どうして?」
「自死によって魂が滅せられるというのは、地族でも同様だ。となれば、そうではない魂は輪廻していると考えるのが自然だろう」
なるほど。さっきの双子の話か。
しかしながらセスの言い方を考えるに、"神がそう言っているから魂は輪廻する"と思っているだけで、実際にそれを見てみたわけではなさそうだ。
「例えばさ……前世の記憶を持って生まれ変わった人はいないのかな? その記憶があったら本当に魂が輪廻しているのか分かるよね」
「…………」
私の質問に、セスは視線を逸らして何かを考え始めた。
答えがすぐに返ってこなかったことで、私の心臓は早鐘を打つ。
なぜここで沈黙するのだろうか。そもそも前世の記憶を持って生まれ変わるという発想自体、普通は持たないことなのか?
私はこの質問をしたことによって、自分が異質な存在であると公言してしまっただろうか。
「前世の記憶を持って生まれ変わった者は……俺が知る限りではアルディナにはいない」
返ってきた答えは思いの外、普通だった。
その返答をするのになぜセスは時間をかけたのだろうか。
「じゃあミトスにはいるの? ルブラには?」
「…………」
この質問にもセスはすぐには答えなかった。また沈黙が訪れる。
この間が何を意味しているのか分からず焦りが生まれた。
「……なるほど」
長い沈黙を経て、セスが呟くように言った。
何がなるほどなんだ。
今の問答で一体何を把握したというのか。
セスは先ほどから全く表情を変えない。いつものように感情を悟らせずに対峙している。
怖い。
会話をすればするほど心の中を見透かされていくような気がする。
「答える前に俺からも質問させてもらおうかな。君が前世の記憶を持っているからそれを聞いているの?」
「…………」
セスにも聞こえているのではないかと思うほど大きい音で心臓が脈打ち、呼吸が速くなる。
まるで確定事項の確認をしているかのようだ。
セスはこの会話の流れで私が前世の記憶を持っていることを確信したとでもいうのか。
「……なん、で?」
絞り出した声は震えていた。
「君は俺に、前世の記憶を持った者は存在するのだと言わせたいように思えたから」
「…………」
「だから君自身がそうなのかと思って。ずいぶんと動揺しているようだから、あながち間違ってはいない気がしてるんだけど」
セスは私を見据えて淡々と言う。
セスの言葉通りに動揺している私を、表情1つ変えずに。何の色も映さず。
もう隠しても無駄だ。隠してもというか、初めから言うつもりだったことのはずなのになんだろうこれ。
嫌な汗が止まらない。
「……そう、だよ」
掠れた声でそう答えてから、ひどく乾いた喉を潤すようにバルロ茶を口にした。グラスを持った手が震えている。
苦いはずのバルロ茶の味は全く分からなかった。
「そうだよね。じゃあ重ねて聞くけど、君は異世界からの転生者なのかな?」
「……!」
異世界からの転生者、という言葉に全身が硬直した。
手が滑り、置こうとしていたグラスが少し高い位置から落下して大きな音を立てる。それを、どこか遠くから聞いているような錯覚に陥った。




