⑬ 戦後の理想
「その衣装で踊るのだな?」
大王が妖精さんに尋ねる。
「ええ、そうですよ。」
彼女はもう引っ込みがつかなくなってきた。
「では今ここで、一節踊って見せよ。」
「いいですとも。」
すると妖精さんは、その場で適当に振り付けをして、スカートのヒダをヒラヒラさせながら、つま先立ちでクルクルと回った。
そして最後に、スカートの端をつまんで膝を少しだけ曲げて、宮廷風の会釈をして見せた。
彼女は幼い頃、母の勧めでクラシックバレエの教室に通っていたことを、その時、心の底から良かったと思ったのだった。
「うん、見事なものだな。」
大王は満足したようだった。
サン・ジェルマン少年は、尋ねるなら今が絶好のタイミングだと思い、彼に話しかけた。
「恐れながら大王様。一つだけお訊きしてもよろしいでしょうか?」
「なんだ、小僧。不躾なヤツだな。まあ、いい。言ってみろ。」
「大王様は、16歳からずっと戦争を続けて、一度も負けることなく、ついに現在知りうるほぼ全ての世界を、制覇なされました。」
「うん。まさにその通りだな。」
「それは何のためですか?…次は、どうなさるおつもりですか?」
「小僧、質問が二つではないか?」
「…あっ。」
「しかし、答えは一つか。まあいいだろう。教えてやる。」
「ありがとうございます。」
「俺は、我が統治のもとで、世界中を争いのない平和なモノにしたいのだ。」
「おお、やっぱり。」
「…とでも言えば、満足するのかな、小僧?」
「えっ!?」
「父が暗殺された後、俺は最初にマケドニアを武力で制圧し、統治した。その後も15年もの間、ずっと世界を渡り歩いて、戦い続けて来た。俺のカリスマ性に惹かれて、部下たちも長い間ついて来てくれた。最後はインドの北西部まで行ったが、実際には、ゾウに乗った軍隊には敵わなかったよ。」
「…そう…なんですね?」
「戦争は虚しく、どこまで行っても、際限の無いものだ。俺は正直、もうすっかり疲弊した部下たちを、これ以上、この終わりのない旅に巻き込みたくないんだ。」
「…。」
「つまり、立派な理想を持つことは確かに大切だが、何事にも潮時というものがある、ということさ。」
「一人の人間にできることには、限界があると?」
「そうだな。簡単に言えばそういうことだ。」
「…。」
「少年時代、アリストテレスを師に迎えて、様々なことを学んだよ。そのころには、最初に言ったような理想を、本当に目指していた。俺が世界を導くのだとね。」
「でも、貴方はまだ32歳なのに…。」
「逆だな。32歳で気がついて良かったと思っているよ。」
「そうですか。」
妖精さんには、少年がひどく失望しているように見えた。




