深雪と深冬とクリスマス
ひろたひかる様、紅葉様との競作「サンタコス企画」によるものです。
「うーん、やっぱり今年もダンスパーティは無理みたいね」
「そうか。深冬、間に合いそうにはないのか……」
「悪いわね、あの子を一人にしては参加出来ないから」
私たちの通う冬華学園はクリスマスイブに全学園学部合同でのダンスパーティを毎年実施している。その為か幼稚園の頃から授業にダンスの項目がある珍しい学園でもあったりする。
今年は深冬の手術も成功して学園祭も無事に過ごせたのでダンスパーティも、とは思っていたのだけどさすがに深冬の体力は万全ではなかったらしく再び病床に戻ってしまった。一応私たち二人専属のお医者さまはクリスマスイブの頃にはベッドから起き上がれるとは言ってくれたのだけれど、ダンスパーティへの参加は許可してはくれなかったのだ。
「だからさ、今年も夏生だけで」
「ちょっと待て。彼女を放っておいて俺だけとか勘弁しろよ」
「……やっぱり?」
「当たり前だろ。第一そんなことしたらクラスの連中に甲斐性なし認定されちまう」
「んー……じゃあうちで当日はささやかにお祝いする?園樹さまのところみたいに」
「それでいいんじゃないか?……それにしても燐さまは今年も、か」
「仕方ないわよ。深冬よりお身体弱いもの」
ほぼ毎年、園樹さまのお屋敷では守護四家の主たる人たちを集めて内輪のクリスマスパーティを実施しているが、これは病弱で学園のダンスパーティに参加出来ない燐様のために開いていると言っても過言ではなく今年も開催の通知が来ていてお父さんたちがスケジュールの調整をしていた。なので確か当日は秋美さんもオフのはずだ。
「夏生、あんたの使命は必ず秋兄を確保することよ?確保のご褒美は期待していいから」
「お、おぅ。まぁ深冬のためだとかいえば大丈夫だろ、任せとけ」
***
「……というわけで深冬、当日は四人で楽しみましょ?」
夏生と学園の校門前で別れたあと私は帰宅するなり深冬の部屋を訪れて、ベッドの上で上半身を起こし読書をしていた深冬に経緯を説明した。
「それは嬉しいことなのだけれど……お姉ちゃん、本気、なの?」
「別にみんなに見せるわけじゃないし大丈夫よ。それに秋兄もきっと喜ぶって」
「……そうかなぁ……」
現物はまだ手元にはないけれどクラスの子で家が貸衣装を営んでいるという友人から借りたカタログに載っている写真を深冬の前に広げている。別に奇抜だとか言うわけではなく、ありきたりの衣装なんだけど深冬は顔を赤らめて少し躊躇しているようだ。深冬なら絶対似合うと思うんだけどな。
「お料理とかはどうするの?」
「学園のダンスパーティ会場でもある大食堂から少し分けてもらえるように交渉中。……夏生が」
「分けてもらう、って……そんなことできるの?」
「今年から病気などのやむを得ない理由で参加出来ない生徒を対象にテイクアウトできるようになったんだって……多分、燐さま絡みだとは思うけれど」
「……それって」
深冬が言いかけて黙りこむ。冬華学園の存在理由が園樹グループ関係者の子女のためにあるというのは最近になって薄々気がついてきたことだからだ。学園のセキュリティを担う会社も関連会社であるし、それも警備員というよりまるで軍隊みたいな感じもしている。巧妙に誤魔化してはいるけれど。
「ま、ともかく利用できるものはしちゃいましょ。クリスマスくらいは使用人の人たちにも休んでもらわなきゃ」
「それもそうだね。ご家族と過ごしてもらった方がいいし」
……そしてうやむやのうちにカタログに載っていた衣装をレンタルすることを決めてしまい、当日は今に至る。
「おせぇなぁ、せっかくの料理さめちまうぞ」
「女性の支度というものは時間がかかるものなのですよ、夏生」
「それにしたって……」
冬山家の食堂にて飾り付けと料理を並べ終わった夏生と秋兄が手持ちぶさた気味に私たちの入室を待っている様子が食堂の大扉越しに聞こえてきている。あとは私たちが入室するだけなのだけど、ここにきて深冬が中に入るのを渋っているのだ。
