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話半分  作者: 要 白江
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ガムカムタベル

「残り五分だしちょっと聞いてくれんか」

そういわれておきた生徒はいなかった。三十分前のことである。現代社会の時間だった。アレに比べるとこの授業はいくらかましに思える。三十人以上いるクラスで個人授業が行われる光景は見たことがないものだった。今年に入って三回目の授業は未だにガイダンスの域を出ない為、仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 相変わらず一番端の、つまり一番窓際の、一番後ろの席を使っている僕は、実のところ、他の授業でも大抵この辺りを使っている。要は出席番号だ。

他の生徒からはよく羨ましがられるけれど、座ってみれば案外不便なことの方が多いココはやはり今日も不便だった。特に、今前で話している英語教師は声も大きくないし、黒板に書く字も小さい。こと目の弱い、視力の弱い、眼鏡の手放せない僕にとっては結構な問題だ。そんなだからこんな風に授業中にもかかわらずムダな思考とペンを走らせるようなことになるのだ。

 そういえば、ムダな思考と言えば、ガムって食べるものなのだろうか、食べる、食う、頂く、は咀嚼して嚥下する二つの動作をワンセットで表す動詞ではないだろうか。そうすると、ガムを食べるというこの二文節は誤りなんじゃないか?本当は噛む、なんじゃないか?

「今日はここまでとします。このパラグラフの意味をしっかり考えてくださいね」

 どうなんだ?


「どうなんだろう?」

 昼休み。僕は化学室にいた。僕と仲間達は大体いつも昼休みは化学室にいる。というか、授業がないときはいつも化学室にいる。それは、僕らが化学部のメンバーであるから、というのもあるし、普通の教室で大勢の中で食べるということに居心地の悪さを感じるような面子が多いから、というのが大きい。そもそも化学部なんてマイナーなとこに入る高校生がコミュニケーションスキル豊富なわけがない。いわばこの避難は、僕らも関わらないから関わろうとしないでくれ、という逆コミュニケーションスキルなのだ。

「言い訳がましい地の文ねぇ。まぁ確かに、言われてみれば食べるの定義は知らないなぁ」

「そもそも考えないですよね、そんなこと」

 化学部の顧問の先生達二人はそう言った。と、思ったらインターネットを開いて何事かを調べ始めた。

「食べる、とは。①良く噛んで飲み込む。②暮らしを立てる、生活する。③食う、飲むの謙譲語。へぇ謙譲語なんだ。何に謙るのか知らんけど私達はいつも誰かに謙ってるらしいよ?」

 謙譲語なのか、謙譲ってなんだっけ?敬語の一部なのはわかるけど古文苦手なんだよなぁ。憶えてない。

「というか、話がそれてるから。今見るべきは①の意味でしょ」

「まぁそうなんだけど、なんか納得いかないというか」

 そんなこといわれても。先生は言うやいなやまた何かを調べ始めた。今度はガムと食べる、噛むを関連付けて調べているようだ。

「あ、掲示板に同じ質問がある。答えは、食べる、だってさ。理由は、飲み込むから」

 飲み込むの!?アレ飲み込むの?すげえ人がいる。どこの人だ?

「スペイン人だってさ」

 あ、そう。

「まあガムだから云々、っていうよりは飲み込むか飲み込まないかじゃない?」

 それはあれか。ガム食べる?とかって聞かれて、うん食べる、って返したら飲み込まなくちゃいけないのか、アレを。

「ガム噛む?って聞けばいいじゃないですか。というか授業中にそんなこと考えてちゃいけないですよ。先生もそんなほいほいインターネット使っていいんですか?生徒の前で」

「ごめんなさい」

 怒られた。先生と僕が、もう一人の先生に。ちょっとしょんぼりだ。

「ま、まあとにかく。今後はガムは飲み込む時以外は噛む、ということでよろしいですね?」

「よろしいですよ」

「いいんじゃない?」

 うん。なんだかすっきりした。さて、部員にも説いてくるか。

 弁当を食べながらそんな話をしていると、部員達にげんなりした顔をされた。なぜだ。

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