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エンディングクラッシャー

作者: 宮岡郁

 突発的に思いついたので、書いてみました。

 内容的にはかなり稚拙ですが、書いていて面白かったのでせっかくなので投稿しました。

 すでにブームは去ったと思われる、悪役令嬢転生のお話。



 ここが乙女ゲームの世界だと気が付いたのはずいぶんと前の話だ。

 そして、自分がいわゆる「悪役令嬢」の立場にいるということも。


 対策をしなかったわけではない。

 ヒロイン相手に意地悪なんてしなかったし、婚約者たる王子とも友好な関係を築いてきた。

 王子の未来の妃として恥ずかしくないだけの教養も身につけたつもりだ。

 ここまで育ててくれた両親に迷惑をかけるような「悪役令嬢」にはならなかった。


 だから。


 王子に進言することにした。







 学園内にある東屋。

 人払いをしたので、今ここに居るのは自分と婚約者の王子だけだ。


「それで、大事な話とはなんだ。イザベル」

「まずは、お越しいただいてありがとうございます。ウェルド殿下」


 目の前のテーブルには、高級茶葉を使ったミルクティーと、殿下の好物のシフォンケーキ。

 それを気にしつつも、若干不快という表情を隠しもせずに殿下が腕を組んだ。

 いつもなら、この時間はかのヒロインと時間を過ごしているのだから、当然の反応か。

 それでも呼び出しに応じてくれたのは、ひとえに相手が友好関係にある婚約者だからだろう。


「単刀直入に申し上げますね。彼女のこと、今後いかがするおつもりでいるのかお聞きしたいのです」


 ヒロインは乙女ゲームのテンプレ通りに庶民の出だ。

 それなりに大きな商家が実家なのだが、それでも貴族ではない。

 その魔力の高さゆえに、この学園への入学が許可された存在だ。


 だが、ところがどっこい。

 この国は、魔力が全てという価値観があるわけではない。

 庶民は庶民なのだ。


「いかが、とは?」

「伴侶として考えているのか、という話です、殿下」


 だから、王族の伴侶として、その価値はないに等しい。


「ああ。お前には悪いが、学園の卒業と同時に婚約は破棄させてもらう」

「そうですか。伴侶にするおつもりだと」

「ああ」


 ちょうど学園を卒業する年齢は結婚適齢期になるのだから、当然の返答だが、本当に何もわかっていないようだ。

 一応念を押してみた。


「彼女を、愛している、と?」

「ああ。誰よりも」


 ため息をついた。

 やはり、なにもわかっていない。


「あなたは、第一王子です」

「わかっている。だから、彼女は王太子妃に……」

「なれるわけがないでしょう」


 頭が悪いわけではない。

 学園内でも主席でずっと通してきているし、時々政務の手伝いをしているくらいには、王子として、次期国王としての適性を持っている。

 だが、周りの機微を予測するという点において、劣っているらしい。


「一体貴族の誰が、庶民出の妃に傅きますか。貴族は総じてプライドの高いものの集まりです。王城で働いているものの大半も貴族なんですよ。そんな中に庶民を放り込んだら、その結果など火を見るよりも明らかではありませんか」


 しかも立場が上となる王族の妃なんて。


「だが、それは俺が守れば」

「四六時中一緒にいるおつもりで? 不可能でしょう?」


 王子の寵愛だけで守れるものではない。

 周り全てから侮られ続ける環境で、頼れるのは王子の寵愛だけで、一体どうやって生きて行けと言うのか。


「仮に王位継承権を放棄して臣下に下ったとしても、結果はそれほど変わりません。王族が臣下に下る場合、公爵位を賜るのが慣例です。となると、公爵家の使用人は同じ立場の庶民か男爵家の出身となるでしょう。傅くと思いますか? 同時に公爵夫人となれば、社交場に出なければなりません。他の貴族の反応もまた、推して知るべし、でしょうね」


 貴族の世界なんて、そんなものだ。

 人の価値は、その能力ではなく出身に偏る。

 女性なら、直のこと。

 だからこそ、慣例として王子の婚約者はすべて公爵家の娘があてがわれてきたのだ。

 例外があるとしたら、周辺諸国の王女だろう。


「つまはじきされるとわかっている環境に、彼女を置く気ですか。いえ、彼女だけではありません。庶民を母親に持つことになる子供も、同じことが言えます」


 半分は王族の血が入っているとはいえ、その半分は庶民のもの。

 ともなれば、扱いがどうなるかは想像できある。


 押し黙ったウェルド殿下は、硬く拳を握りしめていた。

 やはり、そこまで考えが及んでいなかったらしい。

 甘い。

 甘すぎる。


「……婚約破棄を認めないと、そういうことか」


 低く唸るような小声の返答が返ってきた。

 どうしてそこに行きついた。


「いいえ。私たちの関係はあくまで政略的なものに起因しておりますし、恋愛感情を持ってはいません。尊敬はしておりますので、幸せになるというのならその背を押して差し上げたいと思っております」

