第三十話 未帰還領域
――さて、どうしたものか。
未だ答えの出ない思考を繰り返しながらも、一先ず眼前に半透明の板を出現させる。メニューからアイテム画面を開き、さらに操作するのはそこに格納されているポーションだ。
しかしいつもと違うのは、そのまま使うわけではない、ということである。さすがにこの両腕の状態では、持って使うのは厳しいからだ。
そのため、ポーションを出現させるのは虚空――両腕の上、である。視線と思考のみで操作し、その個数は二個。
次の瞬間視線の先に出現したのは、思考した通りに二本のポーションだ。それらは重力に従い落下し、両腕にぶつかり砕け散る。中に入っていた液体もばら撒かれ、両腕をびっしょりと濡らした。
勿論それは操作ミスなどではなく、わざとである。濡れた両腕を動かしてみれば、既に痛みはない――これならば、まだ何とかいけそうだ。
もっとも先のように接近されてしまえば、おそらくは同じ結果が待っている。その前に、何とかする必要があるのだけれども……。
ただそれを考えるためにもと、両腕に付けていた籠手の様子を見てみれば、僅かに傷こそあったものの、損傷として考えるならば無いも同然であった。その事実に、これは本当にいいものなのだと再度実感し、同時にやはり僕の能力は色々な意味で足りていないことも実感する。
僕の両腕の様子に反しこれが無事であったのは、ちゃんとあのミノタウロスの攻撃にも、これは耐えることが出来たということだ。ならば何故僕の両手が無事ではなかったのかと言えば、防具だからといえどもその衝撃の全てを吸収することは出来ないからである。
どれだけ優れた防具であろうとも、幾らかの衝撃は貫通してしまうものだ。これはどうしようもないことであり、どうにかしようものならば、その防具は全ての衝撃を吸収する代わりに簡単に壊れてしまうものとなってしまうだろう。
というかそもそもの話、厳密に言うならば衝撃は貫通というよりは拡散している、というべきである。その拡散の一部が貫通と同様の効果をもたらしているに過ぎず、しかしそれも上手くやればほとんどこちらに衝撃を伝えずに散らすことが可能だ。
まあ全身鎧などは鎧の構造がそうなっているために、着ている本人はそういうことをあまり気にしなくて済むのだけれども……僕のようにその一部を使用している場合などはきちんと気にしなければならない。そしてそれが、防御のための技術であるのだ。
勿論防具そのものの力が足りない場合は拡散ではなく本当に貫通してしまうのだけれども、今回はそうではない。つまるところ何が言いたいのかというと、僕の技術が足りないがために腕に傷を負ってしまったのだと、そういうことであった。
結局のところは、僕の技量不足が今回負った怪我の原因なのだ。
――まあどっちにしろ、攻撃を受けられないってことに違いはないのだけれども。
原因が分かったところで、技量を今この場で上げることが出来ない以上、そこは変わらないのである。受け流しなどのスキルもないし……あったところで、使えたかは疑問だけど。
ともあれ、そういったわけなので、やはりというべきかアレとの戦闘は無理そうである。
先ほどのは不意打ちだったので、真正面から見れば攻撃をかわすことぐらいならば出来るかもしれないものの、それは見切っているのとは違う。サイクロプスと戦った時と同様、あくまでも攻撃の回避に専念していればかわせるかもしれない、というものだ。それは戦闘ではない。
そして何より、あの時とは異なり、今は時間を稼いだところで誰の助けもやってきはしないのだ。どころかそんな真似をしていれば、他の魔物も呼び寄せてしまいこちらが不利になる一方だろう。
なので、僕に残されている手段などは、一つしかない。
つまり。
――逃げるが勝ち、だ。
命懸けの鬼ごっこが始まった。
――アクティブスキル、サポートスキル:フィジカルブースト。
スキルで身体能力の底上げをしつつ、ひたすらに前を向き地を蹴った。
