⑮ 約束の日
その後もたくさんの言語を学び、何度かタイムトラベルを重ね、その年齢に似つかわしく無い程の、多くの人生経験を積み、サン・ジェルマン少年は、いつしか17歳の青年になっていた。
彼はずっと、その年齢になるのが待ち遠しくもあり、怖いとも思っていた。
何故なら、それが妖精さんとの約束の日でもあったからだった。
「貴方がいつか私と同じ年齢になったら、真実を全て教えます。」
彼女は常々そう彼に言っていた。
そして彼女はいつも「自分は永遠の17歳だ。」とも言っていたのだった。
そんな1708年12月25日の朝食の後、とうとう彼女から彼にこんな提案がされたのだった。
「今日のタイムトラベルは、私の故郷の国に行きましょう。」
「故郷って、例のジャポン…日本だね?」
「そうよ。貴方のお誕生日記念の旅行よ。どう?嬉しいでしょう?」
「…すぐ支度します。」
「…良い子ね。」
彼が黙々と身支度を整えた後、二人で例の森の奥の広場に行った。
これからの事を考えているのか、何故か妖精さんも黙りこくっていた。
ポータブルタイムマシンのフタを開けて、仲良く二人で並んで、その前にしゃがみ込む。
彼が充電用のハンドルを回して、彼女がダイヤルで座標を合わせる。
1868年12月9日10時00分。
北緯35度00分。東経135度45分。
そして妖精さんが起動ハンドルを倒した。
周りの風景が滲み出し、やがて止まる。
いつも通りの手順は順調に進んだ。
到着した場所は、短い草の生えたちょっとした広場だった。
周りにはそれほど背の高くない木々が、規則正しく生えている。
それは出発地とよく似た風景だった。
サン・ジェルマンは一瞬、タイムトラベルが失敗したのかと錯覚した。
「大丈夫よ。よく見て。」
浮かない顔の彼に、後ろから妖精さんが声をかけた。
振り返るとそこには、背の低い木造の建築物があった。
一階建てだが、横方向に広いようだった。
手前には小さな池もあった。
それは、いつか彼女から教わった、日本の伝統家屋の❝書院造り❞よりも、むしろより大掛かりな❝寝殿造り❞に近い感じがした。
「ここは日本の昔の都、京都の藤原家よ。」
「そう…なんですね?」
「そして、あちらに座っていらっしゃるのが、この家の女当主、藤原与利子さんよ。」
彼女にそう言われてよく見ると、確かに障子を開け放たれた日本間の畳の上で、こちらを向いて姿勢良く正座している、着物姿の女性が居た。
見たところ、30歳代半ばくらいだろうか?
その女性の傍らには紐で封をした小さな小箱が置かれていたのだった。




