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「サン・ジェルマン少年と謎の妖精」(セーラー服と雪女 第15巻)  作者: サナダムシオ


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12/26

⑫ 大王の寝室

 それはちょうど、ギリシア語の勉強が一区切りついたころのことだった。

 いつもお気楽なサン・ジェルマン少年が、珍しく思いつめた顔で、妖精さんに頼んだ。

「ねえ、アレクサンドロス3世…いや、アレクサンダー大王に会わせてよ。」

「いいけど…何故かしら?」

 尋ねる妖精さん。


「どうしても、訊いてみたいことがあるんだ。」

「そう。いいわよ。」

 彼女はあえて、それ以上深く追求しなかった。

 もうすっかり、サン・ジェルマン少年のことを信頼していたのだった。


「そうと決まったら、早速行きましょうか。お出かけの準備は?」

「❝40秒で支度します❞。」彼は笑顔で答えた。

 無論、彼女の課外授業のおかげで、すっかり日本のアニメやマンガの名台詞にも、詳しくなっていたからだった。

 あんまり余計なことを教えるのも、考え物よねえ。

 彼女はほんの少しだけ反省した。


 二人はいつものように森のはずれの広場へ行き、ポータブルタイムマシンを開いた。

「今日は僕が入力するよ。」

「そう、いいわよ。やってみて。」

 マシンを中心に、半径1m以内に二人が収まるようにするため、彼女は少年の背後から覆いかぶさるような姿勢になった。


 思春期の少年は、自分の背中に当たる二つの柔らかいモノや、その他イロイロな感触を無視するのに、かなりの集中力を必要とした。

「どうかしたの?」

 頬を赤くする少年に、妖精さんが吐息と共に耳元で囁く。

「…なんでもないよ。」

 そんな訳無いのである。


 ともあれ、彼女が書いてくれた地図のメモを元に、ダイヤルで入力した目的地のデータは以下の通りであった。

 紀元前323年6月1日22時00分。 

 北緯32度54分。東経44度42分。


 彼はバッテリー充電のハンドルを力一杯回し、起動レバーを倒した。

 周りの景色が滲み出し、やがて落ち着いた。

 どうやら目的地に到着したようだった。



※ ここで毎度お馴染みの注意書きです。

 以下の会話は全てギリシア語で行われています。

 しかし作者の都合で、日本語表記になることをお許しください。




 二人の身の周りは薄暗い。

 ここは屋内の物陰のようだった。

 遠くで喧騒が聞こえる。

 大規模な酒宴の席が設けられている感じだ。


 目を凝らすと、そこは宝石と大理石で調度品を贅沢に設えた寝室のようだった。

 大きなベッドの上に、屈強そうなギリシア人の男が一人、掛布団も無しで大の字の姿で寝ていた。

 すると次の瞬間、その男の目がギロリとこちらを捉えた。

 すぐさま男は飛び起きて、傍らに置いてあった剣を抜いた。

「誰だ!出て来い!」


 数々の戦場で砥ぎ澄まされた男の感覚は、物陰のちょっとした気配も見逃さないのであった。

 二人は大人しく柱の陰から姿を現した。


「…女と…子どもか。どこから紛れ込んだ?」

 アレクサンドロスは尋ねた。

「申し訳ありません、大王様。私どもは旅の芸人一座の者です。広い建物内で、すっかり迷ってしまいました。」

 妖精さんが咄嗟に苦しい言い訳を考えた。


「ふうん。そうか…ドアの前の衛兵まで人払いするのは、良くなかったな。」

 何とかなりそうだった。


「あの…大王様。」

「なんだ?」

「お休み中にお邪魔かと思いますので…私どもは早々に退散いたしますが…。」

 妖精さんは、仕切り直そうと考えたようだ。


「まあ、待て。お前、面白い装束を着ているな?」

「ああ、コレはセーラー服という民族衣装です。」

 そうだよね。まさかこの人の前で❝戦闘服です❞なんて言えないよね。

 サン・ジェルマン少年はビビリながらそう思った。


挿絵(By みてみん)


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