身体が加速し、一瞬で周囲の景色を後方へと追いやっていく。慣れていないとか思考が追いつかないとか言っていられる状況ではないので、正真正銘の全力である。
例え第十五階層の魔物であろうと置き去りに出来るだろう速度を出し、しかしそれでも欠片も安心出来ないのは、背後から迫る気配をまるで引き離せないからだ。まったく、嫌になってくる。
大体鬼ごっこをしようというのならば、せめてもっと離れてから始めろというものだ。これでは幾らなんでも近すぎる。
何よりこの鬼ごっこの最大の問題点は、逃げる時間が長くなればなるほど鬼が増える可能性があるということだろう。せめて鬼の数は固定するか、そうでなければ正しい道順ぐらいは教えて欲しいものである。これではこちらが一方的に不利過ぎだ。
――などという思考を弄んでいるのは、当然余裕があるからではない。むしろ余裕がなさ過ぎるからこそ、くだらないことでも考えていないとすぐ悲観的な方向に物事を考えてしまいそうになるのである。
先ほど曲がったのは本当に右でよかったのかとか、そもそも最初から逃げる方向を間違えているんじゃないかとか、とにかくロクでもないことしか頭に浮かんでこないのだ。そこに意味などないことを分かった上で、である。
だから、余計なことを考えて思考を埋めていく。それはあまり褒められたやり方ではないものの、少なくとも悲観で足が鈍るよりは、余程マシだろう。
現在位置も分からない以上、正解の道など分かるわけがないのだ。出来ることは、完全な運任せで突き進むことのみ。
行き止まりに突き当たってしまったら、僕の命運はそこまで。これはそれだけの話なのである。
勿論捕まってしまえば結果は同じであり、僕は何としてでもその前に階段へと辿り着かなければならない。
しかも上り階段でなければならないのだから、さらに大変だ。下へさらに潜っても状況は悪化するだけなので、当たり前なのだけれども。一応それでも休むことこそ出来るだろうものの、それは根本的な解決にはなっていない。
さらにはここが第十六階層ならばそこで一息も吐けるだろうけれども、そうでなかった場合は第十五階層へと辿り着くまでこれを繰り返す必要がある。
もっとも第十五階層へと辿り着けたところで、それはゴールとは程遠く、あくまでも現在の僕の能力でもおそらくギリギリ対処が可能、という場所に辿り着けるというだけなのだけれども。
とはいえそれでも現状よりは遥かにマシだ。対処が可能であるならば、まだ希望は見えてくる。
今は絶望しかないような状態なのだ。まずは何としてでもそこまで辿り着かなければならない。経験を積んだり慣れようとしても、現状ではそんなことが出来る余裕すらもないのだ。
まあでも結局のところは、全ては僕の運次第、である。
運頼みというのは最悪の手なのだけれども、自身の力でどうしようもないのだから仕方がないだろう。
後敢えて言うならば、こんなことに巻き込まれている時点で僕の運は底辺を這っているのではないか、ということだけれども……そこは何とか、自分の運を信じるしかない。
ちなみにステータス欄には運の数値も書かれてはいるものの、それがどれだけ参考になるのかは不明だ。
しかし、何、既に絶体絶命と言えるような状況ならば、最近だけでも二度も遭遇し、そこから生き残っているのである。きっと僕は悪運だけは強い……はずだ。
「そうだといいなぁ――っと!」
願望を呟きながら、背筋に走った悪寒に従い全力で地面を蹴る。何が起こるのかは分からなくとも、ほぼ間違いなく後方で何かが発生するということは確かだ。曲がり角の先へと、ギリギリのところで飛び込み身体を滑り込ませ――次の瞬間耳に響いたのは轟音であった。
さらにその直後、背後の壁から何かがぶつかったような音が連続で発生する。
即座に立ち上がり一瞬だけ後方に視線を向ければ、地面へと落下していくそれは石であった。それは大小様々なものが混ざっており、どうやらそれらが飛んできて壁にぶつかったようである。