「なら、婚約破棄後の自分の処遇についての苦言か」

「湾曲した解釈ですね。王子から婚約破棄されたとなれば、たしかにある程度の偏見の目が向けられるでしょうから、私の選択は二つでしょう。身分の低い貴族に嫁ぐか、修道院へ入るか。別に今の公爵令嬢という立場に固執しているわけではないので、身分の低い貴族に嫁いだって構いませんし、修道院で神に仕えることだって悪いこととは思っておりません」


 これこそ乙女ゲームのテンプレ。

 悪役令嬢の末路として修道院送りというものがあるが、これ、修道女に対して失礼じゃないだろうかと思っていた。

 仮にも神に仕えているのだ。

 確かに規律に厳しいという話もあるが、だからなんだ。

 貴族社会のルールに比べたら、生ぬるい。

 貴族社会は、それだけ恐ろしい。


「先ほども申しましたように、幸せになるというのなら、応援させていただきたいのです。さて、話を戻します。では、どうするか。私から一つ提案をさせていただきます」


 乙女ゲームのテンプレでも、二次小説でも、乙女ゲームを基にしたざまぁな小説でも、読んだことがなかった結末。

 いや、もしかしたら存在したのかもしれないけれど、少なくとも読んだ記憶はない、そんな結末を提案してみることにした。

 世の中、シンデレラストーリーのほうが人気だけれどもね。


「殿下、彼女の立場まで落ちる気はありませんか」

「? どういう意味だ」

「殿下が、庶民になるという意味です」


 庶民を高位貴族の中に放り込むのは難しくても、貴族が庶民の中に紛れる方がずっとたやすいのは、すでに何例かの実例が存在している。

 それは、王族でも変わりないと判断した。

 恋人の為に身分を捨てる、なんて庶民が大好きなロマンスストーリーではないか。

 殿下にその気さえあれば、実現可能な話だ。


「俺が、か?」

「確かに殿下は次期国王としての素質を十分にお持ちです。ですが、同時にあなたの弟君もまたあなたに勝るとも劣らない優秀な方々です。王位継承権を放棄したとしても、この国は心配ないでしょう。また、殿下の実力ならば庶民として商いをするにしても、騎士になるとしても、充分な実力を兼ね備えていますので、生活に心配はないかと」


 それは、今まで次期国王として積み重ねてきたものを捨てるということだ。

 それができないのであれば、その程度の想いであったということでしかない。


「殿下がそこまでの覚悟を見せると言うのであれば、周りも納得するでしょうし、私も殿下の未来を祝福しながらも傷心の為に修道院へ行くという大義名分も得られます。一石二鳥でしょう?」

「最後の一言が実に本音だというのは、よくわかった。だが、確かにお前の言う通りなのかもしれない」


 大きく息を吐き出した殿下は、しかしゆっくりと首を振った。


「考える時間をくれ。すぐには結論は出せない」

「無論です、殿下。これは重大な判断になりますから、即決されたら私もあなたへの評価を変えなければならないところでした」


 これは、半面王族としての責務をすべて放棄することを意味している。

 民の血税でこれまで生きてきたのだ。

 ある意味、民への反乱。

 それがわかっているからこそ、自分の想いだけを優先できない、それが殿下なのだ。


「とりあえず、学園の料理人に頼んで作ってもらったシフォンケーキですから、食べてしまいましょう? 残したら、申し訳ないですから」

「ああ、そうだな」


 話はそこで打ち切った。



 それは、卒業まで一年半となったある晩夏の出来事。








 そうれからどうなったのか、ですって?

 さて。まだ卒業を迎えていないので、わかりません。


 でも、少なくとも乙女ゲームで用意されていたエンディングでないことは、確かです。

 だって、円満に婚約解消の手続きが進んでいますからね。




 要約すると、ヒロインにではなく、ゲーム制作側に喧嘩を売った悪役令嬢の話。で、合っているかと思います。

 シンデレラストーリーが必ずしも幸せな結末とは限らないんだよ、ということを書いてみたかっただけです。

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― 新着の感想 ―
[一言] シンデレラストーリーは強力なサポーター(良き魔女)が居てこそ成り立つストーリー 王子が王位継承権放棄どころか王族籍から抜けたら生きていけるのは困難 公爵になって王宮で影響力残すより、すっぱ…
[良い点] 珍しく理性的で面白かったです。 こんな女性もいるんですね。恋愛に囚われてないところが良いです。 この後どうなるのか、続きが読みたいです。
[一言] いやぁ、周囲からの愛しい女性への悪感情を全く想定出来なかった男ですから、庶民に堕ちたら上手くいかないでしょうね。 今まで問題なく過ごせたのは、次期国王という最高位に近い権力の持ち主で、周囲…
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