第二話:おまわりさんのお仕事
一話 文体修正しました。
承
ー とある平野 ー
「「「「「わー覚えていろー!」」」」」
へんぴな街道でご老人を襲っていたチンピラ怪人達が
ベタな捨て台詞を吐いて逃げ去っていきます。
戦闘でなにやら少々頭がふらつくが、
無論その逃走を許すはずもなく追いかけようとしました。
ですが、保護していた老人の存在を思い出し、
ふとその姿を確認すると……
「お爺さんしっかり。……大変、息していない!」
老人はなぜか倒れていたのです。
やはり暴力沙汰は年寄りには刺激が強すぎたのか?
* * *
ー とある街道 ー
「ショックで何があったのかよく思い出せんのじゃが、
とにかく助けて下さってありがとうございます」
息を吹き返したお爺さんはお巡りさんに熱くお礼を述べました。
「長年この辺りで暮らしておりましたが、
あんなおかしな連中には初めて合いましたじゃ」
当たり前です。あんなおかしな連中がそこら中にいては溜まりません。
年寄りの話は長いと相場が決まっているのでこの後も長々とおしゃべりに、
お巡りさんはついあいました。
幸いお巡りさんはよくお年寄りに絡まれ……慕われるので、長話には慣れっこでした。
ー とある村へと通じる脇道 ー
「おお、ここでおろしてくだされ。いやすまないこって、わざわざ馬車で送ってくれて」
「いえ、皆さんの御役に立つのが聖職者として刑事としての勤めですから」
(まあ犯人達には逃げ得られてしまいましたが)
「こんなメンコイお巡りさんなら孫の嫁に来て欲しいの〜う」
「いえね、お爺さん、だから何度も言いますが僕は男ですから」
司法関係者を表す真っ黒い司祭司教の制服。
それは一般的なお巡りさん(司祭)の制服です。
長い金髪を三つ編みに結い男にしては少々小柄な、
女性にしては少々大柄な微妙な細身の体躯。
細いマユ、薄い唇、筋の通った鼻。
絶世とまではいかないがなかなかに美人であることは間違いありません。
- だが、男ですが!
などとやり取りをしつつ名残惜しそうに去っていくおじいさんを手を振って見送るのでした。
そしてお爺さんのお話を思い出します。
お爺さんの住んでいた村は稲が日照りで全滅してしまいました。
だがそれでも、お爺さんは諦めなかったのです。
来年の作付けの為に半年間かけて周辺の村々をまわり、
比較的無事であった余裕のある村々に頼み込んで、
ほんの僅かづつだが種籾をわけてもらったのです。
ようやく必要な量を確保して村に帰ろうとしたその時、
その集めた命よりも大切なその種籾を、
おかしな怪人一味に奪われかけたが、
運良くお巡りさんの救助によって危機を脱し、
無事に村へと帰ることができた、っと。
ですが、果たしてその芽が出るかどうかはまだ誰も知らないのです。
……それでも彼は、
「大丈夫。お爺さんのお米ならきっと芽をだしますよ」
っと、遠くなるお爺さんの人影を見つめながらそっとつぶやいたのでした。
「しかし……お巡りさん、か。……辺境取締出役と区別はついてないですよね」
* * *
この国では建国以来、
三権分立の法により
立法は貴族院、
行政は魔導士協会、
そして司法は生教教会が取り仕切っている。
司法……司法警察権と裁判権をもつ法と秩序を守る神を信奉する生教教会では、
各地の治安維持のため、地元の警察署や地方本部では警察官や刑事が
日々各町を見回り、その町を守っている。
その中でも特に辺境を巡回査察する彼ら辺境取締出役は
警察組織関係者からは通常『巡回査察官』もしくは『武装査察官』などと呼ばれ、
一般人には通称『お巡りさん』、
または犯罪組織などからは俗に『八州廻り』などと揶揄されている。
そもそも、なぜ辺境取締出役なる役職があるかといえば、
かつて環八州の各洲都を含む王都周辺以外の人口過疎地である辺境部では
その権威が及ばず盗賊や犯罪組織が増加して治安が悪化していたものの、
その対策をとる為には天領(王国直轄領)や私領(諸貴族、協会、教会領等、飛び地も含む)が
各辺境地に散在していたため広域的な警察活動が難しい状況になっていた。
そこで辺境部の状態を実際に調査,視察することを目的に
逮捕・処罰の権限を持つ「辺境取締出役へんきょうとりしまりしゅつやく」を創設。
彼ら辺境取締出役は辺境八州の天領・私領の区別なく巡回し、
治安の維持や犯罪の取り締まりに当たったほか、風俗取締なども行われている。
そう、美貌の武装査察官コルトは今日も辺境を巡回し悪を裁くのであった。
* * *
ー インマウスの町 ー
そんなこんなで雑事がありましたが彼のお仕事は辺境各地の村や町の巡回査察です。
そこで彼はとある町へ立ち寄りました。
そここそ次の巡回査察の監査対象の『インマウスの町』でした。
しかし彼はこの町の役所に査察の宣言を通達しにいく前に、
町に唯一ある酒場兼宿屋に風俗取締の様子見がてら立ち寄るのでした。
なぜなら時間は既にお昼過ぎ、
こういう場所は大抵食堂兼任しているので、
単に食事を済ませておきたかっただけなのですが。
ー インマウスに一軒 だけある酒場 ラボメンハウス ー
「いらっしゃい」
そこには看板娘というにはだいぶトウのたった女将さんがだらけていました。
時間が悪いのか他に誰もいません。
「女将さん。ここ、食事できます?」
「ええ、お昼はランチがでてるよ。それでいいかい?」
「じゃあそれで」
早速食事を注文してカウンター席に着きました。
「とりあえず、お水を下さい」
「あんた見た所、他所の人だね。
この辺じゃ水の質が悪く、綺麗な水は貴重だから酒の方がまだ安いよ」
と、お酒を進めてきます。
別に水の質が悪い土地では水代わりにお酒を飲むのは当たり前なので、
例え勤務中に飲んでも問題ありません。
「じゃあそれでお願いします」
「オススメの酒をつけておくよ」 にやり
* * *
「……呆れたね! かなり度数の高い酒なのにちっとも酔いやしない」
なぜか、水の変わりだというのに酒精の強い酒を次々と進める女将さん。
「いや〜仲間内じゃうわばみ(大蛇)で通っていますから〜。
このお酒なかなかいけますね。こんなに安くていいんですか?」
「……いや〜、すごいね。気に入ったよ。よし、私のおごりだ。さあ飲みねぇ〜」
そう先程からなぜか強く酒を進めてくる女将さんである。
酔わせてどうするつもりなのか?
っと、女将さんが酒の栓を落としてしまいました。
「あっ、拾いますよ」
思わず屈んで栓を拾うコルトですがそのスキに、
『ラチがあかない』とばかりに女将さんに頭を酒瓶が割れるほど強く殴られてしました。
「キュ〜ウッ〜」
「ッチ。まったくしぶといやつだよ」
っと、忌々しげに言いました。
「ちょいとお前さん、このカモを運んでおくれ」
果たしてコルトはいったいどうなるのでしょう?