⑤ 能力の解説
二人で無事に元の時間に戻ると、早速、妖精さんからサン・ジェルマンに解説が為された。
「今のが一番簡単で基本的なタイムトラベルよ。」
「へえ、そうなんだね。」
「薬を利用して、脳内に化学的な作用を起こし、過去の事象を観測可能にするものなの。」
「うん、赤ん坊の僕に会えたね。」
「薬の量を調整することで、もっと遠い過去や場所を見ることもできるわ。」
「そうか、じゃあ⋯。」
「でも、気をつけて。」
「⋯?」
「急に投与する薬を増やすと、タイムトラベル酔いなどの副作用があるから。」
「ああ、それはなんとなく分かるよ。」
「そしてこの方法を利用する限り、過去を改変する危険は無いのよ。」
「⋯どうして?」
「何故なら、コレは観測だけのタイムトラベルだから。」
「ああ、見るだけなんだ。」
「しかも、現場に居る人々からは認識されないの。」
「そうなんだ。」
「でも、万が一のことがあるから、さっき教えた原則は、いつも心に留めておいてね?」
「うん、良く分かったよ。」
「世の中にはね、とても感覚が鋭い人も居るの。そんな人には、見えないはずのタイムトラベラーが、まるで幽霊のように見えたりするのよ。」
「それは⋯なんだか怖いね。」
「それにこの世界には、無自覚に特別なチカラを持った者が、とてもたくさん居るの。そして、多くの人々が、持っているチカラを発揮すること無く、やがて老いて、死んでいくのよ。」
「⋯それは、もったいないね?」
「良かった。貴方もそう思うのね。」
「⋯うん。」
「だから私は、貴方の中に眠る全てのチカラを引き出してあげるわ。そのために私は、ここにやって来たのよ。」
「⋯僕の⋯チカラ?」
「さっきの薬もね、元々タイムトラベルの才能が無い人物には、大して効果が出ないのよ。」
「そうなの?」
「なのに貴方は、ぶっつけ本番でやり遂げた。この成功体験が重要なの。」
「うん、うん。」
「貴方にはソレができる。今のこの感覚を、良く覚えておいてね。まずは自分自身が、自分のチカラを信じること。コレが何より重要なの。」
「うん、分かったよ。」
そして妖精さんは、同じような実験を、彼と一緒に数回繰り返した後、彼に対する教育を次の段階に移した。
「さあ、次は物理的な移動よ。コレには自分の脳内の働きにプラスして、地球の磁場にも働きかける必要があるわ。」
「何か錬金術的なカラクリが要るんだね?」
「そうよ。また貴方の召使に頼んで、必要な物資を調達して貰ってちょうだい。」
サンジェルマン少年は、その日から妖精さんに言われるままに、どんどん道具の材料を集めたのだった。




