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第106話 異世界からの転生者・1

 私が転生者だとこの世界の人間に打ち明けるにあたって、最初の1人目にセスを選ぶことはかなりリスクが高いことだとは思う。


 転生者という存在がこの世界に知られていてもいなくても、どういう結果になるのか予測がつかないからだ。

 もしそれを言った瞬間にセスが敵に回ると言うのであれば、私には為す術がない。


 暗殺者なんて相手が悪すぎる。敵いもしないだろうし、逃げられもしないだろう。最悪、殺されるかもしれない。

 しかし転生者がこの世界で生きてはいけないのなら、ここでそのことを話さずに生き延びたとしてもいずれ誰かに殺されることになるのだろう。


 それならば、私を殺す人間はセスがいい。


 誰でも殺せると冷たく言い放ったセスが、私の命を危険に晒したと後悔したセスが、私を殺す時にはどんな表情を見せるのか見てみたい。せめてそこに少しでも躊躇ためらいがあるのだろうか。




 ずいぶん、狂った思考をしているものだと自分でも思う。




 少しの酔いのせいなのか、夜の闇の深さに惑わされているのか。それとも妖麗に笑うセスがどうしようもなく美しかったからなのか。

 あるいはその全てなのかもしれない。


 その全てがこの日の私を狂わせた。






 あの言葉を最後に、私たちは沈黙を保って歩き続けている。

 ずいぶんと長く考え込んでしまった。

 セスは今一体何を考えているのだろうか。

 

「ねぇ、セス」


 声をかけて止まると、セスもこちらを向いて止まった。


「どうしたの?」


 呼んで何も言わない私に、セスが問いかける。

 いわゆるショッピングモール風なメイン通りも、今は灯が落ちてだいぶ薄暗い。

 所々にある冒険者向けの屋台が発する光が、辺りをほのかに照らしている。

 セスの顔も暗さで今はあまり見えない。


「セスに話したいことがある」


「なに?」


「宿に戻ったら聞いてくれる? もう、時間もだいぶ遅いんだけど」


「いいよ」


 短く返事をして、セスはまた歩き出した。






 宿に着いた時には0時を少し回っていた。

 それでも行きに比べればかなり早かったのではないだろうか。行きはリーゼロッテの歩幅に合せていたので、男女の差なのかな。


 部屋の奥にある小さなテーブルと、2脚の椅子。

 私たちはそこで向かい合わせに座っている。

 セスは私が入れたお茶を一口飲んで静かにグラスを置いた。


 このお茶はバルロ茶と言って、2日酔いによく効くお茶と言われている。もっとも、私もセスもこのお茶を飲む必要があるわけではないのだが、部屋にこれしか飲み物がないので仕方がない。

 冒険者向けの宿によく置かれていて、少し苦いのが特徴だ。


「ずいぶんと話すのを躊躇ためらっているね」


 長い沈黙を破ってセスが言った。


「ごめん、時間も遅いのに」


「いや、それは別に構わないけど」


「僕の今後に大きく関わることなんだ。少し、緊張して」


「ゆっくりでいいよ」


 これが大人の余裕というものなのだろうか。

 私だったらこんなにらされたら先を促してしまうだろう。

 いや、そもそも私だって子供ではないのだ。前世から数えればもう36年生きている。なのにこの余裕のなさに自分でも笑えてくる。


「ねぇ、セス。質問してもいい?」


「どうぞ」


 セスがもう一口バルロ茶を口にした。


 胸元を大きく開けた白いシャツの隙間から、黄色い宝石がついたネックレスが下げられているのが見えた。そしてそれに重なるように、リュシュナ族の証だという蒼い秘石が見え隠れしている。その2つが重なるとそれは碧に色を変え、秘石の周りに描かれた複雑な模様のようなものと相まって、どこか現実離れした光景のように思えた。


「人は死ぬと魂が神の元へ還り、そして生前の行いによって次の生が決まる。そうだよね?」


「そうだね」


 私の質問にセスはただそれだけを答えた。


「セスはそれを信じているの?」


「……まぁ、アルディナの意思を受ける天王がそう公言している以上、そうなのだろうね」


「確信はないってこと?」


「確信は得ていると思う。アルディナがそうだと言えばそれに疑いはない」


「……そっか」


 何だか質問ばかりになってしまった。


 言うと決めたのだからはっきり言えばいいのだけれども、どうにも恐怖がぬぐえない。

 もしそれでセスが敵に回るとなったら私は今ここで死ぬかもしれないのだ。


 酔いはもう完全にめている。



 先ほど私を狂わせたあの瞬間を後悔しているほどに。

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