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2話 疑り深い彼女

やっぱり3人称視点(私の場合おそらく作者視点)だと書きやすいですね。1人称視点は場面に限りが出てくるので、書きづらい・・・・

 5大国の1つであるネール皇国の街並みは、他国とかなり異なる。現代風の高層ビルが乱立し、住居も統一性が皆無だ。そんな街を数多く保有するこの国の首都、アルスター。その都市にある1つの大きな邸宅、デューラー邸。

その1室は今、大勢の人がいるにも関わらず、不気味なほどの静寂に包まれていた。


「今、なんて言いました?」

静寂を破ったタニスから出た声は震えていた。顔は驚愕に染まり、ありえないものを見るような目で、黒髪の女性を見つめていた。

「・・・ですから、カイルは契約者となりました」

「な、なんてことなの・・・」

黒髪の女性、エリス・シュタウフェンから発せられた、最大の禁忌を犯した背徳者の呼び名・・・契約者。契約者はどの国の人間からも良くは思われない。まして国民の模範ともあろう大貴族の嫡男ならば、なおさらに。故に契約者は契約していることは秘匿するし、その相手も上位魔獣の場合は、人間に化けて生活している。

しかし、エリスは隠すどころか、自ら暴露したのだ。タニスは息子の生存に喜んだのもつかの間、再び気をどん底まで落とされた。これから自分の息子は背徳者というレッテルを貼られたまま、生き続けなければならない。彼女は絶望感を感じていた。

「大丈夫だよ、母さん。それにエリスがそうしなければ、俺は死んでいたみたいだし」

「カイル・・・あなた・・・」

カイルの自信に満ちた”大丈夫”という言葉にタニスは涙した。大勢のメイド、執事その他諸々が呆然とする中、カイルとエリスを黙って見ていた中年の渋い男性が口を開いた。

「エリス君、といったかな?」

「はい・・・」

「改めて礼を言わせてもらおう。息子の命を救ってくれたこと、感謝する」

カイルの父、フィリウス・デューラーは深々と頭を下げる。平民と貴族間の仲が比較的良好なネール皇国とはいえ、貴族が自分より格下の立場の、それどころか魔獣などに頭を下げるなど滅多にないことだ。

「だんな様!頭を下げられるなど、お止めください!」

「そうです!こんな人に仇なす魔獣など・・・」

フィリウスの異常ともいえる行為にメイドや執事たちは抗議の声を上げる。ネール皇国は10年ほど前まで貴族主義社会だった。彼、彼女たちの反応はその名残なのだ。この国は現在、平民と貴族がともに政治を行う共和政だが、環境の変化にそう早く順応できるわけではない。

「私は貴族としての立場ではなく、父親としての立場で礼を言っているのだ」

反論を許さないといった威圧感がフィリウスから放たれる。それを感じ取った彼らは、それ以上は何も言わず、引き下がった。

「しかし、君は本当にかのヴァンパイア・ロードなのかね?確かに君の紅い瞳と膨大な魔力量は、その証拠となりうるのだが・・・」

「では、決定的な証拠をお見せしましょう」

エリスはフィリウスに対して己の存在がどういったものなのか、証明するために行動を起こした。彼女は右手を横に水平に伸ばす。その時、変化が起きた。キキキ・・・と蝙蝠が鳴く声が部屋に響いた。その瞬間、何もない空間から大量の蝙蝠が出現し、エリスの右手に集まり始めた。

「ひっ!」

何人かのメイドが気味の悪さに小さい悲鳴を上げる。エリスの右手に集まった蝙蝠たちはドロドロの液状に変化すると、すぐに固まった。そして、彼女の右手には蝙蝠が姿を変えた、漆黒の細剣が握られていた。

「これでいかがですか?」

出来上がった蝙蝠製の細剣を前にかざすエリス。

「認めよう・・・君の言っていることは本当のようだ」

蝙蝠を自由に意思で操ることが出来るのは吸血鬼種のみ。先ほどの現象はまさに、彼女が吸血鬼ヴァンパイアということを証明していた。さらに太陽光を浴びても平然としている。フィリウスはもう認めるしかなかった。

