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4話 人間側・魔獣側

よろしくお願いします。紛らわしいので、一応注意書きとして書いておきました。


能力ちから・・・契約によって得た技法スキルのこと。

技法スキル・・・訓練などによって修得した能力のこと。

ルビが振ってなかったり、語尾に何もない場合の能力は、通常の意味での能力です。本当に紛らわしいですね。すみません・・・

ネール皇国首都アルスターの北側にある森、常緑の森。

この森は春夏秋冬、いかなる季節を問わず、様々な花が咲き乱れ、常に木の実が実る豊かな森である。だが、豊かな分、数々の魔獣が住んでいるため、人間は滅多に近寄らない場所だ。そんなこの森の中を、黒い騎士の制服に身を纏った、5人組の騎士たちが歩いていた。

「ったく!何で俺たちが気色ワリー魔獣なんかを探さなきゃなんねーんだ?」

5人組の一人の、目つきの悪い騎士が愚痴をこぼす。

「そおそお!なんで天下の第2騎士団の俺たちが、こんな下らねー事をしなきゃなんねーんだか」

愚痴を肯定するように、隣を歩いていた騎士がそう言った。

彼らは第2騎士団の魔獣捜索隊の隊員たちだ。この5人はつまらなそうに、不満そうに、森の中をひたすら歩いていた。

「おい!あれ見ろよ」

5人のうちの一人、先ほど愚痴をこぼしていた騎士、騎士Aが何かを発見した。彼は他の騎士B~Eを手招きで呼び寄せた。

「うっひょ~!たまんねーぜ・・・」

騎士Bは鼻息荒く、興奮しながらそう言った。彼らの目の前には、ハーブを摘んでいる一人の少女がいた。

何がたまんないのか・・・それは彼らにとって、目の前の少女が極上の獲物だからだ。少女は人間ではない。外見は人間とは然程変わらないが、ラベンダー色の髪を掻き分けるようにして突き出ているとがった耳が、少女が魔獣だという事を示していた。

中位の人型魔獣の一種・・・エルフ。それが彼女の種族名だ。

「いいか、お前ら。3数えたら、確保だ」

エルフはその美しい外見と大人しい性格上、殺されることは少ない。しかし捕らえられ、高値で夜の娯楽品として、奴隷として、販売される(・・・・・)のだ。彼らはエルフの少女を捕らえ、闇市場で売り捌こうと考えていた。

「1、2の3!」

騎士たちは草むらから飛び出し、少女の目の前に勢いよく躍り出た。

「え!?あ、あの・・・」

エルフの少女は急に現れた男たちに驚き、手に持っていた籠を落としてしまった。

「へへっ!大人しくしてろよ、お嬢ちゃん」

騎士Cが品のない笑みを浮かべ、エルフの少女に言った。

「きゃぁ・・・こ、来ないで」

気味の悪い笑みに恐れをなした少女は、小さい悲鳴を上げた。そして、拒絶の言葉と共に無行程で光魔法を放った。騎士Cをまばゆい光が包む。少女が使ったのは、リフューザル(拒絶)という名の中級光魔法だ。エルフは殺傷を嫌う。それ故に、ただ相手を気絶させるだけの効果しか持たないこの魔法を、少女は使ったのだ。

「へっ、馬鹿が!聖なる人間様に光魔法が効くかよ!」

騎士Cは顔面にリフューザルを直撃されたにもかかわらず、ピンピンしていた。人間はどの生物よりも光耐性が強い。個体によっては、最上位の光魔法すら、無効化してしまうほどに。

自分の魔法が通じなく、困惑していた少女を二人の騎士が拘束した。

「いや!放して!」

「ふへへ・・・痛い目に遭いたくなかったら、大人しくするんだな」

拘束している騎士Dが、目じりに涙を浮かべている少女を脅す。

「よし、縄で縛るぞ」

片方の騎士Eが、収縮させて腰につけてあったロープのようなもので、少女の腕を縛り始めた。

「ぐへへ・・・これでぇ・・・」

騎士Dの声が途中で途切れた。

「どうした?」

見張りをしていた3人のうちの一人が、少女を拘束している二人のほうに振り向いた。

「なぁ!?」

その騎士の目に映った光景は、異常だった。呆然として座り込む少女、少女の両脇にいる首なしの二人の騎士。血が噴水のように飛び散り、少女の髪を染めた。

「だ、誰だ!?誰がやりやがった!?」

騎士Bは少女が犯人でないと断定して、辺りを見回した。すると、近くの木の幹から血が流れてくるのが見えた。そしてその流れを溯ると、16歳ほどの黒髪蒼眼の少年が、生首を左手にぶら下げ、木の枝の上に立っていた。

「て、てめぇ!」

「よくもやりやがったなー!」

騎士BとCが少年に向かって剣を構えた。木の枝から降りた少年は、生首をぽいっと捨てると、左手に魔力をこめた。すると、収縮していた刀が元の大きさに戻った。そして、一閃・・・。常人では目視することが出来ないほどの、速さを伴った一太刀。それにより、また二つの生首が出来上がった。