その瞬間を見ていない――というか見ていたら手遅れになっていただろうから見れないというのが正確だけれども、おそらくはミノタウロスが壁か地面を殴って飛礫を作りだしたのだろう。
基本的に迷宮は破壊出来ないとはいえ、そこら辺にあるのは剥き出しの岩石である。その程度ならば膂力のある魔物であれば十分に可能な範囲――破壊には含まれないのだということを、既に僕は理解していた。
尚、アレに膂力があるのかどうかに関しては、まあ考えるまでもないだろう。
ついでに言うならば、その膂力で作られ放たれたものを食らえばどうなるかに関しても、考えるまでもないことである。まともに受けたり避けたりするのも、あの数ではさすがに不可能だ。
とはいえだからこそ、こんなに必死になって逃げているのだけれども。
幸いだったのは、どうやらアレとこの階層との相性があまりよくなかったということだろうか。
――階層にはある程度の特色というものが存在しており、それは各階層ごとに異なっている。
例に出すと、以前にも話に出したことのある中級の迷宮の階層が分かりやすいだろう。馬鹿でかい部屋一つしかないその階層は、それこそが特色なのである。
まあさすがにそこまで極端なのは珍しいけれども、部屋の数が多いとか、逆に少ないといったものならばそれなりに多い。
そしてこの階層の特色というのは、どうやら曲がりくねった通路、というものであるらしい。
それは文字通りの意味だ。通路を進むとすぐに曲がり角に差し掛かり、そこをさらに進むとまた曲がり角。しまいには複数の分かれ道が存在し、その先も全て曲がり角という、まあ非常に面倒くさい構造をしているのである。
先を見通せないということは、言うまでもなくそこに何があるのかが分からないということであり、普通であれば厭うべきものだ。
しかしそれこそが、今の僕の命を救っていた。
当たり前の話だけれども、僕とアレの能力というのは本来話にはらないほど離れている。それは勿論、移動速度に関しても同様だ。
通常であれば、スキルの分を加味したところで、到底逃げ切れるわけがないのである。
では何故こうして逃げることが出来ているのか。それはアレが、全速力で進む場合には、直線にしか進めないからである。
イメージとしては、闘牛が近いだろうか。目標を定めると一直線にそこに突き進み、しかしそれは途中では止まれない。他の階層ならばともかく、この階層ではそれは足枷にしかならないのだ。
何せ通路が短く、すぐに壁にぶつかってしまうのである。基本迷宮は破壊不能且つ、それは全速力での突撃だ。自分にも相応のダメージが返ってきてしまうのは、想像に難くない。
ちなみに直線にしか進めないということは事前に知識として知っていたけれども、壁への激突に関しては実際に目にしたものである。
逃走を開始した当初は何度もそうやって激突を繰り返していたのだけれども、何度目かのことでようやく学習したらしく、今はかなり速度を抑えての行動となっているのだ。
それが僕の移動速度とほぼ同じであったのは、本当に幸運としかいいようがない。
まあ僕の方が速ければ尚言うことはなかったのだけれども……さすがにそれは贅沢を言いすぎだろう。
ともあれ。
今のところ行き止まりも他の魔物との遭遇もなし。このまま最後まで幸運が続いてくれるといいのだけれども……。
すぐに視線を戻し移動を再開するも、正直なところその願望に関してはあまり期待していなかった。何か理由があるというよりは、単なる処世術の一つだ。期待して裏切られるよりは、最初から期待していない方がいい、というやつである。
とはいえ別に何事に関してもそうだというわけではなく、今回は状況が状況だからだ。一瞬でも判断に迷いが生じることが許されないようなこの中では、一瞬の絶望すらも許されていない。だからこそ、最初からそれすらも織り込み済みで行動するしかないのである。
「で、案の定、と」
溜息を吐きだしたいのを我慢しながら視線を向ければ、たった今飛び込んだ部屋には先客が存在していた。勿論冒険者が居るわけもなく――二匹目のミノタウロス、だ。