「デューラー卿!緊急の事態です!」

「何事だ?」

いきなり土足で室内へと入ってきた騎士に少々驚きながらも、フィリウスは平坦な声で問うた。

「ガラハン卿のご息女、ミレイ様が何者かによって誘拐されました!」






夜、エリスはカイルの自室を訪れていた。

「くそっ!いったい何が起きているんだ!?」

騎士の予想だにしない報告にカイルは焦燥に駆られていた。フィリウスは騎士の報告を聞いた後、その騎士と共に国会へと向かった。

「そう焦るのはよくないわ。落ち着きなさい、カイル」

「俺は1度殺されかけているんだぞ!?ミレイも俺と同じ目に遭うかもしれない・・・そう考えたら、冷静でなんていられるか!」

「こういう時だからこそ、そうなるべきなんじゃないかしら?」

自分の左薬指のサファイアを撫でながら、カイルを諭すエリス。カイルはイラついた様子を晒していたが、エリスがサファイアを撫で続けているうちに、不思議とカイルは冷静さを取り戻した。

「・・・怒鳴って悪かった。すまない、エリス」

「気にしなくていいわよ」

エリスはカイルのベットに腰掛け、そのままゴロンと、横向きに倒れた。

「そのまま寝るなよ、エリス。俺が寝れなくなる」

最後に冗談だ、と付け足して苦笑するカイル。そんなカイルを見たエリスはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「あら、契約を交わした者同士。言わば、私たちは夫婦めおとなのだから、寝床を共にするのは当然のことだと思うのだけど?」

「ほ、本気で言っているのか?」

カイルは頬を少し染め、慌てた。カイルの慌てた様子にエリスはクスクスと笑った。

「ふふっ、うぶなのね」

エリスは起き上がると、ベットから離れた。彼女はドアノブに手をかけた。

「どこか行くのか?」

「ええ、あなたのお母様が案内してくれた客室にね・・・。そこで寝ることにしたわ」

「ずいぶんと早いんだな、寝るの。ヴァンパイアの癖に」

先程からかわれた事への仕返しとばかりに嫌味っぽく言うカイル。その態度にエリスは不機嫌になった。

「ヴァンパイア・ロードは昼行性よ。そのくらい知っときなさい!」

バタン!と勢いよく閉まったドア。エリスが急に不機嫌になったことにカイルはやや冷や汗をかいた。

「案外子供っぽいやつだな。俺も人のことは言えないけど・・・。」






翌朝、カイルとエリスはタクシーに乗り、騎士団の総本部であるセントラルビルに向かっていた。

「カイル、あなたを呼び出したレイモンドという人ってどんな人なの?」

そう言いながら、エリスは右の人差し指を下唇に当て、挑発するようなしぐさをする。だが、カイルは正面を見たままで、エリスを見ていない。

「レイさんは騎士学校時代の先輩なんだ。優しかったし、頭もよかったけど、何より槍術の腕前がずば抜けて高かった」

「ちっ・・・」

「ん!?」

エリスの明らかな舌打ち。カイルは舌打ちに敏感に反応し、エリスに顔を向けた。

「尊敬してるのね・・・」

「あ、ああ・・・」

カイルは戸惑った。少し憂いを帯びた表情をエリスがしたからだ。

(不安なのか?)

契約者=背徳者という図式が成り立ってしまっているこの世界で、秩序を守るべき騎士が契約者となる。それは重い罪だ。だが、この国の国民の9割がたは魔獣=獣型魔獣と思い込んでいる傾向があり、エリスのような人型との契約とは思っていない。

(エリスは瞳の色以外は人間と変わらない。大丈夫だ、十分隠し通せる。)

現に、タクシー運転手もエリスが魔獣だとは全く思っていない様子だ。

(でも、エリスが悪いわけではないのに・・・。なんだか、悲しいな・・・この世界は)

カイルはそこそこの時間を思考に割いていた様で、現実に戻ってきたときには、タクシーはすでに目的地のセントラルビルエリアに到着していた。

「1800Gになります」

タクシーの運転手が後ろを振り向き、左手を差し出す。カイルは1000G札と500G、100G硬貨でピッタリ1800G支払うと、エリスの手を引き、タクシーから降りた。

「ふふっ、エスコートありがとう。・・・それにしても、相変わらず大きいわね」

エリスは目の前のビルの巨大さに呆れた。セントラルビルはそこらの高層ビルの10倍は軽く超える広さを誇るだけでなく、その巨大ビルが6つあるのだ。第1セントラルビルから第6セントラルビルまであり、正六角形の頂点をイメージさせるように建設されている。カイルとエリスの目の前にあるのは、ネール騎士団総本部が置かれている第1セントラルビルだ。

