第105話 真意
「俺が怖いか?」
何も言えない私に、セスが静かに聞いた。
怖い。
確かにセスの妖麗な笑みは私の恐怖心を駆り立てる。
でもそんなセスが目の前に立っているのにどこか別の世界の、それこそ漫画やゲーム世界の別次元を見ているような気になった。
「……少し。でも正直、生きてきた世界が違いすぎて実感が湧かない」
正直な気持ちを吐露する。
ここで何か偽っても全てを見透かすようなその瞳の前では何の意味も為さないと思った。
「……何も違わないさ。俺が生きてきた世界も、今君が立っている世界も。人は自分の利しか考えず、そのためなら平気で他者を踏みにじる。味方だと思っていた人間が、ある日突然手の平を返すこともある。そんなことはアルディナでは当たり前のことだし、ミトスでもそうだった。信じられるのは己のみだ」
「…………」
何て冷たい表情だろう。
何も期待していないような、そう、自分の周りには誰もいないと分かっている人間の目。
私はそれを知っている。
私もきっと家族が死んだ時に同じ顔をしていた。
「でも僕はセスを信じてる。僕のためにしてくれたことも、僕たちのことを仲間だと言ってくれた言葉も嘘じゃないと思うから」
そう、あれはきっと嘘じゃない。
私のためにとあれだけ必死になってくれたのが嘘であるとは思えない。
だってあんなに苦しそうに自分のせいで私の命が危険に晒されたと後悔していたんだ。ヴィクトールの前であんなに自然に笑って彼らを仲間だと思っている、なんて言っていたんだ。
もしあれが演技だと言うのならば、感服だ、と素直に首を差し出せる気すらしてくる。
「……俺も君たちのことは信じているよ。あの時も言ったように、君たちだけは俺に対して損得勘定のない純粋な気持ちを向けてくれた。それが嬉しかったのは本心だ」
悲しそうに笑いながらセスが歩き出した。
立ち止まったままの私を追い越し歩いて行く。
振り返ることすらないセスをこのまま見送ったら、どこか知らない所に行ってしまうのではないかと思えて私は慌てて後を追った。
セスという人間は、本当によく分からない。
今まで見せてきた色々な一面の、どこに真意があるのだろうか。もしくは、そのすべてが真意なのだろうか。
この問いを、私はもう何度繰り返しただろう。
ただ今の段階で言えることは、セスは私を裏切りはしないだろう、ということだ。
まぁ、そもそも私たちの関係性において何を持って裏切りと定義するのかもよく分からないが、セスに命を狙われることはないだろう。
セスが私を殺す必要性がないからだ。
今のところは。
私はセスを信じたい。セスが暗殺者だとしても、仲間だという言葉を信じたい。信じている。
そして仲間がほしい。これからこの世界を一緒に旅をする仲間が。
だからセスと一緒に行きたい。私はセスを仲間だと思っているし、セスだって私のことを仲間だと、アルセノまで一緒に行ってもいいと言ってくれている。
でもそれは私が"シエル"だから。
私が異世界から転生した人間だと知ったら、セスはどう思うのだろう。
この世界において転生者とはどのような意味を持つのだろう。
今までに前例がないことなのか、それとも私が知らないだけで実は普通にいて、世間一般にもその存在が知られているのか。
分からないけれど、今後一緒に行くのであれば、セスに自分が転生者であることを話しておきたいと思った。
本当の自分を、受け入れてほしい。
元の世界では誰にも必要とされなかった自分を。