果たして別の種の魔物でなかったことを喜べばいいのかどうなのか。ミノタウロスが本来居るべき場所のことを考えれば、おそらくここにも居るだろう他の魔物は、今の僕にとってミノタウロスよりも厄介なものなので、まだマシなのだろうけれども……さて。
一瞬の逡巡すらもしている余裕はなく、その姿を確認した次の瞬間には地面を蹴っていた。逃げるのではなく――敢えてそれへと向かっていく。
まあというか、この部屋から出るにはそれの後方にある道に飛び込む以外にない、というだけではあるのだけれども……何にせよ、やることに違いはない。
全神経を集中させ、眼前のそれの動きにのみ注意を向ける。今この瞬間だけは、後方のやつすらも完全に意識から追い出した。
ほんの僅かな躊躇が、死を招く。そのことに恐怖はあったものの、それすらもねじ伏せ、ただその瞬間のみに集中する。
ミノタウロスが動き出した――まだ早い。
向かってくるのは好都合だとでも思っているのか、その場から動く様子はなく、ただ腕だけが動き――まだ早い。
ゆっくりと持ち上がられ、引き絞られ――けれどもそれはあくまでもその動きとしては、の話であり、僕にとっては十分以上に素早く――まだ、だ。
筋肉が盛り上がったのが分かった。口元が僅かに緩んだように見えたのは気のせいか。地面が軋み音を立てる。それはミノタウロスが力を込めた証。最後にもう一度その腕が引き絞られ――ここまでに掛かった時間は、僕が一歩分を移動するに掛かった時間――まだ。
腕が解き放たれ、その動きに従い構えられた斧が軌跡を描く。それは振り下ろし――否、薙ぎ払い――今!
「――っ!」
加速した思考と視界の中、踏み込みと同時に頭を下げる。いや、頭だけではなく、膝を曲げ全身を低くし、さらに次の一歩で前方へと飛び込んだ。
頭の上を轟音が通過し、背中の上を抜け、通り過ぎる。頭から地面に突っ込むようにして飛び込み、そのまま頭を軸にして前方で回転。
ここまでの間に秒すらも経過しておらず――けれども当然無事になどは済まなかった。無茶な体勢での突っ込みと回転による少なくない身体へのダメージ。そしてそれ以上の、直接触れなかったにも関わらず、その衝撃だけでおそらくは切り裂かれた後頭部と背中。
しかしそんなことをいちいち確認していられる余裕はないし、もっといえば気にしていられる暇すらもない。瞬時にアイテム画面からポーションを五本ほど頭上に出現させ、落下と同時にその中身を全身で浴びる。
幾らなんでも瞬時に痛みが消えるということはないけれども、それでも動けるならば十分だ。
視界が一回転し終わった瞬間に地面に手を叩きつけるようにして突き、その反動と足との動きを合わせ、立ち上がりと同時に駆け出す。後方へは視線すらも向けずに地を蹴り――
「――がっ、っ!?」
直後に感じた、背中への焼けるような痛みと前方へと投げ出されるような衝撃に、揺さぶられる意識を噛み締めることで強引に繋ぎ止める。さらにアイテム画面からポーションを五本、前方、自身よりもさらに先の上空へと出現させ、何もない空間へと落下が開始。
後方からは地響きが二つ、耳に届いたものの、やはりそちらのことは何も考えずに地面を蹴り、ひたすらに前に出る。二歩目の着地をしたところで頭上に衝撃を感じ、視界を液体が濡らした。
けれどもその衝撃は小さく、痛みを与えるではなく、逆に奪っていく。先に設置したポーションによって何とかマシになった背中の痛みを誤魔化しながら、さらなる一歩を踏み出した。
果たしてこの階層に来てしまってから、どれほどの時間が経っただろうか。メニュー画面で確認すればすぐに分かることではあるものの、そんなことをしている暇はない。
時間の感覚は完全に麻痺し、今ならば一日経ったと言われても信じたことだろう。もっとも時間感覚とは別のところで――そんな長時間逃げ回ることが出来るわけがないという意味で、信じなかっただろうけれども。
