⑭ 高熱の果てに
「さあ、もういいだろう。俺はとても疲れているんだ。そろそろ帰って貰おうかな?」
よく見ると、大王の顔色が赤い。それに肩で息をしていた。
「大王様、もしかしてお加減が悪いのでは?」
妖精さんが尋ねる。
「いや、ちょっと熱いだけだ。おい!誰か居るか?」
彼が廊下に向かって声をかけると、外からドアが開かれ近衛兵が顔を出した。
「はいただいま。どうされました?大王様。」
「客人が二人お帰りだ。丁重にお見送りしろ。」
「はっ。わかりました。」
「…それから召使に言って、冷たい水を持って来させろ。いいな?」
「はい。ただちに!」
その後二人は城の外まで送り出された。
「では!」
そう言って素早く近衛兵は去って行った。
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。いいわね?」
妖精さんにそう言われて、力なく頷くサン・ジェルマン少年であった。
元の森に戻ってからも、ずっと落ち込んでいる様子の彼に、妖精さんが話しかける。
「ねえ、大丈夫?大王の言葉に、そんなに失望したの?」
「…うん。彼ほどの実力者でもそうなのかなって。生まれながらのカリスマ性を持ち、アリストテレスから直接学んだ教養を備え、戦術的にも天才的な力を発揮して…。」
「彼はね…もう、本当に限界だったのよ。」
「…どういうこと?」
「彼は、私たちと逢った直後から高熱を出して、10日間寝込むの。そしてそのまま帰らぬ人になるのよ。」
「ええっ!?」
「ひょっとしたら、あれが彼の、最後の元気な姿だったのかもね?」
「…そんな…じゃあもっと、たくさん話を訊けばよかった…。」
「長くても短くても、話は同じよ。あれが彼の考えの全て。」
「妖精さんは、知っててあの場面を選んだんだ…。」
「そうね。私は知っていたわ。」
「でももし、本当にもう一度彼に逢いたいなら、また貴方だけでも訪れればいいのよ。あそこより少しだけ前の時間にね?」
「そう…だね。」
ますます落ち込んでしまったような少年の肩を、妖精さんが優しく抱いた。
「さあ、部屋に戻って、次の計画でも考えましょう。」
部屋に帰ると、少年は妖精さんから、大王にまつわる様々な話を聞いた。
例えば、大王がヘラクレスとアキレスを先祖に持つと言われていること。
トルコの伝説❝ゴルディアスの結び目❞を剣で切ったこと。
そしてそれが、アジア制覇のきっかけになったこと。
広くなり過ぎた王国を三分割して、その統治を部下に任せようとしていたこと。
彼が高熱を出した原因は不明で、もしかしたらそれは、暗殺だったかもしれない、ということ。
そして、彼が亡くなった後、遺体が行方不明になっていること⋯などだった。
多分、落ち込んでしまった僕の気が、少しでも紛れるようにしてくれたのだろう。妖精さんは、やっぱり優しいな。
サン・ジェルマン少年は、素直にそう思ったのだった。