「下衆が・・・。エルフの少女が、いったい何をしたというんだ?」

グシャッ!という音が辺りに響いた。少年が生首を踏み潰したのだ。まるで悪魔だ・・・。騎士Aは少年の残酷な行為に、その圧倒的な強さに、戦いた。

「ひ、ひいい~!」

騎士Aは恐怖のあまり、騎士にあるまじき情けない声を上げながら逃げ出した。

しかし・・・。


ドスッ


「ぐぇ・・・」

少年が投擲した、深海のように暗く蒼い刀が、騎士Aの命を奪った。

刀を回収した少年は、腰が抜けてしまって立てなくなっている、エルフの少女に近寄った。

「ひっ!こ、殺さないで・・・お願い・・・」

少女は涙を流しながら、懇願した。

「これ・・・お前のだろ?」

「えっ・・・?」

少年は少女の落とした籠に、再びハーブを入れると、少女にそれを手渡した。少女は、わけがわからないといった様子で、少年を見つめた。

「あの・・・どうして、どうして助けて、くださったんですか?」

少女は小刻みに震えながらも、なんとか言葉を発した。

「・・・騎士が嫌いなんだよ。正義を翳しておきながら、差別・虐殺を平気でする騎士が・・・」

「そ、そうですか・・・」

少女は、少年の心の中の悲しみを感じ取ったため、それ以上は何も聞かなかった。少年は少女をエルフの集落まで送り届けると、自身が一時的に住処としている邸宅へと帰っていた。




「おかえりー、ウィル!どこ行ってたの?」

黒髪蒼眼の少年・・・ウィルを、水色の髪と同じく水色の瞳をした少女が出迎えた。

「常緑の森」

「ふ~ん。・・・何しに?」

無垢な笑顔をウィルに向ける少女。

「騎士狩りをしに」

「ぶー!ダメだよー、むやみに殺しちゃー!」

少女は口を尖らせ、ウィルを注意した。ウィルは、そんな少女をじろりと見た。

「お前も同類だろ、フロリーナ」

「違うもん!私は仕方なくやったんだもん!」

「・・・そういう発言はやめた方がいい。やつらに怪しまれるぞ?」

「うぅ~・・・」

少し怒った表情でウィルは言った。フロリーナは少し沈んだ顔をすると、唸った。



ガチャッ



二人がいるリビングの扉が開かれた。

「荷物をまとめろ、ここが騎士団にバレた」

入ってきた体格のよい、短い金髪の男が二人にそう告げた。

「マジかよ・・・もうバレたのか」

「ええー!せっかくゆっくりできるかと思ってたのにー!」

「グダグダ言うな!行くぞ」

男は二人を一瞥すると、部屋を出て行った。






魔法共有マジックシェア?」

カイルはエリスの口から放たれた、聞いたことのない技法名に首を傾げた。

「そう。それが私の能力ちからよ」

「名前からして、予想はつくけど。もしかして・・・エリスが使える魔法を、俺にも使えるようにするっていう能力ちからか?」

「ええ、それで大体合ってるわ」

エリスの得た能力ちから、魔法共有。それは、繋がりを持たぬ者では保有していても意味がない技法だ。謂わば、契約者・契約魔獣専用の技法といってよい。この技法は非常に単純で、契約者・契約魔獣双方が、互いに修得している魔法を使用できるというものだ。制限もなく、種族固有の魔法をも互いに、扱うことが出来るのだ。エリスは技法本をカイルに渡し、カイルはそれを読みながら、彼女からの説明を聞いた。

「じゃあ、俺はエリスの・・・吸血鬼固有の魔法をも扱えるって事なのか?」

「ええ、しかも無行程でね」

カイルは険しい顔をすると、俯いた。

「どうしたの?」

エリスは心配そうに、カイルの顔を覗き込んだ。

「・・・恐ろしくてさ」

「えっ?」

「自分は何もしていないのに、知らない間にそんな強力な技法を身につけていたから。・・・なんだか、自分が化け物じみたような気がしてきて・・・。それが、怖くてさ・・・」

カイルは鬱屈した雰囲気を放っていた。

「カイル・・・。自惚れは止しなさい。あなたよりも強い存在なんて、世界には数え切れないほどいるわよ」

そんな様子のカイルを見たくない彼女は、励ましの意味もこめて、そう言い放った。

「・・・そうだよな。ごめん、エリス。色々ありすぎて、混乱してたみたいだ」

カイルは頭を軽く振ると、顔をエリスに向け、苦笑いした。その表情にはもう、鬱屈した雰囲気はなかった。

「エリス、少し頼みがあるんだけど・・・」

「なにかしら?カイル」

元の雰囲気に戻ったカイルに、エリスは内心ほっとした。




ガキィン!



