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鬼眼の少年  作者: Sora
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1話

「真美ねぇーーー!!!」

(誠!!)

8年前と同じだった。

「んん〜!!」

テープで塞がれた口を開こうとするもテープは剥がれない。手にはロープ、足は鎖。

何十人もの少女たちの中に私が1人。

「真美ねぇ!?何処だ!?」

「んー!」

声は出ない。嬉しかった。もう、あの日から誰も助けに来てくれないと…私はこのままずっと、ずうっと1人だと思っていた。

「真美ねぇ!真美ねぇなのか?今出してやるからな!」

あの頃と変わらない優しさ、声、体格……体格?

(え?誠はあの時6歳だったはず…どうして身長があの時のままなの?)

8年経った今は14歳のはずだ。

「んんんー。」

「真美ねぇ!!無事でよかった…!」

誠の優しい手がテープを剥がしてくれる。

「んん…ぃ、いたっ!」

「あ、ごめん…。」

「ううん。ありがとう…本当にありがとう!」

(あれ?…目の前が…真っ白に……。)

「おい!起きろっつってんだ!!奴隷のくせに寝坊しやがって…!俺らが来る前に起きてろってんだ。」

あぁ、夢だったんだ。

(そうだよね。誠がここに助けに来てくれるなんて無理だよね。)

足かせに奴隷としての首輪…。この首輪がある限り私は奴隷以外の何ものにもなれない。この首輪は無理に外そうとすると爆発するのだ。

(私、もう生きたくないのかな?過去に希望を持つなんて…。)

「おい!聞いてんのか!?68052番!!聞いてねぇとお前もあぁなるぞ!あぁ!?」

「つっ!!」

同時、私の左手は男に踏み潰される。

「あぁっ!!あっ!」

何度も何度も踏み潰される。皮膚が薄くなっていき、赤色の血で…手が染まっていく。

「んっ!あぁ!!や、めて…!」

右手で左手をぎゅっと握る。

「ん?そうか。奴隷なのに手が使えなくちゃ困るもんなぁ?おい、ガキ!あんまり俺を怒らせんなよ?あぁ!?」

「んっ!んあぁ!!」

長く絡まった髪をつかまれ体が持ち上げられる。

(い、痛い…。)

左手はなんとか原型はとどめていたものの、血は止まりそうになかった。

「…もういいや、早く働きに行け、お前もあぁにはなりたくねぇだろ?」

頭皮の痛みから解放される。男の言っている方を見ると、首輪を外そうとして爆発死した奴隷の粉々になった死体があった。爆発したところを中心に赤色のドロドロと固まっていく血の池がじわりじわりと広がっていた。

(うっ…。)

目に入った瞬間に強烈な鉛のような臭いと火薬の臭いが鼻に伝わってくる。肉片は散らばっており、指でさえどの指なのかわからないくらいに粉々だった。ただ、首輪のつくりなのか首から上だけは形が残っており、首の切断面からは血と、見たことのない、赤い塊のようなものがたくさん出ていた。

(うっ、気持ち悪い……。)

「早く働け!」

背中を強く蹴られる。

「つぅ!」

そのまま地面に顔面を強打する。顔面からじわじわと痛みが増してくる。

(…右の頬に何かついてる?)

それを手に取ってみる。

ベチャ。

聞いたことあるような、ないような音。気持ち悪い感触。顔面を強打したのに右の頬だけは痛くなかった。変わりに今、手にある感触が頬にあった。

「な、何よあれ!?内臓とか腸じゃないの!?嫌あぁ!!」

(え?あの奴隷の人は何を言ってるの?そんなものがここにあるわけ…。)

いや、ある。今、私の手に、赤黒く、長く、生きているかのように小刻みに振動している、人間の中にあるはずのもの……。

「い、嫌ああぁぁーーー!!!」

「おい、あいつ人間の腸を持ってるぞ。」

腸だったのだ。私の頬につき、手に持っていたのは。

「うっ、うえぇぇ!」

「うわっ、こいつ!吐きやがったぞ!」

(嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!)

