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六話

※短めです

 霧夜はそそくさと昼食を終え、屋上へとやってきていた。

 本来、屋上はそんなに簡単に入れるものではないのだが、緋咲が鍵を持っていたのだ。何故持っているのか、という問いに対して。


「一人になりたい場所が欲しいって言ったら、先生が貸してくれました」


 一人になりたいというのは分かるが、しかしそれを教師に言うのはどうなのだろうか。そして、その内容に応え屋上の鍵を渡す教師もどうなのだろうか。

 だが、それをここで糾弾するつもりは毛頭ない。そもそも、霧夜には全く何の関係もないのだから。

 そもそもここに来たのだってそれが理由ではない。


「それで? 話ってなんだ?」


 切り出したのは霧夜だった。

 こういう呼び出しは正直珍しい。しかも女子生徒からとなれば尚更だ。何せ、大方の女子は霧夜を怖がって近づこうともしない。昔は罰ゲーム的なものや度胸比べで自分に近づいてきた者もいるが、今ではめっきり減っている。

 可能性があるとするのなら、一つ。

 彼女はイジメられており、誰かの命令で無理やりこういう形をとらされた、というものだが……しかし、それにしては周りに誰もいない。こういう場合、遠くから眺めて楽しむ、というゲスなやり方が主流だと思うが。

 などと思っていたのだが。


「……本当に覚えてないんですか?」


 それは自分を見たことがないのか、という問いだった。


「生憎と、人の顔を覚えるのは苦手な方でな。どこかで会ったか?」


 その言葉に一瞬緋咲は固まった。かと思うと次の瞬間、はぁと大きなため息を吐いた。瞬間、彼女の中から緊張という言葉が抜けたように思える。


「……何よ、それ。ビクビクしてたこっちが馬鹿みたいじゃない」


 何やら急に不機嫌そうな顔付きでボソボソと呟く。


「……まぁいっか。どっちにしろ、ケジメはつけなきゃだし」


 言うと唐突に頭を下げる。


「? お前、何して」

「この前はありがとうございました。助かりました」


 お礼の言葉に霧夜は心の中で首を傾げる。女子に頭を下げてまで感謝されるようなことをした記憶は……。

 と、そこでようやく思い出す。


「お前……不良に絡まれてた奴か」

「やっと思い出したんですか? 本当に物覚えが悪いんですね、先輩」

「うるせぇ。言っただろうが。人の顔を覚えるのは苦手なんだ」

「それでも自分が助けた女の子の顔忘れます?」

「顔を見る前にどっかいっちまってただろうが」


 その言葉に緋咲は罰が悪そうな表情になる。瞬間、まずった、という言葉が頭の中に駆け巡った。別段、彼女を責めるつもりなど毛頭ないのだが、今のは糾弾した形になってしまった。


「……そのことについては、本当に、申し訳ないと思ってます。先輩は、私のために身体を張ってくれたっていうのに、私は、逃げ出して……」

「別にお前のためじゃねぇよ」


 その言葉に緋咲は顔を上げた。


「俺はただ喧嘩がしたかっただけだ。そこにお前と連中がいた。で、俺は連中が気に食わなかった。だからああなった。その過程でお前は助かったってだけだ。これはそれだけの話だ。あの時お前が逃げ出そうが逃げ出さまいが、俺にはどうでもいいことだ」

「でもっ……でも、私は……今も……」

「このことを教師連中に言えないってか? 当然だろ。普通、自分のせいで喧嘩が起きました、なんてこと言う奴がいるかよ。内申にも響くかもしれねぇしな。まぁ実際は退学にならずに済んでるし、俺としては問題ない」


 流石に退学、という事態になれば面倒なので事情を話してもらわなければならないが、今回はそうならずに済んだ。ならばこれ以上とやかく言うことはない。こちらとしては内申なんてものはそもそも気にしてない。

ならば何も言うことはない。


「話はそれだけか? なら、俺はもう行くぞ」

「っ、ま、待って下さい!!」

「……なんだ」

「このまま帰られると、私としては立場ない、というか……その、ですね。先輩がよければなんですけど……今度、お礼も兼ねて、ご飯をおごらせてくれませんか?」


 必死に絞り出した言葉。

 そもそも、彼女はそれを言う為にここに来たのだ。

 彼が何と言おうと迷惑をかけたことは事実だ。それに対して何もしない、というのは流石に心苦しすぎる。これが単なる自己満足であることは自覚しているし、恐らく向こうも理解しているだろう。

 それでも何かさせてもらわなければ気が済まない。

 そんな彼女に対して。


「悪いが、断る」


 霧夜は一刀両断した。


「別に嫌とか、そういうわけじゃない。ただ、そういう面倒なのは御免だ。謝罪を含んだ料理なんて美味そうには思えないんでな」

「そう、ですか……」


 霧夜の言葉はある種冷たいように思えたが、内容的には全く間違っていない。どんな美味しい料理であってもそれを食べる空気がまずければ何の意味もなさない。


「ま、そういうのは彼氏とかにしてやれ。俺なんかと関わってると、変な誤解されるぞ」

「ちょ、どういう意味ですか、それ。っというか、心配ご無用です。私、彼氏とかいないんで」

「それ、堂々と言う事か?」


 言われ、あっ、と口ずさむ。つい熱くなってしまった故のボロが出てしまった。


「……今のは聞かなかったことに」

「しといてやるよ……じゃあな」


 言い残すと霧夜はそのまま屋上の出口まで歩いき、そのまま校舎へと入ってく。

 と、そこで緋咲は思う。やっぱり、このまま帰すのはダメなのでは? と。

 そんな未練がましいともいえる感情のまま走り、そしてドアを開く。


「先輩……!!」


 開くと同時に発した声。

 しかし―――


「……先輩?」


 既にそこには誰もおらず、返ってくる声もなかった。 

知り合いに読んでもらった後の一言。


「女の子の誘い断るとか、ホモなのこいつ?」


ホモではありません。馬鹿なだけです。そして、だからモテないんです…!!

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