学校編2
魔法テストの審査は2つ。
一つ、魔力の量
一つ、魔力の力
この2つがキーである。
私の番が回ってきたが、一生懸命頑張ってる振りをして終わらせた。
当然、私の成績はC判定。一番ビリだ。
先生から「ある意味すごい」と誉められた。
さて、次はルミナである。
「では、ルミナ=メルムッド。魔法を唱えてください」
「は、はい」
スーッハー、と息を整える音がする。
緊張してるようね。これぐらいで緊張するなんて、可愛いわ。
私は足を組ながらジッと見ていた。
「『死を意味する破壊の炎よ!我が手に宿るは紅蓮の炎!』」
唱えた瞬間、ルミナの手に赤黒い炎が出現する。
上級魔法ね。さすがルミナだわ。
ルミナは炎を出現させたあと、用意されている的に投げ放った。
「あまいわね」
私は意地悪に的を強化する。
激しい爆音をたてた的は傷一つ着かない。
だが、私は目を見張った。
ルミナがさらに詠唱を始めたのだ。
「『全ての物を焼き尽くせ!我が炎は竜の如く砂塵となれ!』」
爆音から轟音に変わる炎。
その炎は的を中心に竜巻と化したのだ。
数秒後、的は跡形もなく消え去っていた。
周りからは拍手と歓声が巻き起こる。
私も気付いてみれば立って拍手をしていた。
「ちょっと、そこどきなさい」
ルミナの後ろに立つアリアが不機嫌そうな顔をしている。
一瞬の内に空気が変わり、皆の見る目も変わる。
「では、アリア=エーメルト。魔法を唱えてください」
「了解しましたわ」
アリアは良くわからない戦闘態勢になり、腕を広げる。
ああ・・・またか。
去年もあの構えで、的どころか校舎を壊滅状態にしたものだ。
教師も呆れるように、ただ溜息を吐く。
そして詠唱を唱える。
「『天より来たれ、余は三大一族の力を欲す者なり――』」
詠唱の途中、周りにいる生徒はその場を避ける。
・・・破壊されるのか。この校舎は。
私はしょうがなく、あの魔法を止めようと思った。
手をバレないようにアリアに向ける。
そして呟く。
「ディレクト」
「『光の柱は我が敵を貫く刃なり。光よ。我が敵を滅せよ!』」
アリアは魔力を腕に宿すが、何も起こらず沈黙する。
私がした魔法は解除魔法。放とうとした魔法を拒絶する。
普通は詠唱が必要だが、私には関係ないこと。
たった一言の中に詠唱が入っていると思えばいい。
「な、何でですの?確かに詠唱したのに・・・?」
アリアの困った顔も可愛い。
私は欲望のあまり、舌で唇を舐める。
私の悪戯心はさらに勢いを増し加速させる。
「アリア=エーメルト。このままだとC判定だ。続けるか?」
教師の言葉が胸に響くのか、アリアは一歩後ずさる。
「ち、違いますわ!誰かが私の魔法を遮断していますの!」
「はぁ・・・。アリア=エーメルト、優秀故に頭が狂ったか」
教師は溜息を吐きながら、さぞ哀れむかのように呟く。
いや、普通の教師はそんな酷いこと言わないわよ?
私は次に移る。バレないようにアリアの足に魔力を込める。
だが―――
「捕らえた!」
アリアは私の魔力の糸を強引に掴む。
魔力の糸とは、そのままの意味である。
操る物に糸を付けて従わせる。
その糸は普通の人間には見えない、はずなのだが。
何故かアリアは糸を掴んでいた。
他の生徒や教師はただ呆然としている。
どうやら気付いていない。
私は糸を戻そうとするが、アリアの魔力が私の糸を浸食する。
なるほど。こうやって誰かを見つけるのか。
隠せられないな。
「見つけたわよ!・・・・・・え?」
既に周りに生徒はいない。
私がテレポで教室に送ったのだ。
しばらくはここに来ないだろう。
アリアは糸の正体を知って唖然としている。
成績Cの私がやったという事実に間を受けていた。
「ア、アナタが・・・?そんなはずないですわ・・・。だって、アナタは魔法が使えないはず」
私は表情を動かさずに冷めた態度で言う。
「ああ。確かそんな設定だったわね。でも魔力量からしてそんなの有り得ないでしょ?」
「せ、設定、ですって?」
「はっきり言うわ。私は魔法使えるわ。貴様以上にね。わかった?」
つい口調が荒れるがどうでもいい。
さて、どうやって可愛がろうかしら。
「じゃあ、教室でのことも?」
「私よ。・・・あら、なに?その顔は?」
私の言葉でアリアの表情が鋭くなる。
どうやら怒ってるようだ。
「許せないわ・・!アナタのような卑怯者、エーメルト家が黙ってないですわ!」
アリアは言うと、魔力が解放される。
どうやら全力のようだが・・・はっ。私には及ばない。
アリアの魔力にこの学校が軋む?
たかが学校?弱すぎるわ。
「喧嘩なら受けてあげるわ。そうね、10秒耐えられたらキスしてあげる」
アリアの額に青筋が浮き立つ。
「それはコッチの台詞よ。全力で来なさい!エーメルト家に対しての罪は重いですわ!」
へぇ・・・私に全力で来い、と?
馬鹿な子ね。まあ可愛いからいいけど。
全て解放すると厄介だから、半分くらいでいいか。
私は自分の魔力に制御魔法をかけているので、詠唱を始める。
こればっかりは詠唱が必要。だって危ないから。
「『我が名はミーシャ=エルメス、前ゼウスの名において命ずる、一定時間の魔力解放を開始』」
アリアは『ゼウス』と言う名に疑問を持つ。
だが、アリアはそんなことに集中できなかった。
私の魔力が解放された際に、学校が、否、世界が軋み始めたのだから。
軋む。学校が。大地が。大陸が。世界が。
ミシミシと床が割れ始める。
学校のサイレンが鳴るが知らない。
アリアは私の魔力量に溺れていた。
殺意と魔力をアリアにぶつける。
アリアは今までにない殺意に息が出来なくなっていた。
「どうかしら?私の魔力は」
「が・・・っ・・う・・うぅ・・・・!」
呂律が回らない。息が出来ない。
アリアは意識が遠退いていくのを確認した。
「あ、やり過ぎたわね」
私は魔力に鎖をかける。
そのとたんにアリアは崩れ落ち、息をしっかりさせる。
「大丈夫かしら?」
私はアリアに手を貸そうと伸ばす。
「ひっ!」
「しっかりして頂戴。ほら」
「ア、アナタ何者?」
アリアは額に浮かべた汗を手で拭う。
私は笑顔で、ただこう言うしかなかった。
「化物よ」