第104話 魂の在りか
「その人生きてるの? もう50年見つからないんでしょ?」
「生きている」
私の言葉にセスは即答した。
「どうしてそれが分かるの?」
「裏切り者は……俺の双子の姉だから。自分の片割れが生きていることはお互いに分かっている」
「……どういうこと? 双子だとお互いの生死が分かるの?」
そんな話は今までに聞いたことがない。まぁ、双子に会ったことがないから聞く機会がなかっただけかもしれないけど。
「魂が同一だからね」
「魂が同一……?」
この世界では、人は死ぬと魂が神の元に還り、生前の行いによって次の転生先が決まると言われている。
まるで宗教のようだと思いながら、私は父や母からよくその話を聞いていた。
魂だの神だの、そんなものはただのおとぎ話だろうと思っていたのだが、そうではないのだろうか。
「双子は1つの魂を分けて生まれている。だからどちらかが死ぬと、魂はまず片割れの元に還るんだ」
セスの様子からは冗談を言っているように聞こえない。
とすると、本当に魂が神の元に還るのだろうか?
この世界には、神が存在しているのだろうか?
「じゃあさ、自分で命を絶ってしまったら? 自死すると、魂は消滅するんだよね」
自分で命を絶つと魂は消滅して神の元に還れなくなる。これもまた、幼い頃から何度も聞いた話だ。
当然ながら自死はいけないと戒めるための作り話だと思っていたのだが、今の話を聞いた後だとあながちそうとも言えない気がする。
「還ってはこないが滅したことは分かると言われている。天族である俺たちには自死が許されていないから確証は持てないけど」
「自死を許されてない? 誰に?」
「アルディナに」
アルディナ。天界の名であり、天界を統べる神の名でもある。
同様に魔界・ルブラを統べるのもルブラという名の神であるというのは、この世界に生きている者なら誰でも知っている話だ。
そして、地界を統べる神、ミトスの存在は明らかにされていないというのも、また誰でも知っている話である。
天界には天王が、魔界には魔王がいて、それぞれが神の意思を受ける者だとされているのだが、地界には天王や魔王にあたる存在がいないのだ。
だからミトスが存在しているのかどうかは、人によって意見が別れている。
父と母はミトスがいると信じていたようだが、私はミトスはおろか、アルディナやルブラだって存在しないのではないかと思っていた。
「許されていないっていうのは、やっちゃいけませんよって教えられてるってこと?」
「いや、そうじゃなくて、物理的にできないんだ。やろうとしても本能が拒否する」
これまた冗談みたいなことをセスは本気で言っている。
正直、物理的にできないと言われても、にわかには信じ難い。
が、じゃあ試しにやってみてと気軽に言える話でもないのでその話は置いておこう。
「……なるほど。まぁ、双子はお互いの生死を把握できるってことは分かった。でもだからって一族はセスに自分のお姉さんを殺させるなんて」
「……命令だからね」
本当に忍者のような感じだ。それか闇の組織的な。
そんな命令に忠実に従うセスが、騎士団の規約がどうだのと言っていたのもずいぶんおかしい話だ。
その命令を出した一族より、まだ騎士団の方がまともな思考をしているような気がする。
「命令だから自分のお姉さんでも殺せるの?」
「俺がやらなければ他の者がやることになる。結局そうやって姉が一族に許されることがないのなら、俺がやるというだけの話だ」
「それが慈悲だと?」
私の質問にセスが突然立ち止まった。
数歩歩いてから隣にいないことに気づき、私も立ち止まって振り返った。
「慈悲なんてそんな綺麗なものじゃない。身内の失態を処理するのは身内の役目だというだけさ」
家の灯りで照らされたセスはどこか自嘲気味な笑みを浮かべている。
妖麗、そんな言葉が似合う気がした。
あぁ、この人は本当に必要があれば誰でも殺せるんだな。そう思える笑みだった。
「…………」
どう言葉を返せばいいのか分からない。
でも私を真っ直ぐ見つめるその視線を逸らせずに私もその瞳を見つめ返した。