正直に言ってしまえば、この階層に迷い込んだことを自覚した瞬間から、ここで死ぬんだろうことは半ば理解していた。いや、覚悟していたと、そういうべきか。
勿論全力で必死に逃げはしたけれども、その程度のことで全てが上手くいくほど、この世界は優しく出来てはいない。それは僕がここに居ることからも明らかであり、そのぐらいのことは理解している。
むしろこれまでが出来すぎであったのだ。そのこともまた分かっていて、だから死ぬ覚悟も自然と出来ていた。
当然そのことに不満はあるし未練もある。だけどこれはそういった問題ではないのだ。そんなものがあろうとなかろうと、人は死ぬ。それこそ呆気なく、簡単に。
というか大抵の人はそんな覚悟をしている暇すらもなく死んでしまうのである。そういう意味であれば、僕は幸運だったとすら言えるだろう。
――などということを考えていたからだろうか。
「……え?」
その光景に、その事実に。半ば茫然として呟いた。
足元にあるのは硬い感触。それは剥き出しの地面の上を歩いた時のもののとは異なるものであり、しかし覚えのあるものでもある。
もう一歩、進む。前、ではなく、上、へ。足裏がそれを踏みしめ、少し硬質な音が響く。
続いている道は、前ではなくやはり上。視線を足元に向ければ、そこにあったのは石で出来た地面――否、階段。後方へと振り返れば、自身の足よりも低いところに、ここへと続く部屋があった。
――逃げ……延び……た?
呆然としたまま、その事実を思う。
部屋にミノタウロスの姿が見えないのは、そういうことになっているからだ。セーフティポイントまでならば魔物を引き寄せることも出来るけれども、階段の周辺は完全な不可侵領域なのである。
勿論エリアボスであれば別だけれども、アレらはそうではないため、そこに近付くことは出来ないのだ。
だからここに居れば安全であり――つまり僕は、どうやら逃げ延びることに成功したらしい。
ぶっちゃけた話、ここまでどうやって逃げてきたのか、途中からは記憶がない。ただ夢中であっただけで……だから、未だにその実感が得ることが出来なかった。
何気なくアイテム画面を眺めてみれば、念のためにと三桁以上用意していたポーションは、その数を一桁ほど減らしている。補充するのにまたお金がかかるなぁ、と思ってしまうのは、果たして現実逃避の一種なのだろうか。
しかしそんなことを考えていれば、やがて嫌でも現実味は湧いてくる。僕は生き延びて……今回は赤字であった。
それだけが事実であり……というか、赤字はこれだけでは済まないようだ。自分の身体へと改めて意識を向けてみれば、所々が非常に痛い。ここまで動けるだけで十分と満足な治療をしていなかった――正確に言うならばその暇も余裕もなかった――のだから、当たり前のことである。
逃げることのみに集中していたためか、忘れていた痛みが、除々に蘇ってくる。しかしその痛みこそが、さらに現実味を湧かせた。
ここから完調させるまで、果たして何本のポーションを使用する必要があるのだろうか。さらには時間も多少必要だろうし、そもそも次の階層は何階層なのかも問題だ。地上に帰るまでに果たして何時間かかり、ギルドが閉まるまでに帰れるか……違う、心配するところはそこではない。
最も問題なのは次が第十五階層なのかどうかということであり――
「……ああ、なんだ」
次の瞬間、ストンと何かが、あるべきものがあるべき場所に収まったような、そんな納得を得た。
――そうだ。結局のところは、何のことはない。
覚悟だ何だと言っていながら……実際のところ、僕は死ぬ気など欠片もなかった。それだけのことなのだろう。
そんな当たり前のことを、今度こそ本当に、理解した。
次が第十五階層だろうと違かろうとも、関係はない。僕は生きて、帰還する。絶対に、だ。
そんなことを、誓うでもなく自然と思い――
「……ま、とりあえずは治療が先かな」
まずは身体を完調させてからだと、アイテム画面からポーションを取り出すのであった。




