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第7話

――三智慧人


 雷属性の魔法の使い手である時子はすぐに、俺達を取り巻く魔法の正体に気づいた。

 彼女が使う魔動兵器は、草・雷属性のコンパウンドボウ『カミナリオトシ』。

 時子は、植物を操る草魔法と、放つ矢の威力を爆発的に強化する雷魔法を使いこなす優れた狙撃手だ。


「この波が雷魔法なら、正体は人体に影響を及ぼさない低出力の電気……いや電波かッ!」

「間違いない。敵は私達がビーコンの位置情報を拾えないよう電波妨害を仕掛けているよ」

「クソがあッ!」


 俺は思わずその場で毒を吐く。

 もし今展開されている魔法がボウガイデンパなら、敵は俺達に対して電波妨害を仕掛けることが有効だと判断するだけの知能を持っていることになる。

 もう敵の攻撃は始まっている。

 だとすれば俺達が最初にやる事は……乗客乗員への非常事態宣言だ。


「時子はオヤジに電波妨害を受けていることを伝えろ。俺は乗客乗員に非常事態が起こったことを伝える」

「了解ッ!」


 俺が客室に飛び込むと、竜車の中では和やかな空気の元で夕食が振舞われていた。

 夕食を楽しんでいる乗客には申し訳ないが、俺は大声を張り上げる。


「乗客乗員の皆様非常事態ですッ! 先ほど我々は、本車両に接近するマモノを発見しました。乗客の方々は速やかに着席しシートベルトを締めてください。繰り返します……」


 非常事態が起こったときに最優先事項とされているのは、竜車の緊急加速に備えて乗客を着席させることだ。

 たとえ俺達がマモノを引き付けて竜車を逃がしても、乗客が転倒してケガしたら意味がない。

 航空機の場合は非常事態が起こったら乗客を機体から非難させるらしいが、あいにくここはマモノと凶暴なプレデターが大量に生息している深い森のど真ん中。

 程度の問題だが、危険が迫っても逃げるより救援が来るまで竜車の中で籠城した方が生き残る確率は高い。


「マモノハンターッ! 乗客対応引き継ぎます」

「はい、お願いします」


 俺は乗客対応を客室乗務員に引き継ぐと竜車の先頭に向かう。


「坊主。定期便にマモノが近づいてるって、本当か?」

「はい、間違いありません」


 竜車の先頭に着くと、濃いひげを蓄えた中年男性が竜車を引くトリケラトプスの手綱を握っていた。


「マモノと接触したら俺達が攻撃して引き付けるので、皆さんは全力で逃げてください」

「いつも通りだな」

「いつも通りです」


 メリメリメリメリッ!!