「久しぶりだね、カイル」

第1セントラルビルの入り口から金色の長髪の青年が歩いてきた。目つきは鋭いながらも、顔は非常に良く整っている。

「お久しぶりです。ウィルソン部隊長補佐官」

カイルは左手を軽く握ると、その手をとんっ、と軽く胸につけた。ネール皇国騎士団の敬礼だ。カイルにウィルソンと呼ばれた彼は、カイルを見ると苦笑いをした。

「せっかく会ったんだから、そんなに堅くならないでくれ」

その言葉にカイルは敬礼の姿勢を崩した。

「それで、そちらの女性が例のヴァンパイア・ロードかな?」

「な、なんでレイさんがそんなことを知っているんだ!?」

カイルが尊敬する先輩、レイモンド・ウィルソンから発せられたそれは、デューラー家以外の人間では知りえないはずの情報である。カイルは少し警戒し、5cmぐらいに縮んでいる、腰にくっ付けている宝剣を直ぐに、元の大きさに戻せるように魔力をこめる。一方のエリスはレイモンドを睨みつけ、いつでも攻撃できるように右腕に魔力を集中させた。

「そう警戒しなくても大丈夫だよ。昨日の会議後に僕は総将と共にフィリウスさんに呼ばれてね。・・・その時にそのことや教会の事件の詳細を聞いたんだよ」

胸の痛みはないかい?と心配そうに聞いてくるレイモンド。

「父さんに?」

カイルはレイモンドの応えに、首を傾げた。エリスは先程のレイモンドの言葉に違和感を覚え、余計に警戒の色を濃くした。

「どういうことかしら、レイモンドさん?どうして補佐官ごとき(・・・)が会議に出られるの?」

通常、国会で行われる会議や国政に携われる騎士は、団長以上の者だけであり、部隊長の補佐官などという地位では参加不可のはずなのだ。

「落ち着いてくれ、僕はもう補佐官ではないんだよ」

「答えになっていないわ」

「まあまあ、エリス」

カイルが宥めるようにエリスに声をかける。それによりエリスは渋々、発動しかけていた魔法を消去した。

「僕は5日前に、新設されることとなった第7騎士団の団長に任命された」

「だ、団長にですか!?おめでとうございます!」

必死に警戒していたのが嘘のように、カイルはレイモンドの栄転に喜んだ。

「騎士団が新設される?そんなこと私は知らないわよ?報道でもそのことは言っていなかったし・・・嘘なんじゃないの?」

エリスは警戒を強めたままにそう言った。人型最強種の睨みを浴びながらも、レイモンドは臆さず淡々と話し始めた。

「1月前に僕が結婚したのは覚えているよね?」

「はい、もちろん」

カイルは頷いた。

「その時に僕は総将の御眼鏡にかなったらしくてね。その25日後にお誘いが来たってわけなんだ。」

新しい騎士団の初代団長となる・・・それは騎士にとっては大層な名誉である。このことが事実なら、レイモンドは途轍もない大物、スターである。

「あら、そうなの?でも、本当かしら?」

エリスはレイモンドをまだまだ警戒している。一方のカイルはレイモンドのことをもう信じてしまっている様子で、「す、すごいよ。先輩・・・」と感動していた。

(もう・・・そんなんじゃまた死ぬわよ?)

エリスはカイルを心底心配した。

「本当だとも」

だが、エリスの疑念はこの男の登場で晴れることとなった。銀髪のセミロングに緑色の瞳をした20台半ばほどの外見の青年。彼はそんな若さで、首都圏に在籍するだけで50万を超える人数の組織のトップをやっているのだ。

「ベラスケス総将・・・」

予想外の人物の登場に、3人は硬直した。彼の名を呟いたレイモンドは慌てて敬礼をした。

「よい、楽にせよ」

「はっ!」

威厳あふれる佇まいに、重量感を感じさせる言葉。この人物がネール騎士団の№1である総将・・・セイン・ベラスケスである。彼の許しを得たレイモンドはぎこちないながらも、姿勢を崩す。セインはエリスに顔を向けると言った。

「お前の疑念、私が晴らそう。・・・しかし、ここでは目立つな。第7騎士団の執務室(兼総将執務室)へ行くとしよう。レイモンド、案内して差し上げろ」

ビッグスターの登場に彼らの周りには、ちらほらギャラリーができていた。

「はっ!」

レイモンドは今度は慌てず、きれいに敬礼すると「さあ、こちらへ」と言ってセインと共に、ビル内へと入っていく。

「カイル、行くわよ」

「へ?あ、ああ」

カイルは憧れの存在を間近で見られたことに感激して、自失していたようだ。

カイルとエリスは遅れないように小走りでセインとレイモンドの後を追った。

戦闘はまだまだ先になってしまいます。期待していた方、申し訳ありません。

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