⑩ 高次元の存在
「でも、もちろん、貴方の軽はずみな行動が、もしも高次の存在…貴方たちが❝神❞と呼んでいる者たちの逆鱗に触れ、危険人物として認定されたら…。」
「…どうなるの?」
「この歴史上からの抹消…つまり、この世から抹殺されるわね。きっと。」
「えええっ!?」
「それは肉体的に死ぬことよりも悲惨な運命よ。貴方の魂の存在そのモノが消される。全て最初から無かったことにされるのよ。」
「…そんな。」
「無論、それまでに先祖代々積み上げて来た、精神体の❝徳❞もろともね。」
「❝徳❞のことはちょっとわからないけど、大変な事になるってことは良く分かったよ。」
「そう、それは良かった。じゃあ、早速部屋に戻ってお勉強しましょうか?」
「その前にお腹減ったよ。何か食べようよ。」
「あら、空腹時の方が集中力は出るのよ。」
「勘弁してよお。」
二人は和気あいあいと、でもコッソリ少年の部屋に帰って行った。
その日から、妖精さんによるサン・ジェルマン少年への英才教育は、ますます加速していった。
彼女は定期的なタイムトラベル実践の傍ら、将来の彼のために、各国の語学力を高めることに余念が無かった。
彼女はまるで何かに取り憑かれたように献身的に彼に関わり続けたのだった。
そんなある日の事…。
その日の目的地に合わせた、ダイヤルの数値はこうだった。
紀元前486年2月15日12時00分。
北緯26度45分。東経83度24分。
今日も充電用のハンドルを少年が回し、妖精さんがレバーを倒す、二人三脚でのタイムトラベルの実験だった。
目的地にたどり着くと、またもや洞窟前だった。
どうも歴史上の人物たちは、洞窟に籠りがちらしい。
そして今日も忍び足で洞窟に入る二人。
すると前方の燭台の灯かりの中に、一人の瘦せこけた僧侶姿の老人が横たわっていた。
その周りを、多分弟子たちであろう、たくさんの修行僧たちが取り囲んで泣いていた。
「ここは古代インドのクシナガラ。寝ている彼はゴータマ・シッダールタ。またの名をシャーキヤ族の聖者…つまり釈迦よ。今まさに、彼が入滅する場面なの。」
妖精さんが少年に小声で解説した。
そんな彼女の声を聞きながら、その場の様子をなんとなく眺めていた少年は、あることに気がついてギョッとしたのだった。
「あ、アレは…なに?」
少し震えながら指さす彼に言われて、妖精さんも注目する。
「ああ、アレのこと?彼らはいわゆるエイリアン…つまり異星人よ。」
彼女は何でもないことのように、さらりと言ってのけた。
「ええ!?」
少年は、もうちょっとで大声を出すところだった。