 俺が竜車の御手と今後の対応を確認した直後、事態は動いた。

 間近にあった高さ30メートルを超える大木が轟音と共にこちらに倒れこんでくる。


「クソがッ!」


 これは明らかに竜車を狙った攻撃だ。

 竜車に内燃機関はないので攻撃魔法で車体の一部を破壊しても、竜が生きていれば逃げることができる。

 しかし、目の前にある大木のような大質量の物体がのしかかったら動けなくなる可能性が高い。

 俺は竜車を守るために御者台から跳び上がる。


「ただ弾くだけじゃダメだッ!」


 この木が竜車に直撃するのを避けられても、竜車の前に倒れこんで道を塞いだら逃げられなくなる。

 力の方向は垂直に、この木が道を塞がないよう正反対に弾き返すんだ。

 俺は愛用の魔動兵器は獣・土属性の四尺野太刀『ジリュウ』。

 俺はジリュウを鞘から抜かずに担ぎ上げ、鞘の先端を倒れこんでくる大木に叩きつけた。


 獣魔法≪ケモノノチカラ≫


 ケモノノチカラは魔力を運動エネルギーに変換して噴射する魔法だ。

 ジリュウから放たれた強烈な運動エネルギーは、刀身を覆う鞘を粉々に砕きながら噴出し竜車めがけて倒れこんでくる大木を正反対の方向に押し返した。

 高さ30メートルを超える大木がキッチンスケールのメモリのように跳ね上がり、森の方に倒れこむ。


「これで竜車の逃げ道はクリア」


 背後をうかがうと、3台の竜車は車を引く竜にムチを入れて全速力でこの場から逃走を図っている。

 こうなった以上、俺達の仕事は死んでもマモノをこの場にクギ付けにすることだ。

 俺はジリュウを下段に構え、木の根元にいるマモノに狙いを定める。

 ジリュウの形状は鍔元に魔力器官を埋め込んだ四尺野太刀。

 大型の武器なので打撃力は抜群だが、鞘から抜くのに少し手間がかかる。

 鞘が砕けてしまったのはむしろ好都合だ。

 不意に天眼で強化した第六感が下の方で集束する魔力の流れを感知した。


「マズイ、下から狙われてるッ!」


 獣魔法≪ケモノノハドウ≫


 俺は胸元から運動エネルギーを噴射して空中で後退機動を取る。


 雷魔法≪リュウシホウ≫


 直後、俺の目の前を超高熱の泥が通り過ぎていく。

 泥は射線上の樹木に当たり、木の幹をまるで飴細工のように溶断した。


「あぶねえッ! あんなのくらったら即死する」


 地面に降り立った俺はようやく定期便を襲撃したマモノの正体を知ることになる。


「デンコか厄介だな」


 俺達を襲ったマモノは巨大なネコ科の肉食動物で、獲物の肉を切り裂くための犬歯がまるでナイフのように大きく発達していた。

 マモノ名はデンコ。

 地球では絶滅してしまった大型肉食動物スミロドンが突然変異で魔法を使えるようになったマモノで、魔法によって強化された強靭な身体能力と持ち雷属性の魔法を使いこなす恐ろしい怪物だ。

 俺はデンコに斬りかかるためにジリュウを右肩に担ぐように構える。

 デンコまでの距離は10メートル、ケモノノハドウを使えば一瞬で距離を詰めることができるが不用意に突撃するわけにはいかない。

 敵が雷魔法を使う場合、一番警戒しなければならないのは敵に直接電撃を飛ばす雷魔法≪ライコウ≫だ。

 俺は肉体強化の魔法で脳の思考速度を強化しているので弾速がマッハ3程度の飛び道具なら簡単にかわすことができる。

 しかし、実体を持たず光速で飛んで来る電撃を回避するのは不可能だ。

 状況的に魔法を温存した方がいいと判断した俺は走ってデンコに接近を試みる。

 俺が走り始めるとすぐにデンコの眼前に魔力が集束し始める。


「やっぱり来たッ!」


 俺は迷わず構えていたジリュウを目の前の地面に叩きつけた。


 雷魔法≪ライコウ≫

 土魔法≪カッショクノヤリ≫


 俺はライコウが来るの先読みして目の前にカッショクノヤリを展開する。

 カッショクノヤリは土で作った槍を地面から出現させて隙の大きい足元から敵を攻撃する魔法だ。

 だが、敵が雷魔法を使ってくるなら別の使い方がある。

 俺の目論見通り、デンコが放ったライコウは目の前に出現したカッショクノヤリに吸い込まれる。


「デンコさんよ、電気抵抗って知ってるか?」


 光速で飛んで来るライコウは回避不能の恐ろしい攻撃だが、電気を飛ばすという攻撃の性質上、目の前に空気よりも通電しやすい障害物があればライコウは障害物に吸い込まれる。

 そもそも空気は絶縁体と呼べるレベルで電気抵抗が高い物質だ。

 ライコウは空気の電気抵抗を無理やり突破して放つ魔法なので、適度に水分を含んで通電しやすいカッショクノヤリを目の前に置けば防ぐことができる。

 ライコウを防ぎ距離を詰めた俺が斬りかかろうとするが、デンコは再び魔力を収束し魔法を行使する。


 獣魔法≪ケモノノハドウ≫


 前足から運動エネルギーを噴出し、デンコの巨体が舞い上がる。

 目的は後退。

 せっかく詰めた距離が再び10メートルに離れ状況は振り出しに戻ってしまった。


「手ごわい。戦い慣れてる」


 必殺のライコウを防ぐことは可能でも、ジリュウが届く距離まで近づかないと俺は奴を殺せない。

 あのデンコはそれを理解している。

 おそらくマモノハンターと戦った経験があるのだろう、恐ろしく狡猾で強力な個体だ。

 安全距離を取ったデンコは鋭い犬歯で地面に突き立て、掘り返した土を口に含む。

 マズイッ! 次の攻撃はカッショクノヤリじゃ防げない。


 雷魔法≪リュウシホウ≫


 リュウシホウは口に含んだ土に高圧電流を流して荷電粒子化させた泥で攻撃する魔法だ。

 ライコウと違って実体があるのでカッショクノヤリを避雷針の代わりにすることは出来ない。


 獣魔法≪ケモノノハドウ≫


 幸い実体がある分、リュウシホウの弾速は光速ではない。

 俺は右肩から運動エネルギーを噴射して滑るように移動しリュウシホウを回避する。


 雷魔法≪リュウシホウ≫


 俺が回避運動を取るのを待っていたとばかりに、デンコが2発目のリュウシホウを発射する。

 あいつ、リュウシホウを連射するために荷電粒子を半分残していたっていうのか!?

 加えて狙われているのは俺がケモノノハドウで逃げた先、もはや俺にこの攻撃を避ける術はなかった。


挿絵(By みてみん)

本作を読んでいただきありがとうございます。

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そしてもし宜しければ賛否構いません、感想を頂ければ望外のことでございます。

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