金属と金属がぶつかり合う音が、訓練場に響いた。カイルとエリスは、互いの愛用の武器で斬り結んでいた。数分前にカイルがした頼み事とは、手合わせだった。

「すごいな、エリス!まさかこんなに剣術が巧いなんて思わなかったよ」

「へぇ。巧いんだ、私。独学でも結構何とかなるものなのね」

エリスはカイルから、軽やかなステップで距離をとると、そう言った。

「独学でその細剣術を?・・・なら、エリスには才能があるんだろうな」

エリスが使っている細剣は、昨日彼女が作り上げた漆黒の細剣だ。彼女はその細剣をお披露目した後、密かに収縮させて、ドレスの中に忍び込ませておいたのだ。

「それにしても・・・硬いな、それ」

カイルは蝙蝠で構成されているそれの、あまりの硬さに驚いた。

「当然よ。そうでなければ、武器として役に立たないでしょう?」

エリスは剣先をを斜め上にし、右足を軽く前に出して、構えを取る。彼女の細剣は丸みを帯びた形ながらも両刃で、桔梗の花の彫刻が彫られたグリップガードが付いている。

エリスは素早い踏み込みで、2連続の突きを放った。

ガキィン!

キィン!


「くっ!」

「ふふっ」

エリスの突きの速さに、カイルは苦い表情をしたが、かろうじて手に持つ長剣で防いだ。

「よく防いだわね」

エリスは余裕の笑みを浮かべた。

「・・・なめるな!」

エリスのその表情に、カイルはイラッとして、叫んだ。彼は、片手で扱うには長い、片刃のその長剣をエリスへと向けた。カイルは構えた長剣を、右下から左上へと斬り上げた。エリスはその斬撃の速さに驚いたが、細剣の丸い腹で受け流した。斬撃を流されたカイルは、長剣を左側に引くと、横に薙いだ。


ガギィン


「あっ!」

片手で繰り出したとは思えない重い一撃に、エリスの手は痺れた。そして、手から細剣が弾き飛ばされた。飛ばされた細剣はクルクルと回転しながら落下し、トスッっと地面に突き刺さった。

「俺の勝ちだな」

「・・・そうね」

カイルは呼吸を整えると、地面に長剣を刺し、座り込んだ。一方のエリスは、自身の痺れた手を少しの間見つめた後、カイルの長剣に目を向けた。

「その剣・・・。オリハルコン製よね?」

エリスは少女のように首をかしげながら、そう尋ねた。

「ああ。それが・・・どうかしたか?」

オリハルコンとは、この世界で最も貴重で硬い金属で、魔鉱石のようにそれ自体が魔力を有していて、属性石と混ぜるとその属性の魔力を有した金属へと変化する。

「属性はなにかしら?」

興味津々といった様子で尋ねるエリス。カイルは自身の、微弱な白い光を放つ青い長剣を地面から抜いた。そして、エリスの細剣と同型のグリップガードに彫られた、ブルースターの花の彫刻を見つめた。

「光と水だよ」

「二属性?ふーん・・・売ったら相当するわね」

エリスは少し楽しそうに言った。

「いくらくらいだ?」

カイルは金に執着はないが、長剣の価値に興味が沸いた。

「私の見立てだと、少なくとも20億は超えるわね」

「そんなに?」

カイルは驚いた。20億とは中企業一社の、約半年分の純利益額とほぼ同額だ。

「ええ」

エリスはうれしそうに言った。

「この剣は、俺が騎士学校卒業の際に、父さんが俺に送ってくれたものなんだ。」

カイルは長剣の柄を軽く握った。

「優しいお父様なのね・・・」

地面に刺さったままの、自身の細剣を一瞥すると、どこか切なそうに呟くエリス。

「・・・ああ」

プルルル・・・と携帯の鳴る音が訓練所に響いた。

「ん?・・・俺のじゃない。エリスのじゃないか?」

カイルは自分の携帯を見て、そう言った。

「私?・・・げっ」

エリスはポケットから取り出した携帯の画面を見て、いやそうな顔をした。画面には”ダメ総将”という文字が書いてあった。

「はい・・・もしもし」

エリスは嫌々ながらも、通話した。

『エリスよ』

「何かしら?」

『カイルの傍に常にいるには、それなりの地位が必要だ』

「え、ええ。わかってるわよ?」

エリスは、セインの急な話の展開についていけていない。

『よって先ほど、お前を私の特別推薦枠で、カイルの補佐官にと議員共に推しておいた』

「なによそれ!?私に騎士になれと?」

エリスは”騎士”のことを良くは思っていない。だから、セインの発言に怒りを覚えた。

『まあ、待て。騎士にはならなくて良い。ただ、その地位には就いてもら『ベラスケス総将!そんな勝手なことが許されると!・・・』ええい、喧しい!』

誰かが、彼の通話を妨害した。

「・・・・・・」

『とにかく、エリスよ。お前はカイルの・・・』

ブツッ・・・

ツーッツーッ・・・

通話が途中で切れたことに、エリスは戸惑った。

「な、何なのよ。一体・・・」

エリスはセインのあまりの無茶苦茶さに呆れ、ため息を吐いた。

次回でようやく、戦いに入ります。

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