「誰か!こいつを檻に入れろ!!」

「うええぇぇぇ!!」

口からでるものがおさまらない。頭もそれにつられるかのようにぼーっとしてくる。

「だ……か、こ………お…に。」





「はっ!」

目を覚ますといつもとは違う檻の中にいた。

(さっきのは夢……?)

自分の左手と右手、頬の血が固まった感触を感じた。

(夢じゃ、ないんだ。)

ここの奴隷になって多分8年くらいは経っているのに、初めて見た。人が爆発するところを。

(さっき…私が手に持ってたのって…。)

「う、うぅ…!」

必死に怪我した左手で口を開け抑える。

(気持ち悪い…。)

「おや、起きたかね?」

ここにいる奴隷をこき使う男たちとは明らかに違う口調。

「……。」

「だんまりかね?まぁ構わんのだがな。…私はここの最高権力者…と言えばわかるかね?」

「!?てことはあなたが私や、他のみんなを奴隷にしてるって言うの!?」

「だとしたら、どうするのかね?」

「許さない…許さないわ!!」

「ほっほっほっ。実に愉快だ。しかし残念だな。君は明日、死ぬことになったんだよ。」

「……死ぬ?私が?」

「そうだよ?君はこれでペナルティ3回目だからね。」

「そんな!私はまだ1回しか…。」

ペナルティは、ここでのルール、大きな失敗やミスをした場合に課せられる。このペナルティが3回以上を超えると死刑になるのだ。

「ほっほっほっ。君は今回の失敗でプラス2なんだよ。」

「そ、そんな……。」

「君には死刑が始まるまではそこにいてもらうよ。…最も、そこと死刑場以外にはもう行けることがないだろうけどね。」

「……。」

「それじゃあ、私はこれで失礼するよ。68052番。また明日会おう。」

「……。」

(……私、こんなところで死ぬの?何もせずに?)

「……。」

(…8年間どうして私は生きてきたの?どこかに生きる意味はあったの?生きる希望はあったの?)

「………。」

(そっか…。生きる意味なんて…ないんだ。)

「私、このまま死ぬんだ…。」

(あははっ…あははは。)

「あはははっ!!生きたって何の意味もない!!」

「あはははっ!あははっ!!」

「あははっ。…あはっ…あはは……。……。」

「……。」





「…。」

(私って良く気絶してるなぁ。まぁ、もうそんなこともないか。)

「おい、68052番。移動だ。」

「……。」

目の前の檻から出されて、両腕を手錠で縛られる。

(あっ。血まみれのままだ。)

右手は他人の血、左手は自分の血が固まっていた。

(もう、手の感覚がない。)

ジリリリリッ!

ふと、男のトランシーバーがなる。

「どうした?…何?侵入者?今は死刑者の移動を……。何!?こっちに向かってるだと!?」

(右の頬も感覚が…ない。)

「あっ?こっちに向かってるだと!?どうなってんだ!?…ちっ!お前はまだ檻にいろ!!」

「……つっ!!」

男にさっきまでいた檻の中に押される。両手の自由がないせいかそのまま地面へと転がっていく。

「…つぅ!」

「ちっ!来やがったか。」

「……。」

「…。」

「お前は何故こんなこところに来るんだ!?」

「……死ね。」

目の前にいた男の前の方から黒い斬撃がはしる。

「な、何が起こったの?」

「真美!?その声は真美!?」

「誰?ねぇ誰なの?私を知ってるの!?」

誰だかわからない。それでも、何年ぶりに名前で呼ばれたのか、名前で呼ばれることが、嬉しいと感じるとは思わなかった。それだけで生きていて良かったと実感できる。

「真美!!」

目の前に現れたのは長刀を握った細身の男。

「えっ?」

考えるよりも先にその人に抱きしめられていた。

「良かった…真美……!!無事で、良かった!!」

その人は泣いているようだった。

(暖かい、抱きしめられることがこんなにも嬉しいなんて……。)

「…ぐすんっ。」

目からは枯れたと思っていた涙がとめどなく溢れていた。

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