「やっぱりやだよぅ、恥ずかしい」
「何言っているのよ、それによく似合っているじゃない。とても可愛らしいわよ?」
「そんなこと言ったって……ううう」
「ほら、行くわよ!」
渋る深冬の手に指を絡めて握り大扉を思い切り開けて私は深冬を引っ張るようにして中に入って元気よく叫ぶ。
「メリークリスマス!ごめん、ちょっと遅れちゃった」
「め、メ、メリークリスマス……うう、恥ずかしい……」
私たちを見た二人の反応はと言うと……夏生はとてもわかりやすい反応というか、一瞬ぎょっとして直後に顔を真っ赤にして視線をそらしながらもチラチラと私たちを、特に下半身へと視線を迷わせている。秋兄は大人の余裕とでも言うのだろうか、おやおやというかのような表情を見せそして恥ずかしがる深冬にすぐに裾の長い羽織物を着せそのまま夏生に見せるのは惜しいとばかりに抱き寄せている。
「ば、ばかじゃねーの?そんな格好しやがって。風邪引いたらどうするんだよ、特に深冬が」
「なによう、可愛らしい美少女二人があんたたちのために頑張ったのに言うに事欠いてそれ?」
「……二人とも可愛らしかったですよ?でも余所には見せたりしたらだめですからね?」
そう、私たち二人が身に付けているのはサンタクロースのお馴染みコスチューム。それも太ももも露な超ミニスカートのやつだ。こんな時でもないと着れないから着たかったんだよね。それに夏生がこういうのが特集された雑誌?何かとっても薄い本を隠し読みしていたのを知っていたから喜んでくれるかなーと思ったんだけど。まぁ、言い方はあれだけどあの様子は一応喜んでいるのかな。素直になればいいのに。秋兄みたいに。
「ふふふ、頑張った深冬にはご褒美です」
「ぇ、ぁ、秋兄さま?降ろしてください、自分で歩けますからっ」
「ダメです。夏生にその美しいお御足を見せるなんて……勿体ないですからね」
早速秋兄に深冬はお姫様抱っこされてそのまま料理の並んだテーブルまで運ばれ、膝に載せられたまま秋兄のファンが見たらハンカチを噛んで悔しがりそうなあーん攻撃を受け深冬は最初のうちこそ抵抗していたものの、今は諦めたようにされるがままである。
「……あれはご褒美というか少しくらいお仕置き入ってそうだな、兄貴」
「あはははは……」
言外に病み上がりの深冬に無理をさせた深雪も少しくらいは覚悟しておいた方がいいぞ、と言われて乾いた笑い声が思わずもれてしまった。怖いなあ。
「ともあれ、つまりこれは俺へのご褒美ってやつだよな深雪」
「え、あ、きゃぁっ!ちょっ、いきなり何をす」
「おまえなぁ……可愛い深雪が精一杯俺を誘惑してきているんだ、お返ししなきゃダメだろ?」
夏生が不意を突いて私を抱き寄せるやいなや突然のことに慌てるわたしの頬にその太い指を添えて強引にわたしの顔を夏生に向きなおさせると私の抗議を打ち消すように言葉を発したあとはもう言葉は不要とばかりに急接近してきた夏生によって情熱的に唇を奪われ、吸われ、絡めとられ……息が苦しくなって行為に頭がぼうっとするまで丹念に愛され……やっと解放された頃にはもう夏生にしがみつくのも困難なくらいに身体から力が抜けて抱き締められていた。
「深雪、ありがとうな。愛してる」
「わ、わたしだって……夏生のこと、愛し、てる……もぅ……キスだけでこれとか……」
「そんなんじゃ自分で食えないだろ?ほら、……あーん」
「ううう……狙った、わね……?」
「どうだか、な?」
「……あーん」
奇妙な敗北感に包まれながらも私は、ふと偶然視線のあった深冬ともどもに苦笑はしたものの、こうやって好きな人から愛されていることに満足していることは事実なのでまだまだ慣れないし恥ずかしいこともあるけれど……素直になることにした。
冬山家の日常本編の未来にあたるため番外編として扱いますが、本編が追い付いたら組み込むかもしれません。(ぇ